庭師と御前試合03
「見事な剣舞でしたね……」
「ええ。いつ見てもすごいものです」
「ははは! これはいつかうちの団長ともやらせんといかんな」
「それはいいですね。この行事は毎年恒例にしますか?」
「それはいい。是非そうしましょう」
そんな会話をして王たちが笑い合う。
リルとマロンも、
「わっふ! ユーリが勝った!」
「うむ。なかなか見どころのある試合だったわい」
とどこか満足げに話し、その場になごやかな空気が流れた。
◇
今度こそ全員そろって王たちの前に行き、一礼して試合を終える。
王たちを代表してエメルシス大公から、
「皆の者、よくやった。いいものを見せてもらったぞ。特にユーリ。そなたの活躍は見事であった。なにか褒美を取らせたいがなにがよいか?」
と言葉を掛けてくる。
大公の気さくな申し出に私は一瞬迷ったが、
「はっ。褒美など恐れ多いことでございます。しかし、望みのものをいただけるとするなら、エルフの知恵の結晶である書籍を所望いたします」
と答えた。
「ほう。なぜ書物を?」
という大公の短い問いかけに、私は、
「は。物をもらってしまえば、それは私だけのものになってしまいますが、知識であれば広く一般にも共有できます。私の力は広く国民を守るためのもの。であれば、その力で得た褒美もまた広く国民と共有できるものであることが一番望ましいと考えました」
と率直に自分の想いを伝える。
すると大公は「はっはっは!」と快活に笑った後、
「わかった。後日厳選した書物を贈ろう。是非、貴国の国民のために活用してくれ」
といかにも王族らしい鷹揚さで私の申し出を受けてくれた。
その後、王たちが退席するのを見送って私たちも宿に戻る。
時間は昼を少し過ぎていたので、マロンとリルが、
「おい。腹が減ったぞ」
「わっふ! 早くご飯食べよう!」
と言って私に昼食を催促してきた。
昼の時間を過ぎていたので、外に食べに出るのではなく宿で食事を作ってもらうことにする。
食堂に行き、その場にいたメイドに、
「ちょっとがっつりしたものが食べたいんだが、なにができるだろうか?」
と尋ねる、そのメイドは少し考え、
「フィッツランド風にお米を使った丼料理などどうでしょうか? おそらくたいていの丼物はできますよ」
と言ってくれたので、
「では豚丼をお願いできるかな? 味付けは濃い方がいい」
とお願いした。
やがてやってきた豚丼は香ばしく焼かれた厚切りの豚肉にたっぷりとタレが絡んだ、なんとも美味しそうな見た目をしていた。
「「「いただきます」」」
と声を揃えてさっそく丼を持つ。
試合の後で腹が減っていたのと汗をかいてしょっぱいものを体が欲していたのもあり、私はものすごい勢いで豚丼にがっついた。
やがて、お腹が落ち着き、お茶を飲んでいるところにカイゼルさんがやってくる。
「エメローラ殿との対戦は予定外だったが、なかなかいい試合だった。あれを見て、私もさらに修行せねばという気持ちになったぞ」
といういかにもカイゼルさんらしい言葉に軽く笑みを浮かべつつ、
「ありがとうございます。これからも精進します」
と答えた。
「そうだな。うん。これからも励むように。あと、大公閣下が好きな本を好きに選ぶようにとおっしゃってくださった。この近くにある大公家御用達の書店に話を通しておくらしいから明日にでも行ってくれ。ついでにみんなへの土産も買ってくるといい」
「ありがとうございます。お言葉に甘えます」
カイゼルさんにお礼を言って、部屋に下がる。
私はそのまま寝てしまいたいような衝動に駆られたが、そこはぐっと我慢して軽く風呂を使わせてもらった。
さっぱりしたところで、楽な服に着替え、部屋のベッドにどっかりと腰を下ろす。
すかさずリルが甘えてきたので、思う存分相手をしてやった。
そして夕方。
この国に来て初めての夜の町に繰り出す。
私はなんとなく一杯やりたいというような気分になっていた。
宿でも酒を出してくれるそうだが、なんとなくリルやマロンにこの町をゆっくり見せてやりたいという気持ちもあったので、少しわがままを言って外に出る。
夕飯の買い物客でにぎわう市場を軽く眺めつつ、良さそうな店を探す。
