庭師とユニコーン01
アナスタシア様の訪問を経て日常に戻る。
私はいつも通り出勤し、軽く書類整理をこなした後森に向かった。
普段通り浅い層を抜け、中層に入る。
今回は中層を少し見回ったあと奥地のさらに先にも入る予定になっていた。
(予定外の大物は出てこないでくれよ)
と思いつつ気を引き締めてかかる。
三日ほど中層を見て回ったが、目立った異常はなかった。
「ラットの数が少し多かったか?」
「うむ。しかし、あの程度なら自然の許容範囲内だろう」
「ああ。ネズミ狩りとなったら厄介だから、なるべく避けたいものだ」
「あやつら魔獣の癖に穴に逃げよるからのう」
「もし、駆除が必要になったら積極的に手伝ってくれよ?」
「なぜじゃ?」
「ねずみとりは猫の仕事だろ?」
「ふんっ!」
そんな話をしながら森を進んでいく。
夕暮れ前に出てきたオークの群れを片付け終わるとその日はそこで野営をすることにした。
「さて。明日からはいよいよ奥地だ。気合を入れなければな」
「うむ。わしらにとっては浅い場所も奥地もさして変わらんが、お主は気を抜くなよ? 思わぬところでケガでもしたらハンナが悲しんでしまうからのう」
「ああ。家族に心配はかけたくないから気を付けよう」
「ハンナが悲しめば飯の質が落ちる。それだけは絶対に避けろ」
「ははは。了解だ」
軽く冗談を言い合いつつ簡単なスープを作って食べる。
ハンナさん特製のスープの素を使ったスープは簡単に作ったにしては美味しく、それぞれが満足して食事を終えた。
翌日。
さっそく森の奥を目指し出発する。
その日はなにもなかったが、次の日、サイクロプスの集団がいるのを発見した。
「十二か……」
「お主ならなんということもあるまい」
「まぁ、そうだが……。面倒といえば面倒なんだよ」
「ユーリ、お仕事がんばって!」
「ははは。そうだな。頑張ってお仕事してくるからな。いい子で待っていろよ?」
「うん!」
なんとも呑気な会話を交わしサイクロプスの群れに突っ込んでいく。
サイクロプスはすぐ私の存在に気付き丸太のようなものを振り回してきた。
「危なっ」
と軽口を言いつつ軽く空中に飛んで避ける。
着地と同時にまた振り回される丸太を今度は身を屈めて避け、サイクロプスに肉薄した。
刀を振るいスッと軽い手応えを感じてさらに次を目指す。
後ろでドサッと音がしたから問題なく斬れたのだろう。
そう思っていると正面から丸太が打ち下ろされてきた。
くるりと前転してかわし、丸太の上に着地する。
そのまま丸太を足掛かりにしてサイクロプスの肩口まで行くと、また刀を軽く振るいその首を刎ねた。
なんなく着地してまた後方にドサリという音を聞く。
私は徐々に集中を高め、全身を巡る魔力を感じながら、目の前に迫るサイクロプスに対処していった。
(サイクロプスは怪力だが遅い。速度で圧倒して制圧するのが基本だ)
と昔ならった基本を思い出しつつ、私を取り囲んできた三匹のサイクロプスに対する。
一斉に振り下ろされた丸太や拳をまた空中に飛んで避け、そのまま空中でくるりと身を回転させながら刀を一閃した。
刀から放出された魔力が波紋のように広がり、サイクロプスの首を同時に落とす。
私は着地と同時に素早くその包囲網を抜けると、素早くその後ろでまごついているサイクロプスの足を両断した。
そこからはほぼ殲滅戦になる。
混乱してあたふたしているサイクロプスの間を縦横無尽に駆け回り、すれ違いざまに斬っていくという作業になった。
最後に足を斬られてもがいているサイクロプスにトドメを刺し、戦闘が終了する。
私は軽く「ふぅ……」と息を吐き刀を納めると、すぐにサイクロプスの後始末を始めた。
後始末と言っても焼くだけでいい。
サイクロプスは魔石以外なんの素材にもならないから割に合わない魔獣として知られていた。
(これでなにかしらに使えるところがあればいいんだがな……)
と残念な物を見るような視線をサイクロプスに送りつつ火魔法で火をつけていく。
相変わらず魔獣は魔法の火でよく燃え、ほんのわずかな時間で真っ黒な灰になってしまった。
