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最強「庭師」ユーリの任務録 ~天才剣士は今日も「日常」を守るために働く~  作者: タツダノキイチ
第二部

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ヒトとエルフとドワーフと

御前試合の翌日。

朝からすっきりした顔で町へ繰り出していくユーリを見送ると私は王にひと言断り、城へと向かった。

素朴ながらどこか洗練された印象のある城の中をメイドの案内で進み、客人用のサロンに入る。

そこにはエルフの騎士団長エメローラとゴルディアス共和国の統領ヨシアス・クルセイドの姿があった。

「久しいな、カイゼル」

「ご無沙汰しております。クルセイド閣下」

「ふっ。よせよ。この場は昔みたいにヨシアスでいい」

「かしこまりました。ではそのように」

「うふふ。二人とも相変わらず仲がいいわね」

「ちょっと前は散々やり合った仲だからな」

「懐かしいですね」

「まぁ、ヒトの尺度だとそうかもしれねぇな」

「ええ。私たちの感覚からすれば、ヨシアスが統領になったのもつい最近のことに思えるのだけど」

「ヨシアス殿が統領になられたのはもう十年も前のことになります」

「たった十年、されど十年ってか?」

「ええ。ヒトの身にはそれなりに長い年月です。十年ひと昔という言葉もありますからな」

「そう言われればそうね。あのやんちゃだったカイゼルがこんなに大人になっているんだもの」

「はっはっは。それは違いねぇ」

「あまりからかわないでください。我々ヒトとみなさんとでは流れる時間の速さが段違いなのですから」

「そうね。でもヒトはその短い生の中で一瞬の輝きを見せるところが素晴らしいと思うわ」

「そうだな。あのユーリなんてその真骨頂みたいなもんだ。あれにどんな教育を施したんだ?」

「本当に、特別なことはなにもしていませんよ。ただ真剣に刀に向き合う心構えと基本を教えただけです。しかし、あいつはそこから自分で努力し今の力を手に入れてみせました。もちろん天才的な才能があったのは事実ですが、あいつの真面目な性格があってこそあのような剣士になったのでしょう」

「あの魔力はまさしく怪物ね。実際に戦ってみてわかったけど、最後の方はただ漆黒の影が踊っているようにしか見えなかったわ」

「たしかに、怪物じみていますね、今のユーリは。私も最近ではその影を追うのが精一杯になってきましたよ」

「いっそのこと字名は『漆黒』にしたらどうだ? なんなら俺から贈るぜ」

「ふっ。それはいいかもしれませんね」

「うふふ。ぴったりだわ。でも本当なら私の『神速』をそのまま譲ってあげるのが一番しっくりくると思うんだけど」

「ああ。カイゼルは剛力一辺倒って感じだけど、ユーリはそこに化け物じみた速さも兼ね備えているように見えた。まったく、信じられないぜ」

「私が言うのもなんですが、あれは本物の天才です。しかし、それを鼻にかけることなく、努力を惜しまないのですから、私もまいっておりますよ」

「すごい子を見つけたわね」

「偶然……、いや、運命だったのでしょうね」

「マルシウス殿が実績作りだと言っていたが、そういうつもりなのか?」

「ええ。いずれはそうしようかと。しかし、いろいろとしがらみというのはあるものですから」

「そうね。その辺の煩わしさはヒトもエルフも変わらないわ」

「まったく。貴族制ってのは面倒くさいな」

「まったくです。しかし、それで世の中が落ち着いているのだから致し方ないでしょう」

そんな話をしているところにメイドがやって来てお茶を淹れてくれる。

そんなメイドにヨシアスが、

「ブランデーがあったら少し垂らしてくれないか?」

と頼むのをなんとも懐かしい気持ちで微笑ましく聞いた。

昔からヨシアスは酒が好きだった。

ヨシアスが、というよりもドワーフは皆と言った方が正しいのかもしれない。

若かりし頃。

まだ、ハンナと出会う前だったと思う。

その当時はまだただの一兵卒だった私は幸運にも当時ドワーフの騎士団長だったヨシアスと手合わせをする機会を得た。

当然、完膚なきまでに叩きのめされたのを今でもよく覚えている。

しかし、そこから元々私の中にあった剣術へ情熱に火がついた。

(それから数年経って私はハンナと結婚し、ユーリを家に迎え入れたんだったな。ノンナの執事候補を探しにいったつもりがとんでもない才能を見つけてしまったものだ。まさか私とヨシアスが苦戦し続けてきたあのエメローラに勝つんだからたいしたものだ)

