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最強「庭師」ユーリの任務録 ~天才剣士は今日も「日常」を守るために働く~  作者: タツダノキイチ
第三部

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庭師と謁見とお茶会

無事帰還した翌日。

さっそく王城から呼び出しがかかる。

当然そうなるだろうと予測して朝から正装に着替えていたので、私はさっそく王城に向かった。

いつも通り謁見の間に通され、王に帰還の報告をする。

その場で簡単に世界樹から風魔法の力を授かったと話すと、周りにいた貴族たちが軽くどよめきの声を上げた。

「詳しい状況についてはこの後軍務部門の会議を開きそこで説明してもらう。まずはご苦労であった。いったん下がるがよい」

そう言われて謁見の間を辞する。

しかし、ほどなくして、会議室に呼ばれそこでさらに詳しい説明をすることになった。

とりあえず、世界樹とはどこにあって、どのような存在だったかという質問には少しはぐらかすように、

「私はアリエス殿に連れられていったので、詳しい場所はわかりません。しかし、神獣の同伴なしで行けるような所ではないと感じました。なにしろ竜をはじめとした恐ろしい魔獣の巣窟の中にあったのですから。それと世界樹はごく普通の木に見えました。おそらく知らない者がみたら他の木と区別がつかないでしょう。それもやはり神獣の力がなければ見分けることすらできないのだと知りました」

とだけ答える。

質問した軍務卿はやや不満そうにしていたが、なんとなくその場はそれで収まってくれた。

それからは兵站の確保や警戒態勢の構築についての話し合いが行われる。

予算関連のことはよくわからなかったが、各地の貴族の中にはいまだに積極的な協力を拒む勢力も一定数いるらしく、王は厳しい表情をしていた。

そんな王に王太子が、

「大丈夫です。父上。国庫には若干の余裕があります。まずはその余剰金を使いましょう。非協力的な諸侯にはその後応分の負担を求めればいいだけです。なんなら加算して税を徴収してもいいかもしれません。それできっと目を覚ますでしょう」

と意見を述べる。

それに対して王は、

「それも一案だが、それでは一時の懲罰になるだけだ。非協力的な諸侯には後日街道の大規模整備を命じよう。国に生かされ、国を生かすということがどういうことなのか知ってもらういい機会になる。為政者の側に立つということはどういうことか、きっと思い知ってくれるだろう」

と、さらに重い内容の言葉を言った。

(政治の世界というものは恐ろしいものだ)

