わんこと謁見01
とにかく仲間になったリルと一緒に現場の後片付けを始める。
リルはマロンと違い、積極的に手伝ってくれた。
みるみるうちにオークの山がいくつもできていく。
私はその神獣ならではの怪力ぶりに感心しつつも、出来上がったオークの山に次々と火魔法で火をつけていった。
ものの十分で後始末が終わる。
かつてはオークだった灰の中から魔石を取り出し、数えてみると、魔石は全部で八十五個だった。
「よくもまぁ、こんだけ湧いてきたもんだな」
「ええ。斬りも斬ったりですよ」
「こんだけたむろしてたとなりゃ、周辺にもなにかしらの影響が出てるだろうな。帰りはその辺を見回りながら帰るぞ」
「了解です」
そう言って、その場を離れ、盆地から出る。
盆地のへりにある少し小高くなったところにつくと、私たちはさっそく野営の準備を始めた。
「今日はリルの歓迎会じゃ。いつもよりちと豪華な飯にせい」
「やった! 人間って美味しいご飯を食べるんでしょ? 僕知ってるよ。世界樹に習ったもん。楽しみだなぁ」
「ふっ。こやつの飯はそれなりに美味いぞ。しかし、今は外だからな、それほどの料理は期待できん。帰ったらハンナが存分に腕を振るってくれるだろうから、そっちの方に期待しておれ」
「うん! よくわかんないけど、ユーリのお家に着いたら美味しいのがいっぱい食べられるってことだよね?」
「おう。そうじゃ、そうじゃ。リルはものわかりがよいのう」
「えへへ!」
嬉しそうにはしゃぐ二人を見て軽く苦笑いしつつ、持ってきた中では一番大きな鍋でシチューを煮込む。
やがてハンナさん特製のシチューの素を使ったルーがいい感じにトロッとなってきたところで、みんなに、
「出来たぞ。待たせたな」
と声を掛けた。
「お。待ってました!」
「うむ。なかなか良い香りをしておる」
「なんだかうきうきする匂いだね!」
そう言ってすでに幸せそうな笑顔を浮かべる三人にシチューを出してやると、
「「「いただきます!」」」
の声が揃いみんなががっつくようにシチューを食べ始めた。
私もひと口食べ、
(うん。やっぱりあの肉屋の鳥ハムは美味い。しっかりと凝縮されたうま味がシチューにより深いコクを与えているな。これは配給品の鶏肉じゃ味わえないからな。わざわざ買いに行って良かった)
という感想を抱く。
そんな私にリルが、
「これ美味しいね! もっと食べたい!」
と素直にお替りを要求してきた。
「あんまりたくさん作ってないから、一杯だけな」
と言いつつも喜んでお替わりをついでやる。
そこからは、「俺も!」「わしもじゃ!」とお替わりの要求が相次ぎ、私たちは満腹で温かい夕食を終えた。
「美味しかったなぁ。もっといっぱい食べたくなっちゃった!」
「ははは。それはよかった。なに、家に帰ったらもっと美味しい物をたんまり作ってもらえるからな。楽しみにしていてくれ」
「うん!」
そんな言葉を交わす私たちの間に明るい空気が流れる。
きっと一仕事終え、みんな緊張の糸が少し緩んだのだろう。
その日は、珍しくマロンが、
「どれ。連戦で疲れたじゃろう。夜の番はわしがやってやるゆえ、お主らはゆっくり眠るがいい」
と言ってくれたので、ありがたくその言葉に甘え、ゆっくり休ませてもらった。
なにごともなく迎えた朝。
さっさと準備をしてさらに森の奥へと進む。
数日かけていくつかの薬草の群生地を見回ったが、幸い大きな被害は出ていなかった。
「三分の一くらい踏み荒らされたところもあったが、あれくらいならそのうち復活するだろう。ひとまず安心といったところだな」
というノルドさんの言葉にうなずき、さっそく帰路に就く。
帰路は森の浅い所に居ついてしまった鹿の魔獣を追い払う作業を行うことになっていた。
そこでもリルが手伝いを申し出てくれたが、マロンがすかさず、
「あまり人間を甘やかすでないぞ。任せるべきは任せ、どうしても危ないという時に助けてやるのが我らの仕事ゆえな。その辺りの塩梅はこれからじっくり教えていってやろう」
と口を挟んできたので、いつも通り私とノルドさんの二人でことに当たることになった。
行きに見つけた鹿の痕跡を追っていくつかの群れを発見する。
