庭師と国際会議02
翌朝早く。
宿の裏庭を借りて型の稽古をする。
野菜を洗いに来たメイドを少し驚かせてしまったが、これが毎朝の習慣なんだと伝えると、
「さすがはお国のために働く騎士様ですねぇ」
と感心されてしまった。
(騎士じゃなくて庭師なんだが……。まぁ、一般市民から見ればどっちも似たようなものなのだろうな)
と思いつつ軽く汗を流し、朝食の席に向かう。
朝食はいたって普通でフィッツランド風のいかにも宿の朝食といった品が出てきた。
香ばしく焼かれたトーストと厚切りベーコンを使ったベーコンエッグ、それにサラダをきっちり腹に入れ、資料片手に騎士団の詰所に向かう。
詰所の受付で声を掛けるとさっそく会議室らしき所に案内された。
「おはよう。昨日は眠れたか?」
「ええ。おかげ様でゆっくりと」
「それはよかった。ああ、紹介しよう。ゴルディアス共和国の代表で騎士団副団長のフェルド氏だ」
「おう。フェルドだ。よろしくな」
「こちらこそよろしくお願いします。フィッツランドで庭師をしているユーリです」
「去年会ったノルドは元気か?」
「はい。元気です」
「あいつとはいいかんじでやり合えたから今年も楽しみにしていたんだが、まぁ、いい。期待してるぜ」
「……お手柔らかにお願いします」
そう言って握手を交わしさっそく会議の席に着く。
会議の冒頭ではそれぞれの国の魔獣の状況について、その概要を共有し、現在の問題点をあげていった。
午前中は概要説明で終わり、昼食の弁当を挟んで午後の会議に移る。
午後はそれぞれの問題点について各国がどう対応しているのか、他国の目からみればどう映るかという点を中心に議論した。
その結果、庭師は個人の能力の高さに頼る傾向が強く、組織力の強化にもっと力を入れた方がいいのではないかという指摘が出される。
私はその意見ももっともだと思いつつ、本会議までに懸念事項として共有し、我が国なりの強化策を発表したい旨を伝えた。
「明日は、各国の代表団が一斉に到着する。それぞれの国で会議もあるだろうから、第二回目の会合は明後日に設定しよう。その次の日は本会議だ」
「おう」
「了解です」
エイクさんが会議を閉め、解散となる。
「まったく。肩がこってしょうがねぇ。明日に備えて資料をまとめなくちゃいかんから飲みにもいけねぇしよ。ほんと、毎回この会議は疲れるんだよな」
「私もです。特に大きな会議に出席するなんて初めての経験なんで緊張もしています」
「そうか? わりと堂々としてるからこういうのに慣れてるのかと思ったが」
「本当に初めてなので、内心はドキドキしっぱなしです」
「ははは。その若さでそれだけ落ち着いてりゃ心配ねぇだろう。なに、本番は本会議のあとだからな。それまでの我慢さ」
「へぇ。本会議の後になにかあるんですか?」
「ん? もしかして聞かされてねぇのか?」
「あ、はい。なにも……」
「ははは! そいつはいいや! なにも知らずに来たのか?」
「ええ……」
「黙っていた方が面白そうだが、どうせバレるだろうから先に言っちまうと、本会議のあと御前試合があるんだ。この予備会合に出ているってことは各国の代表選手ってことになるわけよ。去年までは無かったんだが、今年はこの国の大公様の提案でそういう余興をやることになったんだとよ」
そう嬉しそうに話すフェルドさんを見て、若干顔を引きつらせる。
(おいおい。本当に聞いてないぞ……)
そう思った瞬間、ノルドさんとカイゼルさんが悪そうな顔でニヤリと笑っている絵が浮かんだ。
(まったく。先に言ってくれればいいものを……)
と思いながら部屋に入ってリルとマロンに帰還の挨拶をする。
すぐに、
「腹が減ったぞ」
「お腹ペコペコ!」
と言ってくる二人を連れ、その日も「憩い亭」に赴き、やはり素材の味をいかした肉餡掛けチャーハンを食べた。
