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最強「庭師」ユーリの任務録 ~天才剣士は今日も「日常」を守るために働く~  作者: タツダノキイチ
第三部

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王家の食卓2

ユーリが世界樹との対面を終え、帰ってきてからというもの、公務で忙しい日々が続く。

すぐに開いた軍務関係の会議はそれなりに熱を帯びたものになった。

各貴族への負担割合の配分や各国との調整に時間を取られる。

(なんでこんなことを)

と思わないでもなかったが、それでも、それが王である私に託された使命なのだと思って日々の業務に邁進していった。

そんな中、ついにその時を迎える。

ユーリが森の異常を感知したらしい。

すぐにアリエス殿に確認に行くと、おそらくそうだろうという答えだった。

頭を抱えたくなる気持ちを抑え、各方面への指示書や各国への書状をしたためる。

内容は多岐にわたったがひとつひとつ確認しながら宰相と共に作業を進めていった。

それから数日。

ユーリが森に向かったという報告を聞く。

報告を上げてきたカイゼルに、

「どう思う?」

と率直に尋ねると、カイゼルは重々しくうなずき、

「信じております」

と答えてきた。

「大丈夫です」と言い切らない辺りに若干の不安を覚えつつも、

「そうか。ならば私も信じて待つより他なかろう」

と答えておく。

それからはカイゼルと共に防衛計画の概要を確認し、承認した。

数日経ってようやく公務が落ち着く。

おそらくあと数日も経つと各国からの情報が入ってきて、その対応に追われるだろうから、束の間の休息ということになるだろう。

基本的なことは現場に任せて私は統治機構の制御に専念するのが筋だと思っているから、おそらく、これから行われる各国との連絡調整と戦後処理が課題になってくる。

私はそう思い、いろいろな場合に我が国がどう動くべきかを立案し始めた。

そういうとき私の癖で一番嫌な場合から考え始める。

ユーリが破れ、魔獣の氾濫が人間の生活圏にまで及んだ場合の想定をしてみた。

そうなった場合、人類の存亡を賭けた戦いになるだろう。

出したくもない被害想定を頭の中ではじき出してみるが、そこには絶望の二文字しかなかった。

次に、氾濫が予想以上でユーリは勝利したものの、近隣の森で魔獣が跋扈する状態になってしまった場合を考える。

人的被害はそこまででもないだろうが、森の資源に頼る我が国の経済基盤はどん底まで落ちてしまうだろうということが容易に想像された。

その想定を頭の中で振り返り、深いため息を吐く。

(もし、そうなった場合、他国へ支援の要請を行うことになるが、どの程度応じてもらえるだろうか? おそらくエルフとドワーフは協力的だ。しかし、人間の国となると、我関せずというところも出てくるだろう。なんならこの機会を逃さず攻めようというところも出てくるかもしれん。そうなったら、厄介なことこの上ないな。今のうちからできるだけ手を打っておきたいが、必要以上に我が国の弱みを見せてもいけない。これは塩梅が難しいぞ)

と思いながら、各国の情勢を記した書類に目を通していく。

いくつもの書類をひっくり返すように見て、私はまたため息を吐いた。

経済の衰退、人口の流出、技術流出による回復困難な打撃。

いろんなことが頭の中を駆け巡る。

(もしそうなった時、私は家族を守り抜けるだろうか? 王という立場上家族よりも国民を優先しなければならない。そうなったら家族には犠牲を強いることになるな。特にアーニャには負担をかけてしまうだろう。本人が望まない結婚など強いたくはないが、私は王として命じなければならないはずだ。きっとアーニャは受け入れてくれる。しかし、そんな犠牲の上に成り立つ平穏は一時しのぎにしかならない……)

そう考えると、無性に頭を掻きむしりたくなった。

そんな衝動を抑え、最も楽観的な場合を想像してみる。

ユーリが勝利し、森もなんとか平穏なまま維持できるという未来だ。

それも各国ともにそうなると考えると、なかなか難しいことだということに気付いた。

(最も平穏にことが収まったとしても、森林資源の回復には数年の歳月を要するだろう。最低限のやりくりはなんとかなる。しかし、貴族には応分の負担を強いなければならない。非協力的な諸侯の中には他国に寝返る者が出てこないとも限らないな。となると、その辺りは早めに釘を刺しておかなければ……)

そう思って貴族名鑑を開く。

南部の諸侯は辺境伯家に協力的な家が多い。

その辺境伯が裏切れば、南部の諸侯はこぞってそれに賛同するだろう。

そんな未来を予想し、私は辺境伯に充てた親書を書き始めた。

そんな公務に疲れた体を引きずるようにして家族の食堂に向かう。

(ああ、最近は忙しさにかまけて家族との時間をおろそかにしてしまっていたな)

