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5話

 今日はクリスマスイブ。二学期終業式で今日は午前放課だった。

「行こ」

 すぐ隣から聞こえた声に、私は顔を上げる。

 ウニが立っていた。急かすこともなく、ただそこにいる。

「……うん」

 短く答えると、ウニは歩き出す。

「今日は、あったかいね」あぁ取り敢えず気温のことから話し始めてしまう私は悲しき恋愛コミュ障。

これも見方によっては通学路デートなんだよ。緊張。


「そうだね、今日は水族館に行こう」

 えっもしかして本当のデート?

 

 電車に揺られ、水族館に着く。

 クリスマスイブだからか、カップルが多かった。

 大きな回遊水槽、群れで泳ぐ魚、小さな展示。初デートって緊張する!!

 ウニは落ち着いていて、私の様子を見ながら、無理のない順番で進んでいく。残念ながらウニ(⚫️)の展示はなかった。ちえっ




 ベンチに座ると、肩の力が抜けた。

「次、イルカショーの時間だよ」

「見たい」

「じゃあ、前すぎないところにしよ。濡れやすいから」

 イルカススタジアムに来ると、一気ににぎやかになった。家族連れも多い。

 音楽、歓声、水の音。

 ショーが始まり、イルカが高く跳ねる。

 光る水しぶきが、空を切る。

 そして――

 大きなジャンプのあと、尾びれが水面を叩いた瞬間。

 ばしゃっ!

 冷たい水が、一気に飛んできた。

「わっ……!」

 二人同時だった。

 思った以上に濡れる。前髪までビッチャビチャだ。

 一瞬きょとんとしてから、顔を見合わせる。

「……濡れたね」

「うん」

 次の瞬間、どちらからともなく笑いがこぼれた。

「思ったより来た」

「逃げ場なかったね」

 また水が跳ねる。

 今度は二人とも、笑いながら受け止めた。

 私の緊張はいつの間にか消えていた。

 ショーが終わり、外に出ると、夕方の空気がひんやりしていた。

「寒くない?」

「ちょっとね」

 途中で気付いたけど、水で濡れて少し下着が透けてるじゃん…まずい。さりげなく寒いと言いながら手を前に交差させて隠そ。

 ウニはそれに気づいて、何も言わずに自分のコートを脱いで

「これ、着て」

「え?」

「乾くまで。風、冷たいし」

 視線を逸らしながら差し出されるコート。

 いつもなら相手に悪いと断っていたけど、ウニならただその気遣いがありがたかった。

「ありがとう」

 コートを羽織ると、体が温まる。ウニの体温を感じる匂いも。…それはちょっと変態ぽいかも。

 そのまま出口近くの売店に立ち寄った。

 棚には、海の生き物のぬいぐるみが並んでいる。

 

 立ち止まったまま動けずにいると、ウニが気づいた。

「それ、気になる?」

「……うん」



「どうぞ」

「いいの?」

「今日の記念」

 レジから戻ってきたウニが、大きなぬいぐるみを両腕に抱えて差し出す。

「はい」

「ありがとう」

 イルカのぬいぐるみだった。かわいい。部屋に飾ろう、抱き枕にもちょうどいいんじゃない?てかこれって間接ハグ?やばい、好きすぎてどんどん変態度が上がってきてる。





 帰り道、海沿いの食堂街で足を止める。

「ここ、寄ってく?」

「うん」

 メニューを見て…見つけた。


「ウニ丼」


「え」

 ウニが一瞬固まる。

「僕も、それにしようと思ってた」

 運ばれてきた丼。丼の上に、鮮やかなウニ。


「ウニがウニ丼食べてる。共食いじゃない?」

「言うと思った」


「「あはは」」

 声を出して笑う。


 よかった水族館でウニ見なくて。水族館行った後に海鮮料理食べるってなんか普段は感じない罪悪感感じるんだよね。

 でもウニなら見ても平気だったかも。


「今日、来てよかった」

「うん」

 夜の道を歩く。

 ウニは、歩道の外側に立つ。


 「轢かれないよウニ、気をつけるよウニ」

 「はいはい」もう軽くいなされ始めてしまった。このイケメン爽やかボーイめ…


 「段差あるよ」

 差し出された手を、少し迷ってから握った。好きな人と手を繋げるなんて幸せ。

 水族館の青。

 イルカの水しぶき。

 ぬいぐるみのやわらかさ。

 ウニ丼の味。

 全部が、胸の中に静かに残っている。


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