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最強「庭師」ユーリの任務録 ~天才剣士は今日も「日常」を守るために働く~  作者: タツダノキイチ
第三部

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庭師と騎士と覚悟

陞爵と私の養子入りが決まってから数日。

私とアナスタシア様の婚約が発表され、町中が祝賀ムードに包まれる。

私はなんとなく町を歩きにくいような感覚を持ちながらも、いつも通り仕事に邁進していた。

「よっ。貴族様。哀れな庶民にお昼をお恵みくだせぇな」

「なに言ってるんですか、ラッツさん。後輩に奢るのは先輩の役目でしょ?」

「ははは。そうだな。ていうか、心配したんだぜ。お貴族様になったらユーリが辞めちまうんじゃないかってな」

「それはありませんよ。なにせ、その戦力を買われて貴族にさせられたんですから」

「まぁ、そうか。で、今日の昼はなんにするよ?」

「そうですね。ごぼ天うどんなんてどうです?」

「お。いいな。追加で肉もつけちまおうぜ。ライナ、行くか?」

「ごちそうさまです!」

そんないつも通りの会話がなんとも楽しい。

そう思いながら、私たちは立ち食いのうどん屋に行き、肉を追加したごぼ天うどんを堪能した。


昼を食い終え、ラッツさんたちと別れて市場に向かう。

足りなくなっていた食材を買い足し、詰所に戻ると、ノルドさんから呼び出しがかかった。

「結婚式はまだちょっと先だったな?」

「はい。そろそろ任務かと思ってさっき食料を買い足してきたところです」

「そうか。そいつは勘がいいな」

「で、どこですか?」

「北西の山の中腹だ。イワノシタの状況を見るついでに、いろいろ見てきてくれ」

「了解です。明日には出られますのでさっそく準備に取り掛かります」

「ああ、ちょっとまった。その前にもう一つ頼まれてくれ」

「なんでしょう?」

「ああ、近衛騎士団から訓練のお誘いだ。制圧戦の訓練をしたいんだってよ。コーエンにも頼んでおいたから二人で行ってきてくれ」

「了解しました」

「じゃあ、よろしくな」

あっさり任務を了承し、事務室に戻る。

そして、適当に書類仕事をやっつけると、私はいつも通り自宅へと戻っていった。

いつも通り迎えた夕食の時間。

「明日、訓練と聞きました」

「ああ。制圧戦の訓練に付き合ってくれ。あと、対戦を希望している者がいるから、その相手をしてやってくれると助かる」

「対戦? 誰ですか?」

「セレナだ」

「……なるほど」

「ああ、おそらくアナスタシア様付きの騎士として、お前にひと言物申したいんだろう。すまんが適当に話を聞いてやってくれ」

「かしこまりました。全力で相手をします」

「助かる」

そんな話をしてから離れに戻る。

私はきっとセレナのことだから、まっすぐにぶつかってくるんだろうな、と思い少し微笑みながら木刀に軽く拭いをかけた。

翌朝。

いつも通り裏庭で型の稽古をしてから、朝食を作る。

(こうして自分で朝食を作るのも、あと少しのことになってしまうんだろうな。それはそれで寂しい気もするが、毎朝ハンナさんの朝食が食えるとなるとそれは楽しみだ)

と思いながらベーコンエッグを焼き、リルとマロンが起きてくるのを待った。

防具を着け、騎士団の訓練場に向かう。

訓練場に着き、軽く体を動かしていると、コーエンさんとカイゼルさんが並んでやってきた。

「おはようございます」

「ああ。おはよう。調子は良さそうだな」

「ええ。完璧です」

「ではさっそく訓練に移ろう。ユーリとコーエン殿はとにかく、騎士団の陣形を崩すように動いてくれ。おそらく陣形を変えて何回かやってもらうことになるから、覚悟しておいてくれよ」