と心底思いつつ、会議の行方を見守る。

そして昼休憩を挟み、午後も一通りの話し合いが行われたところで無事会議は終わった。

ほっとして肩の力を抜いた私のもとに見知ったメイドが近づいてくる。

用件はやはり、

「ユーリ様。アナスタシア様からお茶のお誘いがございます。よろしければサロンにお越しください」

とのことだった。

どことなくウキウキとした気分でサロンに向かう。

メイドがおとないを告げ、サロンの扉を開くと、いつも通り優しく微笑むアナスタシア様が、

「ユーリさん。お待ちしておりましたわ」

と明るく出迎えてくれた。

「ただいま帰還いたしました」

「おかえりなさいませ。さぞかしお疲れでしょう」

「いえ。昨日十分に休息を取らせてもらいましたので、今すぐにでも任務に戻れるほどです」

「あら。それは頼もしいことですわね。でも、今日はぜひくつろいでいってくださいまし」

「ありがとうございます。恐れ入ります」

そんな挨拶を交わし、席に着かせてもらう。

テーブルの上には色とりどりのお菓子が並んでいたが、そのうちの一つはなんとも素朴な見た目をしたクッキーだった。

「これが手ずからお作りになったクッキーですか?」

「はい。お恥ずかしいですが、わりと上手く焼けましたのよ」

「素晴らしい出来ですね。さっそくいただきます」

「ええ。召し上がれ」

そう言ってさっそく口に運んだクッキーはなんとも素朴で愛らしい味がした。

「美味しいです。優しい味がします」

「そう言っていただけると嬉しいですわ」

「ノンナが言っておりましたが、アナスタシア様には料理の才能がおありとか」

「まぁ。ノンナちゃんがそんなことを? お恥ずかしいですわ」

「いえ。このクッキーを食べて確信しました。アナスタシア様には料理の才能がおありです」

「あら。ユーリさんもお世辞をおっしゃることがあるのね?」

「お世辞ではありません。本心です」

「……ありがとう存じますわ」

そう言ってアナスタシア様が軽くうつむき頬を染める。

私はその姿をなんとも可愛らしいと思いつつ、またクッキーを口に運んだ。

そこからは今回の任務の話になる。

「大変なお仕事だったんでしょうね」

「はい。楽な仕事ではありませんでした」

「では、怖い思いもなさったんでしょう?」

「ええ。とても怖い思いをしました。しかし、そのことで自分がより成長できたと思っております」

「あら。怖いと思うことと成長がどうつながりまして?」

「私はこれまで本当の意味での怖さを知らずに生きてきました。生意気なことを言うようですが、それは人よりも才能に恵まれていたからだと思います。しかし、竜に対峙した時、初めて自分の力の及ばない存在があるのだということを知りました。思えば神獣たちもそうです。私は気軽に接していますが、本来、彼らは人知の及ばない存在です。そういう本物の恐ろしさを知る存在を目の前にしながら、私は自分の才覚に過剰な自信を持ち、それを当然の権利だとでも思っていたのです。しかし、違いました。私程度の才覚の持ち主では到底及びもつかないものがこの世界にはたくさんあります。それは世界樹や神獣のような私たちとは別の視点を持つ存在もそうですし、先ほど会った王もまたそのような存在だと知りました。政治の世界は正解のない暗闇のようなものです。その暗闇の中で必死に一筋の光を見出そうと努力されている王は本当に素晴らしいお方だと感じました。本当にこれまでの自分がいかにちっぽけであったかを知った瞬間恥ずかしくなるほど自分の無力さを実感したのです」

「そんなことはありませんわ。ユーリさんは十分優秀な方ですわよ」

「ありがとうございます。しかし、その無力感が私に成長のきっかけを与えてくれました。本当の意味で私の力をどう使えばいいのか、誰のために生きるのか、そういうことに気付くことができたのです」

「それは素敵なことですわね。ユーリさんはなんのために生きようと思われたのですか?」

「家族のためです。家族を守るというのは単に自分の家族を守るというだけにとどまりません。この国、いや、世界中にいる全ての人たちの家族の笑顔を守るということです。その小さな一歩がやがて大きな波となり、この世界を平和に導いてくれるのだと、そう痛感しました」

「素晴らしいですわね。私もこの国のみんなが笑顔で暮らしてくれることが一番の願いなんですよ。でも、それには世界中の人々が笑顔で暮らせる理想を掲げないといけないのですね」

「はい。大きすぎる理想かもしれませんが、結局その大きな理想を求めない限り足元の幸せも守れないのだということに思い至りました」

そう話したところで、ふと話が重たくなり過ぎたと感じ、

「申し訳ございません。ご託が過ぎました」

と少し恥じつつ、そうアナスタシア様に伝えた。

「いいえ。とっても素敵なお話でしたわ」

と言ってくれるアナスタシア様になんとも困ったような笑みを返し軽く頭を掻く。

それを見てアナスタシア様は、「うふふ」と可憐に笑い、

「さぁ。もっと召し上がってくださいませ。なにしろたくさん焼きましたのよ」

と言って私にクッキーを勧めてきた。

「きゅっ!」

と鳴いてスーがクッキーを要求する。

それにアナスタシア様が、

「ええ。スーちゃんもたんと召し上がれ」

と言ってクッキーを与え、スーが満足そうに、

「きゅっ!」

と鳴いた。

私もまたクッキーを口に運び、頬を緩ませる。

楽しい時間はあっという間に過ぎ、サロンが西日で満たされた。

「またお誘いしてもいいかしら?」

「ぜひ」

そう挨拶をしてサロンを辞する。

私はなんとも言えない幸福な感情に満たされつつ、王城を後にした。


夕食を済ませ、離れに戻る。

リルが甘えながら、

「僕もアーニャのクッキー食べたかったな」

と言うので、

「今度お会いしたときにおねだりしてみるといい。きっと喜んで作ってくださるぞ」

と笑顔で返した。

「うむ。人間にはわからんだろうが、純粋な魔力の持ち主が作ったものは美味いものなんじゃ。純粋な魔力は純粋な人柄に宿るものじゃてな。そして人柄は味に出る。だからこそ、本当によい料理人は人柄もしっかりしているものなんじゃ」

マロンが妙に達観したことを言うが、なんとなくそれに納得する。

(確かに、ハンナさんの料理は美味い。おそらく技術的なものもたくさんあるんだろうが、最終的にはハンナさんの人を思う気持ちが味になっているような気がする。私もこの力を使う時はきっと人のことを思って使おう。私の刀は必ず誰かのために振るわれなければならない。そのことを忘れるなよ)

私は自分にそう言い聞かせ、これから待ち受けているであろう事態に対する決意を新たにした。

そっと夜が更けていく。

私は自然と降りてきた眠気を感じると、甘えてくるリルを伴いのんびりと寝室に向かっていった。


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