翌朝。
朝食をとり終えたころ。
フィッツランドの代表団が到着する。
私はすぐにカイゼルさんを捕まえ、
「御前試合など聞いておりませんでしたが?」
と軽く不満をぶつけた。
「ああ。言ってなかったからな。言えば嫌がられるかもしれんと思ったから黙っておいた。まぁ、お前なら問題ないだろうが、恥ずかしい試合はするなよ?」
カイゼルさんは悪びれる様子もなくそう言ってくる。
私は諦めの息を吐き、
「かしこまりました。善処します」
と答えた。
その後、昼を挟んでフィッツランドの面々で会議になる。
私はそこで昨日指摘された問題点をあげた。
「たしかに言われてみればそうだし、その問題はわりと放置されてきた感がある。どうでしょうか、王。この際、抜本的な改革に乗り出しては?」
「そうだな。森のことは庭師に一任するという暗黙の了解があったせいで体制整備が追い付いていないのは事実だ。ユーリ。なにか案はあるか?」
「はっ。森の奥へ向かい討伐する人員を増やすのは簡単ではありません。しかし、森のほんの浅い部分での活動やいざという時の避難誘導などは騎士団に一任できる内容も多くあります。その点に関しては騎士団との間で調整が可能なのではないでしょうか?」
「そうだな。庭師の数を増やすのは簡単ではないが、騎士団の人数を増やすことは短期に実行可能だ。来年から騎士学校の入学者数を増やしてもいいかもしれん。カイゼル。その点は帰国し次第至急ノルドと詰めてくれ」
「かしこまりました」
それで庭師関連の報告は終わる。
あとは同じように各部門からの報告があがり、我が国としての意見をまとめていった。
少し議論が熱くなる場面もあったが、予め準備してきたこともあって会議は無事夕方までに終わった。
「今日の夕食は一緒に食べよう。旅の話も聞かせてもらいたいしな」
「了解です。宿でとりますか?」
「ああ。外に出てもいいが、いい店を知っているのか?」
「高級なところは残念ながら。私が教えてもらったのは近所の定食屋だけです」
「そうか。しかし、そういうところで、この町の飾らない味を知るのもいいだろう。王の許しはもらっている。案内してくれ」
「わかりました。では普段着に着替えていきましょう」
「ああ。そうだな。この恰好でいったら驚かれるだろうからな」
「ええ。では後ほど」
そう言って、いったんカイゼルさんと別れる。
手早く着替えてリルとマロンを伴い、宿の玄関ホールで待っているとくつろいだ格好のカイゼルさんがやってきた。
「すまん。待たせたな」
「いえ。さっそく行きましょう」
と言い、さっそく町に出ていく。
「憩い亭」にはあっという間に着き、そこでカイゼルさんは例のロック鳥の焼き物、私たちは羊肉のソーセージ盛り合わせ定食を頼んだ。
ひとしきり食べ終え、食後のお茶を頼む。
「旅は楽しめたようだな」
「はい。満喫させていただきました」
「海の魚は美味かっただろう」
「はい。久しぶりに刺身を食べました」
「いつ以来だったかな?」
「たしか、私が庭師になるほんの少し前のことだったと思います」
「ああ。あれもお前に広い世界を見せたいと思って、南側の海沿いまで旅をしたんだったな」
「あれはいい経験になりました。海の広さをしって、自分の知っている世界が狭いことを知れましたから」
「お前にはもっと広い視野を持った人間になって欲しいと思っていたからな」
「ありがとうございます。私はカイゼルさんに拾われて本当に幸せでした」
「なに。それもユーリ、お前の自身がたゆまず努力をしてきたからだ。もっと自信を持っていい」
いかにも父と子らしい会話をしながらゆっくりお茶を飲む。
私はその時間をゆっくりとかみしめるように味わい、偉大な父の心の広さを改めて感じた。




