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最強「庭師」ユーリの任務録 ~天才剣士は今日も「日常」を守るために働く~  作者: タツダノキイチ
第三部

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庭師と世界樹への旅03

翌日。

アリエスの足で一気に山頂付近の尾根に出る。

小休止を兼ねて辺りを一望するが、広大な森以外なにも見えない。

呆気に取られつつぼんやり景色を眺める私に、アリエスが、

「目の前にあるのは広大な盆地よ。よく見てみなさい。周りをぐるっと山が囲んでいるでしょ?」

と教えてくれた。

言われてみると確かに私の立っている尾根はずっと向こうの方まで続いているように見えた。

「この盆地の中央に世界樹があるわ」

さらりとすごいことを言ってくるアリエスに驚きの目を向ける。

「安心しなさい。この中に入ると、中央に行くにしたがって魔獣は徐々に少なくなっていくわ。だから、最初の関門さえ突破したらあとは楽なものよ」

そう言ってくるアリエスの言葉に、ふと引っ掛かりを感じ、

「その最初の関門っていうのは?」

と聞くと、アリエスは少しシニカルな感じで微笑み、

「怪物よ」

と言った。

その言葉に軽く慄いていると、足元にいたマロンが、

「なに。ただの竜種じゃて。なんとかなる範囲じゃわい」

と言ってくる。

「いや。竜種と言えば、この世界最大の脅威だぞ? なんでそんなものを相手にできると思っているんだ?」

と慌てて言う私にマロンが、

「世界樹はできると判断したということじゃ。できなければ人間の世界の平和が壊れてしまうかもしれんから、せいぜい頑張れよ」

と言うと、リルも続き、

「ユーリなら大丈夫だよ」

と言ってきた。

「おいおい……」

思わずそうつぶやいて軽くため息を吐く。

(まったく。世界樹は何を考えているんだ? 会ったら文句のひとつも言ってやらねばならんな)

と思い、ふと自分が、その試練を乗り越えて世界樹に会いに行くことが決まっているかのようなことを思っていることに気が付いた。

(なんだ? この根拠のない自信は? しかし、どこかそう思うのが自然に思えてくる。なぜだろうか? ああ、そうだきっとそれはリルやマロンがいてくれるからなんだ。私は心のどこかで、万が一の場合は二人が助けてくれると思っていた。だからこれまでも安心して戦えていたんだ。いかん。そういうのは油断につながる。二人の存在は頼もしいが、あくまでもこれは人間がその存亡をかけて臨む戦いだ。神獣は人の味方だが、常に力を貸してくれる存在じゃないということをもう一度肝に銘じておかなければ。竜種を相手にするなら、小さな油断で足元をすくわれかねないぞ。気を引き締めろ)

そう思って軽く「ふぅ……」と深呼吸する。

「わっふ! がんばろうね、ユーリ!」

おそらく考え込む私を心配してくれたのであろうリルの言葉を心強く思いながらも私は、

(その関門とやら、私自身の力で乗り越えてみせる)

と心に誓った。

けっこうな速さで山を下っていく。

しかし、中腹を少し過ぎたところで日が沈みかけてきたので、その日はそこで野営をすることになった。

「この辺りなら魔獣に襲われることはないからゆっくり休みなさい」

アリエスの言葉にほっとしつつ、夕飯を作る。

(さて。何を食ったものか?)

と迷ったが、昨日倒したワイバーンの肉を使って丼を作ることにした。

「お米だ!」

とはしゃぐリルを微笑ましく思いつつ、ハンナさん特製の出汁の素を使って薄く切ったワイバーンの肉を軽く煮ていく。

少し甘めに味を調えご飯を盛った丼にのせると、牛丼風のワイバーン丼が完成した。

「いただきます」の声を揃えてさっそくがっつく。

甘く味付けしたタレとワイバーンの肉から溶け出した脂がさらに違う甘みの相乗効果を生み出し、疲れた体にじんわりとしみていった。

「おいしいね!」

とリルが笑う。

私も微笑んで応えると、リルはまた嬉しそうに器用にご飯を食べ始めた。

やがてお腹が落ち着き食後のお茶にする。

(やっぱり米の後は緑茶に限るな)

そんなことを思いつつ、満天の星以外なにもない空を見上げた。

自然と家族の顔が浮かんでくる。

そして、なぜかアナスタシア様の笑顔が浮かんだ。

(そうだ。帰ったらお茶会に誘っていただけるんだったな。その時はハンナさんに言って特別に美味しいお菓子を用意してもらおう。なにがいいだろうか? 今の気分だとかなり甘い物がいいな。イチゴののったショートケーキにしようか? それともずっしり系のクルミのタルトがいいだろうか? きっとアナスタシア様の好みはイチゴのショートケーキだろうな。なんとなくそんな気がする)

