庭師とマンティコア03
「さて。後片付けは昼飯を食ってからにしやしょう。ユーリ。頼めるか?」
「はい。ホットサンドでいいですかね?」
「ああ。チーズはたっぷりで頼むぞ」
「了解です」
そう軽く言葉を交わし、荷物を置いてきた場所に戻る。
私の姿を見たリルが、マロンを背に乗せたまま、
「わっふ! ユーリすごかったね!」
と言いながら駆け寄ってきた。
抱きとめて軽く撫でてやる。
するとマロンが、
「なかなかのものを見せてもらったわい。褒美に後片付けはわしらがしてやろう。どれ、リル。風魔法でゴブリンの山を作ってみい」
と珍しく手伝いを申し出てきた。
「うん! わかった!」
リルが張り切って答え、リルを中心にものすごい魔力が解き放たれていく。
その魔力はあっという間に盆地全体を包み込んでいった。
「わうーん!」
リルが遠吠えをした瞬間いくつもの旋風が現れる。
それは盆地全体を満遍なく巡り、ゴブリンの死骸を次々に巻き上げていった。
呆気にとられながら見ている私たちの目の前であっという間にゴブリンの山ができる。
そしてリルの魔力が収まり、リルがマロンに、
「わっふ! 綺麗にできた?」
と聞くと、マロンは少し間を置き、
「うむ。綺麗にできておるぞ。よくやった」
と言いリルに慈しむような視線を送った。
「わっふ!」
嬉しそうに鳴いてリルが私にすり寄ってくる。
私はなにがなんだかよくわからなかったが、とにかくリルが頑張ってくれたのだろうと思って、リルをわしゃわしゃと撫でてあげた。
「さて。あとは焼くだけじゃな」
そう言って今度はマロンの魔力が高まる。
恐ろしいほどの魔力に慄きながら見ていると、リルの作ったゴブリンの山が恐ろしいほど巨大で青い炎の旋風に包まれた。
空気を伝わってくる熱気に軽く圧倒される。
(これが神獣の力か……)
改めてそう感じると、私はまだ甘え、頭を擦り付けてくるリルの背を優しく撫でてあげた。
五分もたたないうちに炎が消える。
「さて。終わったぞい。昼はなんじゃ?」
「え、ああ。ホットサンドでいいか?」
「むう。まぁ戦いの後じゃからそれでよいじゃろう。肉とチーズは大盛りじゃぞ?」
「ははは。わかった」
そう言ってなんとなく圧倒された感情のまま昼の準備を始める。
途中の宿場町で急いで調達したコンビーフとややあっさりした味のチーズをたっぷり挟んだホットサンドを作り、一番にマロンに渡すと、マロンはさっそくかじりつき、
「うーむ。やはりハンナの味には程遠いのう。しかし、それも仕方ないじゃろう。帰ったらごちそうをたんまり作らせるのじゃぞ?」
と味にやや不満気な感想を述べてきた。
苦笑いしつつみんなの分を次々に焼いていく。
リルも、
「やっぱりハンナさんのが一番美味しいかも」
と言っていたからやはり味に満足していないのだろう。
私はそんなリルを軽く撫でてやりつつ、
「帰ったら美味しいご飯をいっぱい食べような」
と声を掛けた。
一通りみんなにホットサンドが行き渡り自分の分を焼く。
焼き上がったホットサンドを口にしてみたが、やはりマロンやリルと同じ感想を持った。
(帰ったらピザが食いたいな。照りマヨチキンがいい。あの甘く脂っぽいピザを口いっぱいに頬張った時の満足感たるや、他の食事では味わえないものがあるからな。よし。そうしよう)
と思っていると、リルが、
「帰ったらなに作ってもらうの? 僕、ステーキがいいな!」
と言ってきた。
そこから、食事の話に花が咲く。
「お。それを言うならトンカツじゃろう? 思いっきりいい肉を使ったトンカツを塩とワサビでいただくのがよいぞ」
「ほう。猫ちゃんは意外とグルメなんだな?」
「うむ。ハンナのトンカツは絶品じゃからな。ソースべったりもいいが、カツ自体の美味さを存分に味わうためにはやはり塩とワサビじゃろうて」
「へぇ。そんな食い方もあるんすねぇ。初めて聞いたっすよ」
「ははは。これはかなり大人の食い方じゃからのう。わしも初めてハンナに薦められた時は驚いたものじゃわい」
「ああ。あれは驚いたな。まさかトンカツにあんな食べ方があるとは思いもしなかった」
「でも、肉本来の味とさっくりした衣の香ばしさを存分に味わえるいい食い方だと思いましたね」