(これもまた魔獣の不思議といったところだな)
と考えつつさっさと魔石を拾い集める。
そこへマロンを乗せたリルがやってきた。
「おつかれさま!」
「ああ。いい子にしてたか?」
「うん! お昼ご飯なぁに?」
「いつものホットサンドでどうだ?」
「うーん。それもいいけどお米が食べたいかも」
「そうか。じゃあ米を炊こう。チャーシューとタマネギがあるからそれでチャーシュー丼にするのはどうだ?」
「それがいい!」
「うむ。よかろう」
「了解だ。すぐに作るからのんびり待っててくれ」
「はーい!」
和やかに話し、さっそく調理に取り掛かる。
リルは興味津々という感じで私の手元をみていたが、マロンは興味なさそうに丸くなっていた。
米の炊けるいい匂いがしてきたのを合図にチャーシューとタマネギを炒め始める。
たっぷりのソースを絡め香ばしい匂いが立ち込めてきたところでマロンが起きてきた。
「美味そうじゃの」
「もうすぐだ」
「うむ」
そう言ってさっそく炊き立ての米を器に盛り、出来立てのチャーシュー炒めをその上に乗せる。
「いただきます」の声を揃えてさっそく口に運ぶと、マロンとリルが、
「うむ。なんとも豪快な味じゃな」
「濃くて美味しい!」
と感想を言ってくれた。
私も、
(やっぱり冒険にがっつり系はいいな。特に運動した後はこの塩気がたまらない。米を提案してくれたリルに感謝だな)
と思いながら微笑んで頬張る。
私たちはどこかのんびりした雰囲気で昼食を堪能し、また、森の奥を目指して進んでいった。
翌日。
そろそろ地図に無い場所に到達しようかというところで、リルが、
「わっふ! 世界樹の匂い!」
と言い駆け出していく。
「おい!」
と声を掛けるがリルはあっという間に森の奥に消えてしまった。
どうしたものかと思っている私に、
「どうやら迎えに来たようじゃな。なに、心配はいらんぞ」
とマロンが落ち着いた声を掛けてくる。
それを聞いた私はなにがなんだかわからないながらも、とりあえず落ち着いて待つことにした。
お茶を淹れのんびりしているところへリルが帰ってくる。
その後ろには黒く美しい一頭の馬がいた。
「……ユニコーン」
驚いて思わずつぶやく私をよそにマロンが、
「久しいのう。元気じゃったか?」
とそのユニコーンに声を掛ける。
ユニコーンは淡々とした調子で、
「ええ。そちらも相変わらず元気そうね」
と返してきた。
「ユーリ、アリエスだよ!」
やや胸を張って自慢げにそう言ってくるリルの言葉を聞き、ふと我に返る。
「ああ、なるほど。ユーリだ。よろしくな」
ようやく事態を理解し、そう言う私にアリエスと紹介されたユニコーンが近づいてきて、
「世界樹はあなたを選んだわ。近いうちに世界樹の元に案内するからそのつもりでいなさい」
と言ってきた。
「それはまた、突然だな」
「安心して。すぐにとは言わないわ。人間には準備が必要なことは知っています。他に伝えておきたいこともあるし、一度国に戻って王族と話をさせなさい」
「わかった。任務中なんでもう少し待ってもらえるか? 一応この奥の地形を確認したりしたいんだ」
「ええ。かまわないわ。時間はまだたっぷりあるもの」
「ありがとう。今日はもうすぐ夕飯時だから、明日さっさと終わらせることにしよう」
「そうね。ああ、私の分はいいわよ。みんなと違って私、草食主義だから」
「そうか。じゃあ遠慮なく食事にさせてもらおう。一応、ニンジンが余ってるが食うか?」
「けっこうよ。森の草の方が美味しいから」
「そうか……」
(リルやマロンと違ってちょっとつっけんどんな性格らしいな。まぁ、いい。とりあえず飯を食いながら話を聞こう)
そう思って夕飯の支度に取り掛かる。
その日は乾燥茸と干し肉で出汁を取り、リゾットを作る。
アリエスも少しは興味を示すかと思ったが本当に興味無さそうな感じで、寝そべり目を閉じていた。
私たち三人はいつものように美味しく食べ、食後のお茶にする。
そこで私はやはり寝そべって目を閉じているアリエスに、声を掛けてみた。




