3話
お昼休み。
ウニはすっかりクラスのみんなとも打ち解けて、男子達と楽しそうに談笑している。
「ねえねえ、その彼氏いつ知り合ったの?」
友達の声に、私はお弁当の箸を持ったまま笑った。
「えっと……一ヶ月くらい前とか、かな?」今朝と言えるわけない。
「なにそれ〜! 急すぎじゃない?あっ!わかったークリスマスが近づいたからかー」
「まーそんな感じー」
いつも通りの、軽い調子で。
でも内心では、会話の一言一言に神経を尖らせていた。
変じゃないかな。
疑われてないかな。
私が彼氏持ちって、やっぱり違和感あるよね。
隣を見ると、彼は落ち着いた様子でパンをかじっている。周りの視線も気にしていないみたいだった。
「彼、優しそうだよね」
別の子がそう言ったとき、胸が少しだけ軽くなった。
「でしょ?」
つい、素直に返してしまう。
その瞬間、別の声が重なった。
「でもさ」
後ろのほうから、ひそひそとした声。
「正直、意外じゃない?今まで彼氏いなかったのに」
——あ。
私は、笑顔のまま固まった。
悪意がある言い方じゃない。
ただの、何気ない一言。
だからこそ、余計に胸に刺さる。
「そ、そうだよねー」
私は咄嗟に笑って、そう返した。
「私も彼氏ができるなんてびっくりしてるもん」
周りはそれで納得したみたいで、話題はすぐに別の方向へ流れていった。
でも、私の心はその場に置き去りになったままだった。
——やっぱり、そう思われるよね。
今まで自分の恋バナさえしなかった私が、急に彼氏なんて。好きな人ができたことはあるけど。
全部ひっくるめて、「私は恋愛対象じゃない」って、どこかで自分自身が一番思っていた。それで友達にさえも正直に打ち明けられずにいた。
前を向くと彼と目線が合った
(大丈夫?)
口の動きでわかった。その後、、彼が席を外したのでなんとなく私も後をついて行った。
彼は私を待っていたらしかった。
「さっきから、ちょっと無理して笑ってる」
不意に彼はそう言った。
私は一瞬、言葉に詰まった。
大丈夫、って言えばいい。
いつもみたいに。
でも。
「……ちょっと、屋上行かない?」
気づいたら、そう言っていた。
*
冬の屋上は寒くて、空気が澄んでいた。
フェンス越しに見える空は、どこまでも高い。
「ごめんね、急に。冬に屋上なんか」
「いいよ」
彼はそう言って、私の隣に立つ。
しばらく、何も言えずにいた。
沈黙が怖くて、でも言葉を選びすぎて、口を開けない。
「私さ」
ようやく、声を出す。
「明るいって言われるんだけど」
彼は黙って聞いてくれる。
「違うの、ほんとは鏡を見てはいつも病んで、七五三の時だって、写真を撮られるのが嫌で泣き出したり、筋金入りの顔面コンプレックスで。表彰とか良い意味で注目されても、あぁ私の顔見て内心バカにしてるのかなって卑屈になったり」
風がマフラーを揺らす。
「空気悪くなるのが嫌で。誰かを困らせるのが嫌で。それで、自分の気持ち、後回しにして」
喉の奥が、少し痛くなった。
「自分の欠点ばかり……ずっと気にしてて。だから、好きな人ができても、告白なんてできなかった」
ここまで話したのは、初めてだった。
「どうせ、私なんかって思ってたから」
言い終えた瞬間、視界が滲みそうになる。
でも、彼は否定しなかったし、慌てもしなかった。
「そっか」
ただ、それだけ言った。
そして、少し間を置いてから、静かに続ける。
「でもね」
彼は私のほうを見た。
「君がそうやって気を遣えるのも、素直に傷つくのも、全部ひっくるめて君だよ」
私は目を伏せる。
「……顔のことも?」
「うん」
即答だった。
胸の奥が、じんわり熱くなる。
「すぐに信じられなくてもいい。でも」
彼は、少し照れたように笑った。
「少なくとも、僕は君を選んでる」
その言葉に、心が大きく揺れた。
期間限定のはずなのに。
なのに、どうしてこんなに——。
私は、彼を好きになり始めている自分に、気づいてしまった。