「うむ。あれを発明したハンナはやはり天才じゃ」
「そうだな。夫として側にいられることが誇らしい」
「やっぱそんなにすごいんすねぇ、ハンナ様の料理って」
「おう。俺は一度食ったことがあるが、すげぇぞ」
「いいっすね。一度食ってみたいっす」
「ほう。ではこの戦いが終わったらうちで祝勝会でもするか?」
「いいんすかっ!?」
「ああ。みんなで存分に飲み食いしよう」
「じゃあ、ステーキも作ってもらえる?」
「ああ。ステーキだけじゃなく、ピザも頼もう。私はなんとなく照りマヨピザが食いたいと思っていたところだったからな」
「なんだ、そのテリマヨピザってのは?」
「照り焼きチキンとマヨネーズがたっぷりのったピザですよ」
「なっ!? そいつは美味そうだな」
「ええ。がっつり系で食い応え満点ですよ」
「はははっ! じゃあ、さっさとマンティコアを討伐して帰らないとっすね!」
「ええ。思いっきり腹を空かせて帰りましょう」
「はっはっは! そいつはいいや!」
と話し、みんなで笑いながら食べていると、イマイチだったはずのホットサンドがなんとも美味しく感じられるようになっていた。
食事を終え、さっそくマンティコア目指して進んでいく。
途中小さなオークの群れに出くわしたが、なんなく討伐し、三日ほど進んだ。
昼前。
「そろそろ目撃地点っすね。この先二時間くらい進んだところに崖の中腹に洞窟がある場所があるんすけど、どうやらそこに住み着いているらしいっす」
「となると、平地までおびき出すのが大変だな」
「それなら任せてもらってよいぞ。なに、リルがひと声鳴けば怒り狂って出てくるじゃろうて」
「それは助かる。じゃあ、最初の作戦通り、まずは翼を中心に狙って上手く地上に張り付けたらあとは徐々に削っていくぞ」
「了解です」
軽く作戦を立て、行動食をつまみながら目的地を目指す。
やがて、太陽がやや中天を過ぎたくらいになって目的地に到着した。
「よし。準備はいいか?」
「おう!」
「じゃあ、リル坊、頼んだぜ」
「わかった。いくよ?」
そう言ってリルが軽く息を吸い、
「わおーん!」
と大きな声で吠える。
するとしばらくして洞窟の中からマンティコアがその禍々しい姿を現した。
「グオォォッ!」
と咆哮する巨体がゆっくり上空に舞い上がる。
「魔法がくるっす! 防御、頼みます!」
「「おう!」」
そう言ってコーエンさんとノルドさんが防御魔法を展開すると、上空のマンティコアがまた、「グオォォッ!」と咆哮して強烈な火魔法を放ってきた。
「くっ!」
ノルドさんが思わず声を漏らし、少し押される。
そのくらいマンティコアの魔法の威力はすごかった。
(これはさすがにひとりで相手をするのは無理だろうよ)
そう思いながらちらりとマロンを見ると、マロンはリルの上で丸くなり呑気にあくびをしている。
(おいおい。呑気なもんだな)
と思いつつ、上空のマンティコアを見ると、初手の魔法を防がれて怒ったらしいマンティコアが猛烈な勢いでこちらに降下してきていた。
「コーエン。止めるぞ!」
「おう!」
そう言う二人の魔力が高まる。
そして先ほどより大きな防御魔法を展開すると、二人は見事にマンティコアの突進を止めて見せた。
ズズズッと後退させられつつもなんとか踏ん張りマンティコアの動きを止める。
そこへすかさずラッツさんが魔法の矢の雨を降らせた。
全ての矢がマンティコアに降り注ぐ。
しかし、マンティコアは、
「グオォォッ!」
と叫び再び上空に舞い上がってしまった。
「なっ!? 効いてない?」
驚愕の表情でそう叫ぶラッツさんに、カイゼルさんが、
「慌てるな。徐々に削れば問題ない。今度は私たちも出る。もう一度いくぞ。牽制で魔法を放て」
と落ち着いて声を掛ける。
その声にラッツさんは、
「了解っす!」
と返事をすると、上空にいるマンティコアめがけて無数の魔法の矢を放った。
「グオォォッ!」
マンティコアが怒ったような声を上げ、また降下してくる。
そしてまたノルドさんとコーエンさんがその突進をなんとか止めると、私とカイゼルさんが一気に飛び出しマンティコアに向かっていった。




