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1話

十二月二十二日。

 放課後の教室には、もう誰もいなかった。

 窓際の席に座ったまま、私は頬杖をついて外を眺める。校庭の端にあるイチョウの木はすっかり葉を落とし、空は冬らしく澄んでいた。

「……クリスマス、か」

 小さくつぶやいて、私はため息をつく。

 世間は浮かれている。街はイルミネーションでいっぱいだし、クラスでも「彼氏と過ごす」「彼女と映画」なんて話題が飛び交っている。でも、その輪の中に私はいない。

 ——いたことが、ない。

 理由ははっきりしている。

 私は、自分の顔が好きじゃなかった。

 鏡を見るたびに気になるのは、少し大きい鼻と、左右で微妙に高さの違う目。雑誌やSNSに載っている「かわいい女の子」と比べるたび、胸の奥がぎゅっと縮む。(卒業したら二重整形でもしようかな)


 誰かを好きになったことは、ある。

 でも、自分から告白する勇気は一度も持てなかった。

「どうせ、私なんか……」

 言葉にすると、余計に寂しくなる。

 そのとき、机の中に入れっぱなしだった一枚の紙が、ふと指に触れた。

 小学生の頃、担任の先生が配ってくれた「サンタさんへのお手紙用紙」。赤い枠と、ちょっと子どもっぽいイラスト付きのそれを、なぜか私は今まで捨てられずにいた。そしてクリスマスが近づくとなんとなくいつも持ち歩くようにしていた。願い事はまだ書いていない。小学生に上がる頃にはもうサンタなんて信じていないませた子供だった。

 ——もし、サンタさんが本当にいるなら。

 私はペンを取り、紙の上にそっと書き始めた。

『サンタさんへ

 プレゼントは、彼氏がほしいです』

 一瞬、手が止まる。

 恥ずかしくて、顔が熱くなる。でも、そのまま続けた。

『優しくて、私の顔を見て笑わない人。

 できれば、私が自分を嫌いじゃなくなるのを、手伝ってくれる人』

 書き終えると、胸の奥が少しだけ軽くなった。

「……ばかみたい」

 そう言いながらも、紙を折りたたんでカバンにしまう。

 

 その夜。

 家族が寝静まったあと、私はこっそり手紙を靴下に入れてベッドの横に置いた。

 願いが叶うなんて、思っていない。

 ただ、少しだけ夢を見たかっただけだ。

 


     *


 

 翌朝。

「……え?」

 目を覚ました私は、ベッドの上で固まった。

 視界の隅に見える靴下は、ぺちゃんこじゃなかった。

 中に、何か——いや、誰かが靴下を履いている。(不審者?どうしようもう一度寝たふりをしたほうがいい?)

「おはよう」

 突然落ち着いた声がして、私は思わず悲鳴をあげそうになる。

 靴下を履いて、床に座っていたのは、同い年くらいの男の子だった。背が高い。黒いコートに赤いマフラー。どこか不思議な雰囲気をまとっている。

「サンタさんからの、プレゼントだよ」

「……え?」

 男の子は微笑んだ。その笑顔は、からかうようでもなかった。

「僕の名前はウニ、君が注文した“彼氏”。期間限定だけどね」

 頭が追いつかない。てか名前、ウニなん

「クリスマスは明後日だよ…しかも期間限定……?」

「うん。クリスマスが終わるまで」

 そう言って、彼は私をまっすぐ見た。

 私は反射的に視線をそらす。でも——

「隠さなくていい」

 優しい声だった。

「君の顔、ちゃんと好きだよ」

 胸が、どくんと鳴った。

 それは、今まで一度も聞いたことのない言葉だった。



  *



 私は人生で一番、緊張していた。

 リビングのドアの前で深呼吸を三回。

 後ろには、黒いコートの男の子——私の期間限定の彼氏、ウニが立っている。

「……大丈夫だ」

 彼は小さくそう言ってくれたけど、

 私の心臓はまったく言うことを聞いてくれない。

「おはよー」

 意を決してドアを開けると、

 キッチンから母の声がした。

「起きた? 朝ごはんもうすぐ——」

 そこで、母の動きが止まる。

「……あら?」

 母の視線が、私の後ろに立つ彼に向いた。

「えっと」

 私は一気に言う。

「知り合いの……家の事情で、しばらく泊まることになった人!ウニっていうの!」

 自分でも苦しい言い訳だと思った。

 でも。

「そうなの?」

 母は彼を一度見て、にこっと笑った。

「寒いでしょ。中入りなさい」

「ありがとうございます」

 彼はきちんと頭を下げた。

 その様子を見て、母は満足そうにうなずく。

「礼儀正しい子ね」

 ——え?

 あっさり、受け入れられた。

 ダイニングでは、父が新聞を読んでいた。

「おはよう」

 母が言う。

「今日からこの子、しばらくうちにいるって」

「ふうん」

 父は新聞から目を離し、彼を一瞬見たあとまた視線を戻した。

 

 拍子抜けするくらい、反応が薄かった。

 

 朝食を食べながら、母が言う。

「空いてる部屋あるから使っていいわよ」

「ありがとうございます」

 即答。

 私は思わず、彼の横顔を見る。

 ——この人、本当に不思議。

 


 

 学校へ向かう途中、私は小声で聞いた。

「……ねえ、なんでこんなに普通に受け入れられてるの?」

「さぁ?」

 彼は肩をすくめる。

「サンタの仕事は、違和感を残してはいけないから。そもそもそれくらいできないでどうやって厳重なセキュリティのマンション暮らしの子供達にプレゼントを届けられるの?」


 ・・・そういえば、窓にも鍵をかけたはずなのに部屋に入られてた。


「すごい仕事……」

 




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