「了解です」

軽く了承し、コーエンさんと少し話をする。

「いつも通りでいいか?」

「了解です。背中は任せてください」

「おそらく盾同士でぶつかることになるから、援護は期待せんでくれ」

「わかりました。隙を見て背後に回りましょ」

「わかった。タイミングは任せる」

いつも通り簡単に作戦を立てると、私たちはさっそく訓練場の真ん中へと向かっていった。

結果、午前中だけで五回も戦い、昼になる。

「あの盾を突破するには、やはり前衛を増やすしかないだろうか?」

「いや。そうすると相手の後衛に動き回られることになります」

「ということは遊撃隊の動きに工夫が必要だな」

「ええ。思い切って魔法使いを遊撃に回すともっと面白くなるでしょう」

などと話しながらみんなで楽しくミートボール入りの山盛りパスタを頬張る。

そして、午後。

いよいよ、個人戦の練習が始まった。

コーエンさんも何人か相手にするようで、お互い訓練場の東西に分かれる。

私はまず若手の挑戦を受け、それを難なく退けると、次の対戦相手を待った。

「お願いします!」

気合のこもった声を出し、セレナが名乗りを上げてくる。

私は重々しくうなずき、木刀を正眼に構えた。

(どんどん打ち込んでこい。いくらでも受け止めてやろう)

そういう気概で全身に魔力を巡らせていく。

するとセレナも同じように魔力を循環させ始めた。

(ほう。身体強化を覚えたか。ずいぶん苦労したんだろうな)

と思いつつ、相手の出方を見る。

セレナは最初じりじりと距離を詰めてきていたが、私が動かないのを見ると、

「たぁっ!」

と気合の声を上げ、真っ直ぐ打ち込んできた。

袈裟懸けの一刀を正面で受け、木刀を軽く捻る。

するとセレナが勢いよく転がった。

驚いたような顔のセレナに視線を送り、また正眼に構える。

「……くっ!」

セレナの顔に悔しさが滲んだ。

「たぁっ!」

またセレナが正面から突っ込んでくる。

今度は袈裟懸けではなく、私の足元をすくいにきた。

すっと下段に木刀を下げ、その一撃を受け止める。

そのままくるっと体を回し、軽く踏み込んで木刀を振ると、木刀はきっちりセレナの首筋を捉えた。

また悔しそうな顔をしながらセレナが立ち上がる。

私は少し距離を取り、また木刀を正眼に構えた。

そこからは本格的な打ち合いになる。

セレナは十分に身体強化を使い、私の隙を突こうと攻めてきたが、私はその剣をことごとく打ち払った。

「まだだ!」

そう叫んでセレナが攻めてくる。

私はそれを落ち着いて受け、すっと力を引き、セレナがつんのめったところでまた首筋に木刀を突きつけた。

「それで終わりか?」

あえて挑発的な言葉を掛ける。

セレナが怒りの形相で立ち上がり、

「ぬおぉっ!」

と叫びながら激しく木剣を打ち込んできた。

(そうだ。そうやって全て吐き出せばいい。これからは家族同様の付き合いになるんだ。お互いわだかまりを残しておいてはいけない。全部だ。全部を出し切って攻めてきてみろ)

そう思いながら、セレナの剣を受け止める。

そして、二十分もすると、セレナが膝をついた。

ぜぇぜぇと肩で息をするセレナに近寄り、

「覚悟は伝わったぞ」

と声を掛ける。

するとセレナはキッと私を睨みつけ、

「ユーリ殿にお覚悟はあるのか?」

と問うてきた。

「これから全力で愛を育んで見せよう。きっと幸せな家庭を築いてみせる」

自分の想いを正直に告げる。

するとセレナは私を見上げ、

「その覚悟、そばでじっくり見させてもらおう」

と言い、一筋の涙を流した。

そんなセレナに手を伸ばす。

するとセレナは「ふっ」と笑い、さっと私の胴に木剣を突きつけてきた。

「……ははは。ついに一本とったぞ、ユーリ殿」

そう言ってニカッと笑うセレナに、

「ああ。その覚悟受け取った」

と答える。

セレナは、また「ふっ」と笑って立ち上がると、

「その言葉、決して忘れないでくれ。私の剣は常にアナスタシア様のためにある。そのことをしっかり心に刻みつけておいてくれ」

と言い右手を差し出してきた。

硬い握手を交わし、試合が終わる。

私はボロボロになったセレナの後ろ姿を見送りながら、

(幸せになってみせよう)

と心の中でつぶやいた。


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