庭師と会議と晩餐会03
翌日は朝から準備で少しバタバタする。
午後には各国の代表団が到着するらしい。
それを出迎えるため、私は正装して城に向かった。
同じく正装で少し窮屈そうにしているノルドさんと並んでまずはエメルシス大公国の代表団を迎える。
大公閣下以下、ずらりと並んだ騎士団の中にエメローラさんとエイクさんの顔を見つけると、私は軽く会釈をした。
国家元首同士の挨拶が終わり、次にゴルディアス共和国の代表団が入ってくる。
こちらも国家元首同士が挨拶をしている時、見知った顔のフェルドさんに軽く目礼を送った。
そのフェルドさんの前に立ち、ひときわ立派な鎧を着けた人物がいるので、その人がジーラッドさんなのだろう。
私はそんなことを思い、国家元首同士の挨拶が終わるのを待った。
一通りの儀式が終わり、歓迎の晩餐会が行われる会場に向かう。
会場に入ると、王族の席の横にリル、マロン、アリエスの姿が見えた。
「ユーリ、こっち、こっち!」
と呼ぶリルに苦笑いしつつ近づき、
「今日はさすがにみんなの側にはいられないんだ。アナスタシア様の言うことを聞いていい子にしていてくれよ」
と声を掛ける。
リルはなんとなくつまらなさそうな顔をしたが、アリエスが、
「人間には人間の事情があるのよ。大丈夫、私が側にいてあげるから安心しなさい」
と言ってくれた。
「はーい」
と返事をするリルを軽く撫でてあげてから、一般の席に戻る。
するとそこへ各国の代表団が入ってきた。
威風堂々として入ってくる国家元首同士が、にこやかに挨拶を交わし、席に着く。
そして、我が国の王が、
「今宵の晩餐会がお互いを知るよい機会となってくれることを願う。互いに忌憚のない意見を交わし交流を深めてくれ」
と挨拶すると、晩餐会が始まった。
楽団が演奏する静かな曲が流れ、各自が料理を取る。
私もさっそくワイバーンの肉で作ったローストビーフを取りに行き、口に運んだ。
(うん。冷めてはいるが、それでもなお、口の中で脂がしっとりと溶け出してくる。さすがハンナさん。火の入れ方が完璧だ)
そう思いながら食べていると、
「あら。美味しそうなローストビーフね」
とエメローラさんが声を掛けてきた。
「ワイバーンです。美味しいですよ」
と気さくに声を掛け返す。
するとエメローラさんはわずかに驚いた顔をしたので、
「つい最近、偶然出くわしたんです。魔法を使う上位種だったので、味も格別ですよ」
と付け加えた。
「相変わらず元気ね」
と笑うエメローラさんがさっそくローストビーフを口にする。
「あらまぁ。なんということでしょう」
と驚きを隠せない様子のエメローラさんを見て、私はどこか得意げに、
「食の神、ハンナさんの手によるものですよ」
と付け加えさせてもらった。
「ほう。そいつはすげぇな。俺にも食わせてくれ」
と聞き慣れない声でそう言われて振り返る。
そこにはおそらくジーラッドさんと思しき人がフェルドさんと一緒に立っていた。
「初めまして。庭師のユーリです」
「おう。ジーラッドだ。話は聞いてるぜ。よろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「うふふ。久しぶりね、ジーラッド。相変わらず元気そうでよかったわ」
「おう。久しぶりだな。そっちこそ元気そうじゃねぇか。とても年上とは思えねぇぜ」
「……ひと言余計なのも相変わらずね」
「おっと、すまねぇ。気にすんな」
「……」
なんだか少し険悪な空気になってしまったのかと思い少し狼狽える私に、エメローラさんが、
「この人はいつもこんな感じだから慣れているわ。大丈夫よ」
と困ったような笑みでそう言ってきてくれる。
「すまんな。下町育ちなもんでどうもがさつになっていけねぇ。お上品なのは苦手だが、迷惑をかけん程度に大人しくしておくから、勘弁してくれよ」
ジーラッドさんはそう言い、いかにも豪快な感じで、
「はっはっは!」
と笑った。
「いえ。少し驚きましたが大丈夫です。さっそくですが、お肉をどうぞ。美味しいですよ」
「おう。それだ、それ。ワイバーンなんてめったに食えないからな。役得ってもんだぜ」
「どうぞどうぞ。なにせ、五匹分も持って帰ってきましたから、たくさんあると思いますよ」
「ほう。そいつぁすげぇな。まさか一人で狩ったのか?」
