庭師と御前試合01
いつものように早朝に起き、宿の裏庭で木刀を振る。
緊張感はなく、自然に型をこなしていることを確認すると、私は軽く汗を拭い、いったん部屋に戻った。
リルとマロンを連れて食堂に行く。
いつも通りしっかり食べ、いつも森に行く時の格好に着替えた。
お湯をもらって自分でお茶を淹れる。
ただ静かにゆったりと過ごし、迎えが来るのを待った。
ややあって、執事らしき人が迎えに来る。
私はリルとマロンを伴い、迎えの馬車に乗り込んだ。
闘技場らしきところに着き、控室に通される。
そこには同じく今日の御前試合に臨むフェルドさんとエイクさんがいた。
軽く会釈をして、用意されていた椅子に腰かける。
「ユーリ、がんばってね!」
「ああ。ありがとう」
「ふっ。なにも気負っておらんようじゃな」
「気負っても始まらんからな。いつも通りいくさ」
「うむ。それがよかろう」
そんな会話をしていると、フェルドさんが、
「なんだ。余裕じゃねぇか。あんまり余裕ぶっこいてると痛い目にあうぜ?」
と少し冗談っぽい笑みを浮かべながら朗らかに話しかけてきた。
「ははは。力んだところで実力が上がるわけじゃありませんから。精一杯楽しませてもらいますよ」
「ほう。そいつはいい心掛けだ。こっちも楽しんでいくから思いっきりぶつかってきな」
「はい。精一杯攻めさせていただきます」
「ふっ。どんな攻撃だろうが防いでみせるさ」
「それは楽しみです」
そう話しているところに今度はエイクさんが混ざってくる。
「二人ともずいぶん余裕だな?」
「そういうわけでもありませんが、落ち着いてはいますね」
「ほう。それはすごいな。こういう経験は初めてじゃないのか?」
「国で王に見られながら稽古をすることはたまにあります。エイクさんは?」
「私も似たようなものだ。いつも団長にボコボコにされる姿を見られている」
「ほう。団長さんってのはそんなにすげぇのか?」
「ああ。はっきりいって怪物だな。あまりの速さに『神速』という字名までついている」
「それはすごいですね。一度見てみたいものです」
「ああ。速さと硬さどっちが上か試してみたいもんだぜ」
「ふっ。悪いことは言わん。やめておけ」
「……なるほど。エイク殿がそう言うってことはそれなりなんだろうな」
「ああ。繰り返すがあれは怪物だ」
そんな風に軽く冗談を交えつつ気さくに話していると、若い騎士と執事が私たちを呼びにきた。
「お三方は闘技場へ。マロン様とリル様は貴賓席へご案内いたします」
そう言われてリルとマロンを軽く撫で、騎士の案内で闘技場の中に進んでいく。
闘技場の中央には立派な鎧をまとった女性がいて、
「本日の審判役を仰せつかった、エメローラ・フォン・シュタイナーです。一応、この国の騎士団の団長をしてますよ。本日はよろしくお願いしますね」
となんとものんびり挨拶をしてきた。
(この人が噂の……)
と思いつつ、軽く礼をして応える。
その様子にエメローラさんは軽く微笑むと、またなんとものんびりした口調で、
「殺傷能力が高そうな魔法はやめてくださいね。なにかあったらすぐ止めますので、指示にしたがってください。あとは騎士の精神にのっとってくだされば大丈夫ですよ」
と軽くルールを説明してくれた。
(要するにいつもの訓練と同じということか……)
そう思ってしっかりとうなずく。
他の二人もしっかりうなずいたのを見てエメローラさんが、
「では、最初はエイクとフェルドさんから始めてください」
と試合開始を宣言した。
邪魔にならないよう、闘技場の隅に移動する。
エイクさんとフェルドさんがお互いに距離を取り、一礼すると、エメローラさんが、
「では始めてくださいね」
とにこやかに試合開始の合図を出した。
エイクさんが剣を抜き、フェルドさんが盾と斧を構える。
当然訓練用に刃を潰したものだが、間近で見るとなかなかの迫力があった。
