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最強「庭師」ユーリの任務録 ~天才剣士は今日も「日常」を守るために働く~  作者: タツダノキイチ
第三部

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庭師と世界樹への旅01

合同軍事演習を無事終え、各国の代表団を送った後、すぐさま旅の支度を整え始める。

世界樹というのがどこにあるかわからないから、どの程度準備したものだろうかと思ってアリエスに聞くと、

「一か月もあれば着くわよ」

ということだったので、通常の任務より多めに食料を調達しておいた。

念のため、防具と刀を整備に出す。

ちらりと見た武器屋のゴードンさんが、

「けっこう使ったな。刀の方はどうってことねぇ。ちょいと叩けばそれでいいだろう。防具の方は三日くれ。ちょいと調整するついでにミノタウロスの角で強化しといてやるよ」

と言ったので、任せて三日後に取りに行くことにした。

バタバタと事務仕事に追われたりしているとあっという間に三日経つ。

ゴードンさんの店に顔を出すと、ゴードンさんは不在だったが、妻で魔道具職人のメイベルさんから、

「防具にはちょっとしたおまじないをかけておきましたからね。がんばって」

と言われた。

どうやらメイベルさんは防具に防御魔法の術式を組み込んでくれたらしい。

「ありがとうございます」

と素直に礼を言い店を後にする。

家に帰っていつものように食堂に顔を出すと、カイゼルさんが、

「いつ出発の予定だ?」

と聞いてきた。

「防具と刀が今日仕上がってきましたから、いつでも出発できます」

と答える。

するとカイゼルさんは重々しく一度うなずき、

「出発に先立って王よりお言葉がある。明後日の午後で調整しておくから、開けておくように」

と言ってきた。

素直に応じていつもの食卓を囲む。

どことなく緊張感が漂う中、リルとマロンが夢中になって骨付きチキンにかじりつく様が、みんなの心を少し和ませてくれた。

翌日を事務仕事にあて、留守中の調整をお願いする。

庭師の仲間は口々に激励の言葉を贈ってくれた。

「なにも心配しちゃいねぇが、とりあえず無事で帰ってこい」

そう言うノルドさんに見送られ詰所を後にする。

そして、自宅に戻り風呂に入ると、なんだか妙な緊張感が湧いてきた。

(さて。なんだろうか、この妙な胸騒ぎは。いかん。どうやら緊張しているらしい。自分で言うのもなんだが、珍しいな。まぁ、それはそうか。これからいよいよこの世界の平和の分岐点になるかもしれない場面に向かおうとしているんだ。普通に、緊張するよな……)

そう自分に言い聞かせてお湯をパシャンと顔にかける。

二、三度ゴシゴシと顔をこすって「はぁ……」と息を吐くと、何もない天井を見上げ、もう一度、「ふぅ……」と深呼吸をした。

風呂から上がり、食堂に向かう。

その日の夕飯は目玉焼きののったハンバーグに、ナポリタン、から揚げにポテトサラダというなんとも豪華な取り合わせだった。

「ユーリの好きな物をたくさん作りましたからね」

と言ってくれるハンナさんの目に少し涙が浮かんでいる。

それを見て私は自分の緊張と同じように家族も不安に思っているんだということをさとった。

「大丈夫です。今回は世界樹に会うだけですから、なにも危険なことはありませんよ」

とあえて微笑みながらそう言ってハンナさんを慰める。

「そうね。いやだわ、私ったら。なんだか緊張で感極まってしまって……」

と恥ずかしそうに言って目元を拭うハンナさんにノンナが、

「大丈夫よ。だってユーリだもの。私、信じてるわ」

と語りかけ、その肩に優しく手を添えていた。

「ああ。この旅はそう心配していない。問題はその後だろう。今回の旅で得たものを存分に振るってもらわねばならん。世界樹がどういう存在で何をしてくれるのかさっぱりわからんが、ユーリ、お前のことだから、ちゃんと役目をこなしてくれると信じているぞ」

「はい。もちろんです」

カイゼルさんとそんなやり取りをして食事が静かに進んでいく。

食後のお茶の時間は無邪気に甘えてくるリルをみんなで微笑ましく見つめ、いつも通り、団欒のひと時を過ごした。

静かに更けていく夜にどこか切ないような気持ちになる。

しかし私は、

(この旅で得るものが何なのかわからないが、きっとみんなのためになるよう、力の限りを尽くそう)