そんなことを思い自然と頬を緩ませる。

(おかしなものだ)

自分でもなぜそんなことを思ったのかと不思議に思いつつまたお茶を飲み、「ふぅ……」と息を吐く。

夜空に輝く星たちはただ私を静かに見つめ、静かにキラキラと瞬いていた。


翌朝。

いよいよ山を下りる。

山麓に広がる森に入った瞬間、ただならぬ気配を感じた。

「さっそくお出ましじゃぞ」

マロンの言葉に思わず唾を飲む。

「ユーリ。がんばってね!」

無邪気なリルの応援に私はなんとか微笑んで返すと、

「いくわよ」

と言うアリエスの導くまま、そのおぞましい気配に近づいていった。

二時間ほど行き、森の切れ目を抜けたところでその巨体が目に入ってくる。

開けた草原の中央にそれはただ堂々と佇んでいた。

赤黒い体に大きな翼を持った巨体。

鱗は見るからに堅そうで、明らかに凶暴そうな目を鈍く光らせていた。

「グオォォッ!」

とてつもない咆哮が辺りに響く。

私は体の芯から震えるような感覚に襲われ、物の見事に怖気づかされてしまった。

(いかん。気合で負けてどうする!)

自分になんとかそう言い聞かせ、アリエスから降りる。

相手はただ堂々として動かず、王者の風格で私の方を睨みつけてきた。

「ふぅ……」

深く息を吐き、刀を抜く。

どう対応していいかなんてわからない。

しかし、この難局に立ち向かえなければ私にもそして人間の世界にも未来は無いと思うと、自然と立ち向かう勇気が湧いてきた。

もう一度呼吸を整え、全身に魔力を巡らせる。

(最初から全力でいく。でなければ勝ち目はない!)

そう思い極め、私は全力で竜に向かい駆け出していった。

不意に膨大な魔力の気配を感じる。

(やばい!)

そう思ったが私にはもはやどうすることもできないと思った。

渾身の力を込めて刀を振る。

目の前には巨大な炎の塊があり、あっけなく私を包み込んだ。

(これは……)

諦めにも似たような気持ちでそれを正面から受ける。

そこで、私の防具に仕込まれていた防御術式が発動した。

猛烈な炎が私の手前で綺麗に弾かれ、外に流れていく。

私はその炎の流れを見て、美しいとさえ思ってしまった。

(なるほど。これは人類最大の脅威となるわけだ)

となぜか達観したようなことを思った瞬間、ふと、我に返る。

(ふっ。なにを呆けている。この戦い、まだ始まったばかりだぞ)

自分で自分にそう言い聞かせると、私の中で何かが吹っ切れたような気がした。

「うおぉぉっ!」

自分でも驚くほどの叫び声を上げ、全力で竜に立ち向かっていく。

ただ全力で駆け、全力で刀を振るった。

また飛んできた魔法を刀で両断する。

恐ろしいほどの熱量があるだろうその炎がぱっくりと割れ、また防具の防御術式が反応した。

全身全霊という言葉に違わぬ勢いで斬り込んでいく。

私はまだ堂々として動かない竜に、

「舐めるなっ!」

と罵声を浴びせつつ、思いっきり斬りつけた。

そんな自分を客観的に見つめる自分がいる。

(いかん。流されるな。怒りや恐怖に流されて自分を見失ってはいけない)

そう思うが、目の前の恐怖にどうしても体が反応してしまう。

私は激昂する自分と落ち着けという自分の間で揺れ動きつつ、目の前にいるまさしく壁のような竜の体に刀を振るい続けた。

やがて、つまったような感覚がありながらも、何かを斬った手応えを得る。

「グオォォッ!」

また恐ろしい咆哮が辺りに響き渡った。

ものすごい音圧に体が震える。

(負けるな! ここで退けば未来はないぞ!)

私は自分にそう言い聞かせ、ただひたすらに刀を振った。

「ぐわっ」と体を持っていかれそうな風圧を感じ、ふと我に返る。

すると、目の前で竜がその巨体をゆっくり宙に浮かせようとしていた。

(いかん!)

瞬時にそう思い、飛び上がって刀で足の辺りを斬りつける。

しかし、その瞬間、ものすごい量の魔力を浴びせられ、私はあえなく地面に叩きつけられてしまった。


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