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最強「庭師」ユーリの任務録 ~天才剣士は今日も「日常」を守るために働く~  作者: タツダノキイチ
第三部

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庭師の帰還

世界樹との対面を終え、無事帰路に就く。

帰りはさすがに竜種との対戦はないと聞き、安心してアリエスに跨った。

しかし、竜種との対戦が無いだけであとは相変わらずの旅路が続く。

私はボロボロになった防具と刀でなんとかそれを乗り切った。

「風魔法、ずいぶん使えるようになったわね」

「ああ。おかげ様で実戦には事欠かなかったからな」

「あら。言うわね」

「少しくらい愚痴を言わせてくれ。ここ二か月近くずっと戦闘の連続だったんだ」

「世界樹に選ばれたんだから、そのくらいで愚痴をこぼさないの」

「……」

「ははは。まぁ、よいではないか。そろそろ森の出口じゃろ。宿に着いたらゆっくり休むがよい」

「僕、ハンバーグが食べたいな」

「お。いいのう。わしもハンバーグの口になってきたわい」

「あなたたちねぇ……」

そんな会話も心地よく思いながら、森の出口を目指す。

そして、アリエスの足のおかげもあって、その日の夕方にはいつもの村に着いた。

宿に入ってさっそく風呂に入り、旅の垢を落とす。

そして、私たちは大盛りのハンバーグを食べると、どっと出てきた疲れに身を任せ、泥のように眠った。

翌日。

昼前に宿を発つ。

アリエスがほんの少しその力の片鱗を見せてくれたおかげか、その日の夕方には無事、王都の門をくぐった。

すぐさま門番に頼んで王城に報せをやってもらう。

私は詰所に顔を出し、無事終わったことを報告した。

「そうか。よくやった。詳しいことは明日だ。今日はゆっくり休んでくれ」

というノルドさんの言葉に甘え、さっさと帰宅する。

いつものように母屋の裏口に回ると、井戸端にいたハンナさんが駆け寄ってきた。

バッと抱きつき、

「おかえりなさい……」

という声は少し涙ぐんでいる。

私はそんなハンナさんを優しく抱きとめ、

「ただいま帰りました」

と囁いた。

少し嗚咽するハンナさんを促し、母屋の中に入っていく。

リルはすかさず、

「すき焼きがいいな!」

と言ったので、今晩の夕食はすき焼きにすることになった。

「むう。明日はもつ鍋にせい」

というマロンの要望はハンナさんにしっかり伝わったので、きっと明日はもつ鍋になることだろうと思いつつ、食堂に向かう。

食堂に入るとそこにはノンナの姿があった。

「おかえり。どうだった?」

いつもと変わらない感じで迎えてくれるノンナに、

「ああ。なんとかなったよ」

と苦笑いで答える。

するとノンナはニコッと笑い、

「やっぱりね。ユーリならなんとかすると思ってたわ」

と言ってきた。

「ははは。そりゃずいぶん信用されたもんだな」

「ええ。だってユーリよ? 失敗するはずがないじゃない」

「そう言ってもらえるのは嬉しいが、今回はさすがに肝を冷やした」

「あら。なにがあったの?」

「竜が出たんだ」

「え? 竜ってあの竜?」

「ああ。絵本に出てくるやつより、大きくて凶暴だったぞ」

「すごっ。ねぇねぇ、その話詳しく聞かせてよ!」

「ああ。それは構わんが、食事の後な」

「えー」

「みんなそろっているところでちゃんと報告したいんだ」

「それもそうね。食後のお楽しみにとっておくわ」

「ありがとうな」

気の置けない会話をしているところにカイゼルさんがやってくる。

おそらく私が帰ったと聞いて急いで食堂に駆けつけてくれたんだろう。

カイゼルさんはまだ仕事着のままだった。

「ただいま帰りました」

「ああ。大丈夫だったか?」

「ええ。なんとか。その辺りの詳しい話は食後にでもちゃんとお話しします」

「そうだな。まずはたっぷり食べてくれ。今日は何を作ると言っていた?」

「リルの要望ですき焼きになりました」

「そうか。それはめでたい日にぴったりだな」

「はい。楽しみです」

そう話して固い握手を交わす。

カイゼルさんの表情はどこか柔らかく万感の思いが込められているように思われた。

やがて食事が始まる。

食事はいつもの通りで、

「あ! そのお肉僕のだよ!」

「なにを言っとる。わしが先に目をつけておったんじゃ」

「こらこら。仲良く食べなさい。お肉はまだたっぷりありますからね」

「はーい」

というような話をし、みんなが笑顔ですき焼き鍋をつつく。

そして無事〆のうどんまで食べ終わり、そこからはお茶の時間になった。

「詳しく聞こうか」