そんなことを思いながら昔のことを思い出す。

私はいつの間にか近衛騎士団の団長に指名され、そこからはその地位に恥じないよう努力を重ねた。

その努力がいつの間にか実を結び、初めてヨシアスに勝てた時の喜びは今でも忘れていない。

(あの当時は単純に剣術が好きだった。ただ、今は何のために刀を振るうのかよく考えている。私も歳をとったということなのだろうか? いや、これは成熟したんだと思いたいな)

そんなことを考え、ふと小さな笑みを漏らす。

それを見たエメローラが、いつものおっとりとした調子で、

「あら。どうしたの?」

と聞いてきた。

「いや。昔のことを思い出したついでに、自分も歳をとったな、と思ってしまってな」

「うふふ。そうね。みんなそれなりに歳をとったわ」

「一番上はエメローラだったか?」

「あら。レディーに年齢の話題を振るのは失礼よ?」

「はっはっは。エルフがそれを言うか?」

「ええ。エルフだって歳は気になるもの」

「昨日見た限りじゃ衰えなんて微塵も感じなかったが?」

「それでも気になるのよ。最近じゃお肌の乾燥がけっこうひどいし」

「ほう。それなら我が国がいい化粧水を販売しているぞ?」

「ええ。シャーリーの作品でしょ? 愛用させてもらっているわ」

「ほう。うちの国の女連中は一部の貴族以外、あまりそういうのは気にしないみてぇだが、うちにも販路を広げたいか?」

「そうだな。できればそうしたい。しかし、ドワーフには化粧水より火傷や切り傷に効く軟膏の方が売れているから、化粧品類の販路拡大は難しいだろう。ドワーフ向けにはもっと使いやすくて効き目の長い軟膏を開発するよう指示が出ていたはずだ」

「だろうな。しかし、ドワーフもこの先考えが変わるかもしれねぇぜ。なにせ、流行ってのはすぐにころころ変わるからな」

「そうだな。今のうちからドワーフの肌について研究させるのもいいかもしれん」

「ああ。そうしときな。うちもヒトの世の流行ってもんを常に追いかけてるからな」

「いつもいい物を作ってくれてありがとう。おかげでみんなの生活が豊かになっている」

「それはお互い様ってもんよ。だろ? エメローラ」

「ええ、そうね。うちの国の繊維産業もヒトが次々に流行を生み出すことによって淀まず発展しているようなものだもの。本当に助け合いだと思っているわ」

なんとなく話が政治の方に向き、お互いの国の情勢を軽く話す。

聞けば、ドワーフの社会でもエルフの社会でも産業の多様化が問題になっているという。

どちらの国もモノづくりや繊維産業に大きく偏った国家経営をしているから、けっこう深刻な問題なんだろう。

かく言う我が国も製薬産業に大きく頼っているから、同じようなものだ。

そんな軽い愚痴を言いつつお茶は進み、やがてお開きの時間となった。

「久しぶりに話せて楽しかったぜ」

「ええ。私もです」

「また、会いましょう。きっとすぐよ」

「ほう。それはまたなんで?」

「だって。午前中に三か国の合同軍事演習を提案して了承されたもの」

「それは初耳だな」

「ああ。となると場所はどうする?」

「場所はフィッツランドの森でいいんじゃないかしら? 相手の魔獣には困っていないでしょ?」

「それはそうだな」

「うふふ。私が実戦でユーリ君と組んでみたいからっていうだけの理由で提案したんだけど、意外とすんなり通っちゃったのよね」

「……相変わらずだな」

「うふふ」

最後の最後でエメローラに少し驚かされたが、お互いに笑い合い握手を交わして散会となる。

私は心の中になんとも言えない温かさを感じつつ宿に戻った。

食後、ユーリを誘って軽く一杯やる。

「明後日の朝は出立だ。明日は一日かけて準備があるから手伝ってくれ」

「かしこまりました」

「帰りは王に随行してもらうぞ」

「はい。そのつもりでおりました」

「ほう。また気ままな旅を楽しみたかったんじゃないか?」

「それはもちろん。しかし、一応仕事で来ているというのにずいぶん贅沢をさせてもらいましたから」

「そうか。それは殊勝な心掛けだが、お前はもっとわがままを言っていいんだぞ?」

「もう、十分好き勝手させてもらっていますよ」

「ふっ。相変わらず欲の無いやつだ」

親子らしい遠慮のない会話をして部屋に戻る。

机の上にはいくつかの書類が置かれていたが、私はそれを軽く無視して風呂場に向かった。

ゆったりとお湯に浸かり今日という日を振り返る。

旧友との思い出、ユーリの小さい頃のこと、いろんなことが頭の中に蘇ってきた。

「ふっ」

と小さく笑ってお湯を軽く顔にかける。

(まだまだ負けんぞ)

私はそう思いながら頼もしく育った息子のことを思い、改めて気合を入れた。


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