鹿は五十ほどの大所帯になっていた。
「あいつらの突進はバカにできねぇ。しっかり防ぐから一瞬で片を付けてくれよ」
「了解です」
と事前に示し合わせた通り、ノルドさんが鹿の強烈な突進を軽々と止め、その隙に私が狩っていくというやり方で、鹿を殲滅し、無事、今回の任務を終えた。
そこからはさっさと森を出ていつもの村に入る。
当然のようにリルが注目を集めたが、私が、
「神獣様だから怖くはないぞ」
と説明すると、村人たちはわりと落ち着いて、リルを受け入れてくれた。
仔馬ほどの大きさがあるリルもなんとか宿に入り、久しぶりに屋根のある寝床を満喫する。
リルは初めて入る人間の住処に興味津々で最初のうちはキョロキョロしていたが、そのうち慣れてくると、その大きな体を床に投げ出し、スヤスヤと眠りに就いてしまった。
翌日。
またみんなの視線を集めつつ街道を進む。
宿場町でもリルは大注目を浴びたが、本人はあまり気にしていないようで、
「人間がいっぱいいて面白いね」
と楽しげに笑っていた。
そして翌日の昼。
王都に着くとさっそく城に先ぶれを出す。
私たちは詰所に寄り、さっと身なりを整えつつ、城からの呼び出しを待った。
思ったよりも早く迎えの騎士がやってくる。
私とノルドさん、そしてリルとマロンは連れ立って、王城へと向かっていった。
「ねぇねぇ。王様ってどんな人?」
「優しくて立派な方だ」
「そっか。この国で一番偉い人なんでしょ? なんだかそわそわしちゃう」
「ああ。私もいつもそわそわする。でも大丈夫だぞ。私が付いているからな」
リルには事前にいろいろ説明していたが、話を聞いて少し緊張しているようだ。
そんなリルの首筋を軽く撫でてやりながら歩いていると、すぐに王城の門に到着した。
「すぐに謁見の間へ」
執事にそう告げられ、まっすぐ謁見の間に向かう。
王城の中でもひときわ豪華で大きな扉をくぐると、そこには王族を始めとする貴族がずらりと並んでいた。
「うわぁ、人がいっぱいだね。どの人が王様?」
「あの一番高い所に座っておられるのが我が国の王だ。前に教えた通り、失礼の無いようにな」
「うん!」
そんな会話が聞こえたのか、周りから「おぉ……」という小さなどよめきが上がった。
そのどよめきの中を進み王の前に跪く。
リルもきちんとお座りして王をまっすぐ見つめていた。
「ようこそフェンリル殿。リルと名乗られたと聞いたが、リル殿とお呼びしてよいか?」
王の第一声にまた小さなどよめきが起こる。
その問いにリルが、可愛らしく、
「うん。いいよ!」
と答えるとまた貴族たちがざわめいた。
「あれ? 僕ちゃんとできてなかった?」
と不安げに私を見てくるリルに、
「大丈夫。リルがきちんとお返事できたのが凄くてみんな驚いただけだからな」
と応え軽く首筋を撫でてやるとリルはさも嬉しそうに、
「わっふ」
と鳴いた。
その様子を見て、王が微笑みながら、
「フィッツランド王国国王の名のもとにリル殿を王家の友人として迎え入れよう。さっそく今夜歓迎の宴を開き、みなに紹介したいと思うが、いかがなか?」
とリルに告げる。
リルは一瞬きょとんとした顔をしていたが、私が、
「歓迎会を開いてくれるらしい。大丈夫か?」
と囁くと、パッと目を見開き、
「美味しいご飯がたくさん出てくるの?」
といかにも可愛らしいことを言ってきた。
「ああ。王宮の料理人総出で歓迎の料理を作らせよう。リル殿はなにがお好きかな?」
「えっとね。お肉! あ、でもお野菜も好きだよ! ユーリが作ってくれるものは美味しいからなんでも好きなの!」
「ほう。そうか、そうか。では、我が国の名物料理をたくさんご用意しよう。楽しんでくれるとありがたい」
「うん。楽しみにしてるね!」
そんな和やかな会話で無事謁見が終わる。
私たちが部屋を辞そうとすると、執事がさっと近寄ってきて、私の耳元で、
「詳しいお話はサロンで」
と囁いた。
それにうなずき、謁見の間を出ると、さっそく案内についたメイドに従いサロンに向かう。
サロンに入ると、そこには当然のように王族一同と近衛騎士団団長であるカイゼルさんが待ち構えていた。