「はい。まず、世界樹からは風魔法の力を授かりました」

「そうか。それはいいな。ユーリの戦闘形態と相性がいいだろう」

「はい。帰路、ちょっと試しましたが、ワイバーンに苦労しなくなりました」

「なるほど。それは羨ましいことだ。して、その他には?」

「はい。アリエス曰く、氾濫の日はそう遠くないそうです。各国が協力して監視体制を強化しろということでした」

「わかった。さっそく各地と連携を図ろう」

「ありがとうございます」

「で、その氾濫の概要はわかるか?」

「いえ。そこまでは。ただし、氾濫の中心には竜種より強力な魔獣が出る可能性が高いということでした」

「なにっ!?」

「そこには私がぶつかることになります」

「そうか。神獣殿も力を貸してくれるのだろう?」

「おそらくは。しかしあくまでもこれは人間の戦いです。リルたちの力を当てにすることは許されません」

「そうか。覚悟を決めたのだな?」

「はい。今回の旅で私は竜種と対峙し、恐怖を知りました。生まれて初めて失うことの怖さを知ったのです。だからこそ、守りたいという想いがいっそう強くなりました。この戦い、なんとしても勝ち、人々の幸せを守ってみせます」

「うむ。それでこそ我が一番弟子だ」

カイゼルさんとの話が終わると、そこにノンナが、

「ねぇ。で、その竜ってどんなのだったの?」

と目をワクワクさせながら聞いてくる。

私は、

「ちょっと待ってろ」

と言い、いったん席を立つと、荷物の中から竜の鱗を取り出した。

「うわ。おっきい。これなぁに?」

「これが竜の鱗だ」

「え!? こんなの大きなのが鱗? ってことは全体は……」

そう言ってノンナがなにやら想像を巡らせるような仕草をする。

しかし、ノンナはすぐに諦めたような感じで、

「想像もつかないわ」

と言った。

「体高だけで十数メートルあったな。尻尾までの長さなら軽く二十メートルを超えているだろう」

「でかっ!」

「それに口から火を噴くんだぞ」

「マジで!?」

「ああ。防具に防御術式が組み込まれてなかったら今頃丸焼きにされているところだったよ」

「……恐ろしいわね」

「ああ。人生で初めて恐ろしいと思った」

「ユーリが恐ろしいと思ったの? それこそ想像がつかないわ」

「おいおい。人をなんだと思っているんだ」

「かけ値なしの天才」

「……それは褒めすぎだ」

「そう? でもあながち間違ってはいないと思うけど」

「世界樹に同じようなことを言われたよ。お前はまだ怖さを知らないガキンチョだってね」

「へぇ。世界樹って意外と辛辣なのね」

「ああ、実際はもっと優しい言葉で語り掛けてきたぞ」

「でも、内容は一緒なんでしょ?」

「ああ。怖いもの知らずに本当の慈しみはわからない。だから、怖い思いをして本当の慈しみを知れ、と言われたな」

「あはは! 世界樹ってなんだかお父さんとお母さんを足したみたいな存在なんだね」

「そう言われてみればそうだな。そんな感じだと思ったよ」

そんな話に花が咲く。

そして私の話が一段落すると、今度はノンナが私の留守中の出来事を語ってくれた。

どうやらハンナさんとノンナは度々アナスタシア様のお茶会に招かれたらしい。

そこで、なんとクッキー作りをしたそうだ。

それも、アナスタシア様の希望で何回か行われ、ついにアナスタシア様は一人でクッキーを作れるようになったのだとか。

「アナスタシア様はきっと料理の才能があるのね。手際もいいし、飲み込みが早いのよ」

「そうなのか?」

「ええ。なんていうのかしら、加減が上手なの。まるでお母さんみたいだなって思ったわ」

「それはすごいな。いつかそのクッキーをいただける日がくるといいが」

「あら。それならきっとすぐよ。だって、ユーリが帰ってきたらお茶会に誘う約束をしていたんでしょ?」

「ああ。そんなことも話したのか?」

「ええ。私アナスタシア様とお友達になったのよ」

「それは光栄なことだな」

「うふふ。アナスタシア様ってばけっこうお茶目なところもあるから、とっても親しみやすいの」

「それはなんとなくわかるような気がするな」

「でしょ?」

そこからも家族の話は尽きない。

ハンナさんがいつもの癖で料理を六人前作ってしまって、翌日の朝ごはんが前の晩の残り物になってしまったという話を聞きなんとなく心苦しいような気持ちになる。

当のハンナさんは笑っていたが、やはり寂しい気持ちを抱えていたのだろう。

私は改めてこの家族に囲まれている幸せを想い、前世の自分に、

(大丈夫だ。お前の人生は報われたぞ)

と言ってやった。


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