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最強「庭師」ユーリの任務録 ~天才剣士は今日も「日常」を守るために働く~  作者: タツダノキイチ
第三部

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庭師と凱旋

「よくやりましたね……」

頭の中に世界樹の声が響く。

暗い闇の中に一筋の光が差したような気分だった。

その感覚に心地よさを覚え、再び意識を手放す。

どのくらい眠ってしまったのだろうか?

私が再び意識を取り戻したのは夕暮れだった。

全身に走る痛みに顔をしかめつつ、なんとか這うようにして起き上がる。

「わっふ!」

リルのふわふわとした体を抱きとめようとしたが、私はそのまま押し倒されてしまった。

「ユーリ、大丈夫?」

「ああ。大丈夫だ」

「痛いの?」

「ああ、全身な」

「くぅん……」

「ははは。大丈夫だ。ちょっと体を起こすから手伝ってくれ」

「わっふ!」

今度はリルに手伝ってもらいながら体を起こすと、そこにマロンがやってきた。

甘えてくるリルを撫でつつ、

「どのくらい寝てたんだ?」

と聞いてみる。

「二日とちょっとかのう」

という答えに私は素直に驚いた。

「どうりで腹が減っているわけだ」

と冗談のつもりで言ったがその瞬間「ぐぅ」と腹が鳴る。

私が驚いているとマロンが、

「ふっ」

と小さく笑い、

「起きたのなら飯にせい」

と言ってきた。

おそらく照れ隠しなんだろうが、いつものマロンについつい笑みを漏らす。

「あいよ」

と気安く答え、私はなんとか立ち上がった。

全身に痛みが走る。

それでもなんとか収納の魔道具を開け、米と卵を取り出した。

「すまん。おじやでいいか? いくらなんでもいきなり肉はまずいだろうからな」

「致し方あるまい」

そう言ってとりあえず米を炊き作り始める。

そしてその間に防具を外し、全身をくまなく調べてみた。

どうやら骨折は無いらしい。

おそらく防具のおかげだろう。

しかし全身の筋肉が激しく傷んでいた。

左腕に受けた毒の後が痛々しくただれている。

私はそこに傷薬をたっぷり塗り込むと丁寧に包帯を巻いていった。

痛み止めの薬も飲み、とりあえずの処置を終える。

再び防具を着ける時、かなりの痛みが走った。

それでも、なんとか通常の格好に戻り、米の方に目を向ける。

少し焦げたような匂いはしていたが、米は美味しそうに炊きあがっていた。

ハンナさん特製スープの素で作ったスープにご飯を入れ、卵を混ぜ入れる。

軽くかき混ぜ、具合をみるとふわふわの卵がなんとも美味しそうな見た目のたまごおじやが完成した。

「いただきます」の声が揃いさっそく食事が始まった。

久しぶりの食事が一気に私の体に染み渡っていく。

全身の血管が開くような感覚があり、一気に私の意識がはっきりし始めた。

(やっぱり飯だな……)

そう思っている私に、リルが、

「やっぱりお米は美味しいね!」

と嬉しそうに話しかけてくる。

「ああ。そうだな。みんなで食うとよけいに美味い」

そう返すとリルが嬉しそうに甘えてきた。

「こらこら、食事中だぞ」

と言いつつも笑顔でリルを撫でてやる。

そうやって私は久しぶりに飯を食い、久しぶりに心から笑った。

あくる日。

ヒュドラの素材を確認する。

炎に耐え、燃え残った素材は特大の鱗、二、三十枚ほどだった。

(あれだけの巨体からこれだけしかとれないのか……)

と妙にけち臭いことを思いつつ、回収を諦め、その場を後にする。

帰路もリルとマロンに頼み、積極的に索敵しながら帰ることにした。

たっぷり十日ほどかけて転戦し、ようやく森の中層に出る。

するとそこでリルが、

「みんなの匂いがするよ!」

と教えてくれたので、アリエスに頼み、急行してもらった。

一時間ほどで、オークロード率いる大規模な群れとみんなが交戦している場面に出くわす。

私は迷いなく刀を抜くと、勢いよくオークロードに向かっていった。

「ユーリだ!」

誰かの声がして、

「おぉ!」

と歓声が上がる。

私はその声を嬉しく思いつつ、オークロードに斬りつけた。

あっけなく倒れたオークロードを見て刀を納める。

そして振り返ると、そこには仲間たちの元気な顔があった。

「ちょっと待ってろ。すぐに終わらせる」

コーエンさんがそう言って再び戦場に戻っていく。

私はそんなみんなが残党狩りをしているのを頼もしく見て、不覚にも涙をこぼしてしまった。

(勝ったんだ……)