と思い直し、

「では、明日に備えて今日はもう休みます」

と笑顔で告げ、離れへと戻っていった。

布団に入り、軽く深呼吸をする私に、マロンが、

「なに。緊張するでないわい。いつもの旅と同じじゃ」

と何気なく言ってくる。

私は少し苦笑いでマロンを軽く撫でると、静かに息を整え、軽く目を閉じた。


翌日。

正装に着替え、リルとマロンを伴い王城に上がる。

謁見の間に通されると、そこには王族一同をはじめそうそうたる貴族の顔ぶれがそろっていた。

アリエスがおもむろに近づいてきた。

「鞍を用意させたわ。乗せていってあげるからありがたく思いなさいよ」

「ありがとう」

「じゃあ、明日の朝、迎えに来なさい。厩舎にいるわ」

「わかった」

短く言葉を交わしたところでアリエスが下がる。

それを見て王が、

「ユーリ。くれぐれも頼んだぞ」

と言葉を掛けてきた。

「はっ。国家国民のため、全力で臨みます。必ずや世界樹の力を得て帰ってまいる所存です」

「うむ。そちの行いはこの国のみならず人類の平和にかかわるものだ。しかと気を引き締めて当たってくれよ」

「かしこまりました」

そう言って頭を下げたところに王が、

「一同、聞いたか? これより先はこのユーリに命運を託すしかない。しかし、我々もただ指をくわえてみておればよいだけではないぞ。我が国の総力を結集して森を守らねばならん。兵站の確保などで諸侯には負担をかけることになるが、人類の未来がかかっておる。そのことを重々承知の上、一丸となってことに当たろうぞ!」

と力強く宣言した。

一同が跪き、最敬礼で応える。

私はその緊張感に少し飲まれそうになったが、なんとかその場を凌ぎ、無事謁見の間を退出した。

その日の夜。

揚げたてのトンカツ定食が出される。

「縁起物ですからね。しっかり食べて頑張ってね」

と言ってくれるハンナさんの微笑みはいつもより少しだけぎこちない。

私はそれになるべく優しい笑顔で応えると、

「帰ってきたら、みんなで鍋を囲みましょう。すき焼きなんてどうですか? それとも寄せ鍋やもつ鍋の方がいいでしょうか?」

と少し冗談めかしてそう言った。

「僕、すき焼きがいい!」

とリルが参戦してくる。

するとマロンも、

「そこは、もつ鍋じゃろ。〆がラーメンなんだぞ?」

と言い、みんなの笑いを誘った。

「はっはっは! 神獣殿にそう言われるとなんだか緊張しているのがバカバカしくなってくるな、ユーリ」

「ええ。そうですね。無駄に緊張しているのがバカバカしくなってきました」

「うふふ。リルちゃんとマロンちゃんがいれば大丈夫よね」

「そうだよ! リルもマロンもユーリのことお願いね?」

「わっふ! 大丈夫だよ!」

「うむ。任せておくがよい」

結局最後はみんなの笑顔が食卓にこぼれる。

私はなんとも清々しい気分で、ガブリとカツにかじりついた。


翌朝。

さっそく王城の厩舎に向かう。

そこにはすでに鞍を着けたアリエスが待っていてくれた。

「すまん。待たせたか?」

「いいえ。さっさと行きますよ」

「ああ。よろしく頼む」

ほんの少し苦笑いでアリエスに乗る。

するとアリエスは城の出口ではなく王城の方に進み始めた。

「ん? そっちは違うぞ」

と声を掛けるが、

「いいから黙ってなさい」

と言われてしまう。

(はたしてなんだろうか?)

と思っていると、アリエスは王族の庭に堂々と入っていった。

(おいおい……)

と思いつつ見る視線の先にはスーを抱いたアナスタシア様がいる。

私は少し慌ててアリエスから降り、アナスタシア様の前で跪いた。

「ごめんなさいね。どうしてもお見送りしたいってアリエスちゃんにお願いして連れてきてもらったんですよ」

そう言うアナスタシア様に、

「恐悦至極に存じます」

と返す。

その言葉にアナスタシア様は少し困ったような顔で微笑み、

「帰ってきたらお茶会にお誘いしますね。……呑気なことを言うようですけど、私はきっと何事もなく帰ってきてくださるだろうと信じておりますから」

と言ってきた。

「かしこまりました。楽しみにしております」

「ええ。約束ですよ」

そう言って差し出されたアナスタシア様の小指に戸惑いつつも、

「はっ」

と短く応じ、小指を絡ませる。

「うふふ」

アナスタシア様は少し照れたように笑い、

「嘘は許しませんからね」

と可愛らしい声でそう言った。

一礼して再びアリエスに跨る。

「いってらっしゃいまし」

「はい。いってまいります」

そう挨拶を交わすと、さっさと出ていくアリエスに揺られ、私は王族の庭を後にした。


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