と反省しつつ食堂の扉をくぐると、そこには心配そうな顔で私を見つめる家族の姿があった。

「すまんな。待たせたか?」

苦笑いでそういう私に妻のスフィアが、

「ずいぶんお疲れのご様子ですわね。やはりお仕事は忙しいの?」

と気遣わしげに尋ねてきた。

「ありがとう。大丈夫だよ。ああ、そう言えば、辺境伯殿の奥方がこちらに遊びに来ているのだったね。どうだい。お茶会を開いてお招きしないか?」

「それはいいですわね。ハンナのお菓子を出すと言えば喜んで来てくださいますよ」

「そうか。それは良かった。もし、可能なら私は辺境伯領との貿易の話をしてみてくれ。辺境伯領産のワインにかけている関税を引き下げれば王都の民も喜ぶと思うんだ」

「それはいいですね。ついでに綿織物についてもお考えになってみてはいかがですか?」

「そうだな。繊維産業といえばエメルシス大公国だから、そっちとの調整も必要になるだろう。しかし、製品によってはある程度融通が利くということは知っておいてほしいものだな」

「かしこまりました。そうお伝えしますね」

「ありがとう。助かるよ」

そんな政治の話から入ったせいか、硬い雰囲気で食事が始まる。

そんな中で唯一私たちの心を和ませてくれたのは、孫のチャールズだった。

「じいじ。あのね。今日ね。お花摘みしたの。いっぱい摘んだからあとであげるね」

「おお。それはありがとう。どんなお花か楽しみにしているよ」

「えへへ」

無邪気に喜び不器用にハンバーグを頬張るチャールズを見て頬を緩ませる。

そのおかげで食卓にほんの少しいつもの和やかさが戻ってきた。

「お父様。最近、腰の具合はいかがですか?」

「ああ。シャーリー先生のお灸が効いたらしくてね。ここしばらくはいいよ」

「それはよかったですわ。最近、エメルシスから取り寄せた本を読んでいたのですが、腰痛の原因は複雑で体のどこが悪いのか判断しづらいということが書かれておりましたの。ですから私心配で」

「ありがとう。アーニャは優しいね」

「いえ。お父様にはずっと健康でいて欲しいですから。なんならスーちゃんを何日かお貸ししましょうか? 抱いていると不思議と心が落ち着くんですよ」

「はっはっは。そうか、それは興味があるな。時間ができたら抱かせてもらおう」

「ええ。きっと効果てきめんですわよ」

そう言ってくれるアーニャの微笑みに、こちらも目を細めて応える。

するとアーニャが少し照れたようにうつむきながらも、

「全部、ユーリさんのおかげですわね」

とどこか嬉しそうにつぶやいた。

「ああ。彼はこの国の宝だ。帰ってきたら褒美を取らせねばと考えているよ」

「まぁ。そうですの? それはようございますわ。その時は是非私にもお品物選びを手伝わせてくださいましね」

「もちろんだとも。ユーリにはとびっきりの褒美をあげようと思っているからね」

「そうですのね。でも、ユーリさんは何をもらったら一番喜ぶのかしら?」

「どうだろう? 武器は十分にいい物を与えているから、それ以外がいいかもしれないね」

「では、お洋服か宝石でしょうか? ……いえ、それもあまりピンときませんわね」

そうやって私とアーニャが考え込んでいるところに王太子のレイサスが、

「爵位はどうするのですか?」

と聞いてくる。

「ああ。それはカイゼルも考えているだろうから、任せているよ」

と答えると、レイサスは、

「この際、強引に与えてしまった方がいいかもしれませんよ。あの親子のことです。そういうことには無頓着でしょうから、任せていては時間がかかりすぎるでしょう」

と苦笑いでそう指摘してきた。

「そうかもしれんな。ではこちらから強引に命ずることにしよう。とりあえず、カイゼルに養子に迎える意思があるのかを確認せねばならんな」

「ええ。ついでにカイゼルも陞爵させたらどうです?」

「ん? なんでだ?」

「それは……」

レイサスはそこで少し言い淀み、アーニャの方に視線を向ける。

アーニャはきょとんとしていたが、私はすぐにピンときて、

「そうだな。今回のことが上手くいけばそのくらいの価値はあるだろう。スフィア。すまないが、辺境伯の奥方に追加でグランフォード家を陞爵させる計画があることを伝えておいてくれ」

「かしこまりましたわ。うふふ。とっても素敵ですわね」

「ああ」

そう言って微笑みを浮かべる私たちに向かってアーニャが、

「ユーリさんは地位を喜ぶでしょうか?」

と少しずれた質問をしてくる。

どうやら本人はまだなにも気付いていないらしい。

私はそのことを微笑ましく思いながら、

「もちろん、それだけじゃないぞ。そうだな。ユーリは食いしん坊だと聞いているし、あの家にはハンナもいるからな。よし、褒美は各地の名産品にしよう。きっとそれが一番喜んでくれるぞ」

と答えた。

「まぁ、それは素敵ですわね。では私も頑張ってもっと美味しいクッキーが焼けるように練習しませんと」

「そうね。それは素晴らしいことだわ。アーニャ。私もお台所に興味がありますから、次は一緒にまいりましょう?」

「はい、お母様。よろこんでご一緒いたしますわ」

「うふふ。美味しいクッキーが焼けるようになるといいわね」

「はい!」

元気な返事で無邪気に喜ぶ娘を見る。

そして私は父として、娘の幸せを第一に考えながら、心の中で、

(必ず勝てよ、ユーリ)

と未来の息子に激励の言葉を送った。


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