改めて勝利の喜びが湧いてくる。

ひとりでいる時にはこんな感情にはならなかった。

ただ淡々と勝利を受け入れるだけだったのに、今はなぜか熱いものがどんどん込み上げてくる。

そんな私のもとにコーエンさんが再びやってきて、

「泣くやつがあるか」

といつも通り渋い笑みを浮かべながらそう言ってきた。

「ははは。すみません。つい」

そう言ってゴシゴシと顔をこする。

そんな私の肩にコーエンさんが手を置き、

「よくやった」

と言ってくれた。

「よっしゃ!」

「勝ったぞ!」

と勝鬨を上げるみんなのところに歩み寄る。

みんなからは、

「よっ! 英雄様!」

とか、

「ご褒美もらったら奢れよ!」

という気さくな声がかけられた。

そのひとつひとつに笑顔で応え、みんなと肩を組み、握手を交わす。

私はそこでようやくこの戦いの終わりを悟り、心の底からほっと息を吐いた。

まだ周辺の探索をするというコーエンさんたちと別れ、森の出口を目指す。

アリエスが急いでくれたのもあって、二日ほどでいつもの村に到着した。

作戦本部になっている宿に直行する。

そこにはノルドさんがいた。

「ユーリ、無事だったか!」

「はい。勝ちました」

「そうか……」

それ以上言葉にならず泣きながら抱き着いてくるノルドさんに、

「みんなの勝利です」

と告げる。

ノルドさんは涙を拭きながら、

「ああ。そうだな」

と言い、いつも通りニカッと笑ってくれた。

その後、ベヒーモスとヒュドラの位置など戦いの概要を伝えてから風呂に入らせてもらう。

久しぶりのお湯はかなり傷口に染みたが、それでもほっとして、

「ぬはぁ……」

と息を漏らしてしまった。

ほかほかになった体で久しぶりのベッドを堪能する。

私は泥のように眠り、起きたのは次の日の昼前だった。

ゆっくり昼飯を食い、ノルドさんに状況を尋ねる。

戦況はこちらが優勢らしいが、薬草の群生地への影響は少なくないということだった。

軽傷者多数も重傷者無しという報告にほっとしつつ部屋に戻る。

そして、甘えてくるリルと久しぶりに遊んで過ごし、たっぷりの夕飯を食べて、再び眠りに就いた。

翌朝早くに宿を発つ。

昨日の段階で王都には早馬を送ったらしいので、もう状況は知れ渡っているだろうと思いつつも、早く家族に会いたいという私の願いを聞き、アリエスはかなりの速度で走ってくれた。

夕方、無事家に辿り着く。

王城の門をくぐったところで厩舎に戻っていくアリエスと別れると、私はすぐに我が家を目指した。

いつものように勝手口に回る。

台所へ通じる扉を開くと、ハンナさんがびっくりした顔で出迎えてくれた。

「ただいま」

そう言う私にハンナさんが抱き着いてくる。

「おかえりなさい」

という声は涙ぐんでいた。

ハンナさんの背中を優しくさすり、

「今晩は何ですか?」

と少し冗談めかして言う。

そんな私の胸の中でハンナさんはクスッと笑い、

「今夜はカレーよ」

と言った。

リビングでノンナにも挨拶する。

ノンナはいつも通り明るく、

「おかえり!」

と言って出迎えてくれた。

その後、慌てた様子で帰ってきたカイゼルさんに勝利を報告する。

「よくやった」

そのたったひと言で私の苦労は報われたと思えた。

みんなで食堂に向かい、懐かしい食卓に着く。

「から揚げもカツもハンバーグものせ放題よ」

ハンナさんの明るい声がみんなの笑顔を誘い、いつもの夕食が始まった。

「わっふ! ハンバーグ大好き!」

「やはりハンナのカレーは特別じゃて」

「あはは! なんかこの感じ久しぶりだね」

「ああ。やっと家族がそろったな」

「ええ。やっぱりこれが一番落ち着くわね」

「そうですね。やっと帰ってきた実感がわいてきましたよ」

そんなことを話しながら楽しい笑顔が食卓にこぼれる。

私はその光景を見て、心の底から報われたような気持ちになった。


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