「ええ。マロン……、ケットシー様のお力も借りましたが」
「ほう。あの猫ちゃんも戦えるんだな」
「人間の常識をはるかに超える戦闘力を持っていますよ。それこそ、一国を滅ぼせるほどの」
「なっ!? そうなのか? そこまですげぇとは知らなかったぜ……」
「そういうわけだから、ジーラッド。くれぐれも神獣様に失礼のないようにね」
「ああ。急に恐ろしくなってきやがった。くれぐれも丁重に扱わせてもらうよ」
「いえ。普段は普通に接してもらってかまいませんよ。それこそ私もペットと一緒にいるような気分で接していますから」
「ほう。そいつぁすげぇな。ってことは俺も普段通りでいいのか?」
「ええ。怒らせなければ」
「そうか。適度に気を付けさせてもらうぜ」
「ええ。よろしくお願いします」
そう話して、さっそくジーラッドさんとフェルドさんにワイバーンのローストビーフを取り分けてあげる。
「お。こいつは美味そうだ」
そう言ってさっそく豪快に肉をかじったジーラッドさんが、信じられないようなものを見る目で私を見つめてきた。
「それが我が国を代表する料理の達人、ハンナさんの料理ですよ」
と自慢気に言うと、ジーラッドさんは重々しくうなずき、ひと言、
「恐れ入ったぜ」
と言った。
そこからいくらか打ち解けて合同軍事演習の話になる。
「今回はエルフとドワーフの戦力の融合をどう図るかっていうことを俺ら指揮官も実戦で体験しておくってのが最大の目的だったな」
「ええ。試合で戦ったことはあっても共同で事に当たるのは初めてだから連携をよく確認しましょう」
「おう。で、どんな獲物を狙うんだ?」
「それは行ってみなければわかりませんが、とりあえずゴブリンかオーク辺りで軽く練習して奥地に進んで行きましょう。個人的にはミノタウロスかロックリザード、あと、このワイバーンや羊の魔獣の大群なんかがいいかと思っていますが」
「……そいつぁ骨が折れそうだな」
「ええ。訓練にしてはちょっと無茶しすぎじゃない?」
「そうですか? 三人で力を合わせれば楽な相手だと思いますが?」
「ははは。さすが『漆黒』様は言うことが違うな」
「ええ。そうね」
「……その『漆黒』というのは?」
「ああ。お前の字名だ。今回の軍事演習が無事終わったらうちの統領が正式に送るってよ」
「そんなものをいただけるんですか? いや、しかしなぜ『漆黒』なんです?」
「うふふ。本当なら私が持っている『神速』がふさわしいだろうってことだったんだけど、それじゃ同じになっちゃうでしょ? で、私があなたと戦ってみてまるで漆黒の影が踊っているように見えたって言ったら、ヨシアスが『漆黒』にしようって言って話が決まったのよ」
「それはなんとも恐れ多いことですね。しかし、褒めていただけるのは嬉しいことですし、おそらく断るのは無礼にあたるでしょうから、ありがたく頂戴することにいたします」
「ええ。そうしちゃって」
「はっはっは! 明後日からの訓練、楽しみにしてるぜ、『漆黒』のユーリさんよ!」
最後はかなり打ち解けた感じで話し、晩餐会は無事終了した。
家に帰り、王族たちがどんな話をしていたかカイゼルさんから聞く。
「アリエス殿のおっしゃった話を各国ともわりとすんなり受け入れてくれた。事は急を要するという認識もなんとか理解していただけたようだ。おそらくこの合同軍事演習を終えたら各国が戦力を練り直して要所に配置することになるだろう。私はその手伝いをしに各国を飛び回ることになる。ユーリ、お前も世界樹へ旅することになるだろうから、気を付けて行ってくるんだぞ」
「わかりました。しかし、当分の間、家が寂しくなりますね」
「大丈夫よ。私だって子供じゃないんだから」
「ええ。二人が留守にしている間もちゃんと美味しいものを食べて健康に過ごしていますからね」
「それはある意味羨ましいな。私もさっさと任務を終わらせてそこに混ざりたいものだ」
「そうですね。私もさっさと世界樹に会いに行って、自分の役目を全うさせたら是非また美味しいものをたらふく食べさせてください」
「あらあら。二人とも食いしん坊さんね」
「はっはっは。それだけハンナの料理が美味しいってことだよ」
「まぁ。あなたったら」
「あはは。お母さん顔赤くなってる!」
「もう! 大人をからかわないの!」
そんな会話をしてその夜も普段通りに楽しく過ごし、私は離れに戻っていった。




