姫とユニコーン
ユーリさんがまた神獣様を連れてきた。
私は内心、
(ユーリさんってよく動物に懐かれる人ですわねぇ)
と呑気に思う。
しかし、アリエスと名乗ったそのユニコーンさんが言うには、どうやらことは緊迫しているらしく、私は緊張してその話を聞いた。
お父様とお兄様が難しそうな顔でいろいろと質問している。
結局のところ、あとはユーリさんに任せて後方支援を充実させろという話になっていたようだったので、私は心配してユーリさんの方を見た。
私の見る限りユーリさんはとても落ち着いている。
その様子に私は、
(そうか。きっとユーリさんがなんとかしてくれるのね。では、私たちは安心して民を守ることに注力すればいいんだわ)
と思った。
その後、思わぬ形でアリエスさんから声を掛けられる。
私は戸惑いもしたが、結局、お友達になってもらうことになった。
なんだか嬉しい気持ちでその日は自室に下がる。
「うふふ。新しいお友達はどんな子なのかしら?」
と思うと少しドキドキしていつもより寝付くのが遅くなってしまった。
翌日。
朝食の後、さっそくお庭に出てアリエスさんに朝の挨拶をする。
「ごきげんよう。昨日はよく眠れまして?」
「ええ。いつも通りよ」
「それはよかったわ。菜食主義だと聞きましたけど、朝食はお召し上がりになって?」
「ええ。いいお野菜をありがとう」
「どういたしまして。美味しく召し上がっていただきなによりですわ」
「そんなことより、少し側にきなさい。あなたの魔力を感じていると落ち着くわ」
「そうですの? では、少し撫でますわね」
「いいわよ。そうしなさい」
「うふふ。アリエスちゃんって呼んでも良くって? だってお友達なんでしょう?」
「ええ。いいわよ。私もアーニャって呼ぶから」
「ありがとう。昨日も思ったけど、アリエスちゃんの毛並みってつやつやで気持ちいいのね」
「それ、世界樹にもよく言われるわ」
「そうなの? リルちゃんはふかふかでマロンちゃんはスベスベ、アリエスちゃんはつやつやでみんなそれぞれに気持ちいいわ」
「それはよかった。あの二人はなにか迷惑をかけてない?」
「いいえ。なにも。迷惑どころかいつも楽しく遊んでもらって感謝しているくらいよ」
「そう。あなた優しいのね」
「アリエスちゃんもね」
そう言って私たちは微笑み合い、ゆっくりとした時間を過ごした。
お昼。
少しずつ覚えてきた公務をこなし、またアリエスちゃんのもとに行く。
するとメイドが、
「ハンナ様からお届け物です。アリエス様にどうぞというお話でした」
と言って黄色の美味しそうなケーキを持ってきてくれた。
「ああ、それが昨日言っていたキャロットケーキね。ハンナとかいう人が作ってくれたんでしょ? あの子もすごい魔力だったから、楽しみだわ」
「あら。そうなの? ていうかお料理と魔力って関係あるのかしら?」
「さあ、どうかしら? でも、魔力のたっぷり詰まったものは美味しいのよ。だからハンナがこのケーキにきちんと魔力を込めていたら美味しくなっているはずだわ」
「そういうものなのね。でも安心して、ハンナさんの作るものに間違いはないはずだから」
「そうなのね。じゃあさっそくいただきましょう」
「ええ」
そう言ってさっそくお茶を淹れてもらう。
アリエスちゃんはお皿に載せられたキャロットケーキをパクリとひと口で食べ、
「……あら」
と目を見開いた。
「うふふ。美味しいでしょ?」
「ええ。驚いたわ。こんなに綺麗な魔力が整然と込められたものは初めてよ。世界樹の周りに生えている草くらい美味しいわ」
「よかったわ。ところで、その世界樹ってどんなものなの?」
「世界樹の見た目はただの木ね。普通よりちょっと大きいくらいで特に目立った存在じゃないわ」
「そうなんだ。世界樹っていうくらいだから神々しい存在なのかと思っていたわ」
「残念ながらそうじゃないわね。でも、数年に一度綺麗な花を咲かせるのよ。とっても可憐な桃色でとっても美しいの」
「あら。それは見てみたいわね」