いくつか美味しそうな店を見つけたが、最終的に私はもっとも庶民的でワイワイしていそうな居酒屋を選んだ。
とりあえず、ワインを頼み、せっかくならこの国ならではのものが食べたいと思いながら壁に書かれた品書きを見る。
(ロック鳥のから揚げがあるな。確実に美味そうだ。これは頼んでおこう。あとは……、お。バーニャカウダがあるじゃないか。うん。ワインに合いそうだ。それもいっとこう。あと、主食になるようなものはなんにしようか? お。ラザニアがあるじゃないか。これもワインにも合いそうだし、きっちり腹もいっぱいになりそうだ。それとあとはリルとマロンに甘い物を頼んでやるか。洋ナシのケーキが美味しそうだな。よし、それにしよう)
と決め、さっそく注文する。
まずは早々にやってきたバーニャカウダをつまみつつワインを飲んで次の料理が来るのを待った。
そこにロック鳥のから揚げがやってくる。
けっこう量があるということだったので、二人前の注文にしておいたが、それは倍の四人前はあるのではないかというほどてんこ盛りのから揚げだった。
(ほう。こいつは挑戦的じゃないか。私の空腹とこのから揚げの量。どっちが勝つか、いざ勝負だな)
そんなバカなことを思いつつさっそくから揚げにかじりつく。
やや噛み応えのある肉の間からジュワッと肉汁が溢れてきて、私の口を一瞬で虜にしてしまった。
(これは美味い。味付けが濃すぎないところが絶妙だ。軍鶏と鴨の間くらいうま味の強いロック鳥の良さを存分に生かしている。これならこの量でも全然いけてしまうぞ)
そう思って私が笑みを浮かべていると、横にいたリルとマロンも、
「これいいね! すっごい好きな味だよ」
「うむ。居酒屋飯らしい豪快さといかにもエルフらしい控えめな味付けが見事に融合しておる。これは当たりじゃな」
と言い、満足そうな表情を見せてくれた。
続いてやってきた二人前のラザニアを三人で分けて食べる。
これはそれほどの量ではなかったが、いかにも居酒屋らしい濃いめの味付けで、私はたまらずワインのお代わりをしてしまった。
ワイワイとした店内の明るい声を聞きながら、こちらも楽しい気分で夕食を進めていく。
私は久しぶりに酒で頬を上気させ、リルとマロンは美味しそうに洋ナシのケーキを食べていた。
大満足の食事が終わり店を出る。
宿に戻る道は建物から漏れた灯りに照らされ、なんとも温かみのある色に染まっていた。
そんな道を上機嫌で歩き、
「今日もご飯が美味しかったね」
「うむ。やはりみんなでワイワイ食うと美味しい物じゃて。して、ユーリ。勝利の美酒の味はどうじゃった?」
「ああ。久しぶりにいい酒だったよ。少し飲み過ぎたかもしれん」
「ははは。たまにはいいじゃろう。今日は大活躍じゃったからな」
「うん。ユーリかっこよかったよ!」
「ふっ。ありがとうな」
と話しながら宿の部屋に入る。
私はまたそこで風呂に入り、軽く酔いを冷ました。
「今日は疲れたな。しかし、どこか心地のいい疲れ方だった」
「うむ。それだけ満足するものが得られた、いい一日だったということじゃろう」
「ああ。そうだな。さて。明日は休みをもらったからみんなへのお土産を選んで町で買い食いでもするか」
「やった! 一日ユーリと一緒だ!」
「ははは! 明日はとことん遊び倒すぞ
」 「それはよいのう。わしはまたロック鳥のから揚げを所望じゃ」
「ああ。そうだな。あれは是非もう一度食べておきたい」
「僕も!」
楽しい会話を交わし、明るい気持ちでベッドに入る。
相変わらず甘えてくるリルの体からは干したての布団のようなお日様の匂いがしてきた。
(ああ、今日も幸せな一日だった)
としみじみ思いつつ、リルを軽く撫でてやる。
「くぅん」 と甘えたような声を出し、頭をこすりつけてくるリルをなんとも可愛らしく思いつつ、私は軽く目を閉じた。
じんわりと喜びの感情が湧きだしてくる。
それはおそらく勝利の喜びではなく、今日という一日を満足のいく一日として終えられたことの喜びだろう。
私はそんなことを思いながらいつものようにゆっくりと眠りの世界へと旅立っていった。