二人の魔力が高まり、一気に緊張感が湧く。
初手はエイクさんがいきなり魔法で仕掛けた。
おそらく風魔法だと思われる攻撃をフェルドさんが防御魔法で防ぐ。
その瞬間の隙を狙って一気にエイクさんが動いた。
素早い身のこなしで剣を繰り出し、時折魔法を織り交ぜながらどんどん攻めていくエイクさんの攻撃をフェルドさんが防ぐという展開になる。
二人の気迫は相当なもので、私は、
(これはかなり気合を入れないといけないな……)
と思いつつ、密かに緊張感を高めた。
そのうちフェルドさんもエイクさんの隙をつき、いかにも重たい一撃を放ち始める。
二人の攻防は永遠に続くのではないかと思ったが、徐々にエイクさんが攻め疲れする感じになってきた。
(これはフェルドさんが少し有利だな……)
そんな風に見ていると、攻めを急いだエイクさんがわずかに隙を作ってしまった。
その隙にフェルドさんの重たい一撃が食い込む。
その瞬間、
「そこまで!」
と声がかかり、試合が終わった。
寸止めされたフェルドさんの一撃が見事にエイクさんの胴を捕らえている。
私はなかなかの攻防に感心して、自然と拍手を贈っていた。
◇
観客視点
「ほう。なかなか素早い攻撃をする騎士ですな」
「ええ。うちの騎士の伝統ですね。速い攻撃を得意にするものが多いんです。しかし、あそこまで硬く守る敵を相手にすることはありませんからね。少し手を焼いているようです」
「いやはやどちらも見事じゃありませんか」
「ええ。一対一なら甲乙つけがたいが、複数で囲まれてしまえば防御力特化型のうちの方がやや分が悪くなるといったところですかな?」
「ええ。うちも一人で複数を相手にすれば一瞬で制圧されてしまうでしょう」
「なるほど。互いに弱点があるのですね」
「ああ。それだからこそ、お互いに牽制し合えるし、助け合うこともできているんだろう」
「これからもお互いの不得意を補えるような関係でいたいものですね」
「もちろんだとも」
「お。そうこうしているうちに勝負が決まりそうですよ」
「あはは。エイクのやつ焦り過ぎましたね」
「うむ。緊張していたのだろう」
「いえ。せっかちなんですよ。かなり」
「ははは。じゃあどっしり構えたドワーフの相手は辛かったろう」
「そのようですね」
国家元首同士が戦いを評する横でリルとマロンがのんびりくつろぎながら戦いの様子を見ている。
「どっちも強いね」
「うむ。よく鍛えられておる」
「ユーリ、勝てるかな?」
「普段通りにやれば問題ないじゃろうが……」
「がんばってほしいね」
二人がそう言うのをエメルシス大公が聞き、
「ユーリ君はそんなにお強いのですか?」
と訊ねた。
「ああ。あの二人からすれば頭一つ抜けておるな」
「そんなにですか……」
「ユーリの訓練はよく見させてもらっていますが、まるでダンスを踊っているように剣を振るうので見ていて飽きませんよ」
「ほう。そいつは是非見物してみたいものだな」
「ええ。楽しんでください」
そう言ってフィッツランド王マルシウスが微笑み、ゴルディアス共和国統領ヨシアスがニカッとした笑みを浮かべる。
二人の間には何とも言えない独特の緊張感が漂っていた。
◇
「エイク。相変わらずせっかちさんですねぇ。攻め急いではいけないといつも言っているでしょ?」
「面目ございません」
「次はしっかり落ち着いて戦うんですよ?」
「はっ!」
「はい。じゃあ、次ですね。フィッツランドのユーリさん! 出番ですよ」
少し大きな声で呼ばれ、闘技場の中央に向かう。
「じゃあ、次は勝ったフェルドさんとユーリさんの試合ですね。二人とも準備はいいですか?」
「はい」
「おうよ!」
私たちがうなずくのを見て、エメローラさんが、
「では第二試合を始めてください」
とおっとりした口調で試合開始の合図を出してきた。