「普通の人間には見せられないのが残念だわ。でもユーリなら見られるはずよ。世界樹は力を渡す時、花を満開にさせるから」
「それは羨ましいわね。ユーリさんが帰ってきたらそのお話を聞かせてもらわなくっちゃ」
「アーニャはユーリと親しいの?」
「うーん。どうだろう? 私はもっと親しくしたいと思っているんだけど、ユーリさん忙しいから」
「なるほど。そういうことね」
「……そういうことってどういうこと?」
「あら、アーニャはユーリに恋をしているんじゃないの?」
「え!? そんな、違うわ!」
「そう? でももっと親しくなりたいと思っているんでしょう? だったら、まんざらでもないってことじゃない」
「え、いや、その、なんというか……」
「うふふ。アーニャは可愛いのね」
「もう! からかわないで……」
「ふふふっ」
そんな話をして私とアリエスちゃんの距離が一気に縮まった。
そこからはいろんな話をする。
私は世間知らずなりに人間のことを話し、アリエスちゃんは森がいかに美しいかを語って聞かせてくれた。
私の知らない果物がとっても美味しいという話にかなり興味をそそられる。
その果物に名前はなく、森の奥にわずかしか生えていないそうだ。
「赤くて柔らかくて、噛んだ瞬間甘い汁がジュワッと出てくるの。ちょっとした酸味もあるから、いくつでも食べられてしまうわ」
「それは美味しそうね。フレッシュタルトにしたらとても美味しそう」
「うふふ。人間は本当にお料理が好きね。それに、美味しいものに対して貪欲だわ」
「あら。アリエスちゃんはそうではないの?」
「私は自然のままが好き。だから、人間の側より森で暮らしているほうが性に合っているの」
「そうなのね。リルちゃんやマロンちゃんとは違うんだ」
「ええ。でもこうやって時々人間の世界を覗きにくるのよ。人間は可愛らしかったり憎らしかったりいろいろだけど、見ていて飽きない存在って感じかしらね」
「私はどう? か弱くて取るに足らない存在?」
「いいえ。アーニャは素敵よ。魔力が純粋だということは、その性質も純粋ということだもの。魔力が濁ると、魔獣のように恐ろしい存在になってしまうのよ」
「それは怖いわ。でも、お父様もお兄様も時々、そんな人たちのことで頭を悩ませているわ」
「ふっ。やっぱり人間は面白い存在ね。見ていて飽きないわ」
「じゃあ、アリエスちゃんはしばらく私の側にいてくれる?」
「そうね。考えておくわ」
「ありがとう。せっかくお友達になったんですもの。あんまり短いお付き合いはいやよ?」
「そうね。でも私は気まぐれだから、あまり期待しないで」
「そっか。寂しいけど、覚えておくわね」
「ええ。でも、一緒にいる時は楽しいお話をしましょう」
「そうね。じゃあ、次は人間のお洋服の話をしましょうか。ちょうどいい本があるの。持ってくるからちょっと待っててね」
そう言って私はユーリさんからもらったあの本を取りに自室へと戻っていった。
(なんだか楽しい毎日になりそう。これもユーリさんのおかげだわ)
そう思った瞬間、先ほどの恋という言葉が頭に浮かび、ぱっと頬が熱くなるのを感じる。
(いやだわ。私ったら。どうしちゃったのかしら?)
そう思うが、その上気は止められない。
私は何度か深呼吸をしてなんとかそのドキドキを止めた。
(私ったらはしたない子になってしまったのかも。でも、不思議と嫌な気持ちはしないわね。なんなんだろう、この気持ち)
そう思いつつも気持ちを切り替えてアリエスちゃんの元に戻る。
それから私たちはゆったりと楽しい時を過ごし、明日の約束をして別れた。
(明日が楽しみだわ)
そう思って床に就く。
私の横にはスーちゃんがいて、
「きゅきゅっ!」
と鳴いてきた。
「あら。そうね。明日はスーちゃんも紹介しましょう。きっと仲良くなれるわよ」
そう言ってスーちゃんを撫でるとスーちゃんは嬉しそうに、
「きゅっ!」
と鳴いてくれた。
幸せな気持ちで目を閉じる。
そして私は、この幸せな日常を守ってくれている全ての人に感謝しながら、ゆっくりと眠りに入っていった。




