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最強「庭師」ユーリの任務録 ~天才剣士は今日も「日常」を守るために働く~  作者: タツダノキイチ
第二部

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庭師と冬の森

王女様のお茶会に招かれてから数日。

いつものように森に向かう。

今回の任務にはマロンとリルもついてくることになった。

「お散歩楽しみだね!」

「おいおい。一応、仕事だぞ?」

「わっふ! それでも楽しみ!」

「ははは。わしら神獣にとって森は庭のようなものじゃからな」

「そうだな。でも、危ないこともあるからはしゃぎすぎないでくれよ?」

「はーい!」

いつにも増して楽しそうなリルをみてこちらも楽しい気分になりながら森に入っていく。

慣れた足取りで森を進むこと二日。

今回の任務で確認すべき薬草の群生地のひとつに辿り着いた。

「異常は無さそうだな。鹿の足跡があるが、たまたまだろう。鹿はこの草を食わんからな」

「うむ。魔獣の気配も感じられんぞ」

「ありがとう。助かるよ」

「ねぇ。今日はここでご飯?」

「ん? そうだな。もう少し先に進もうか。たしか小さな水場があったはずだ」

「そうなんだ。早く行こう!」

「ははは。そうだな」

そう言ってリルを軽く撫でてやり、さっそく水場に向かう。

ほどなくして水場に辿り着き、私は野営の準備に取り掛かった。

冬枯れの森で火をおこし、暖を取る。

パチパチとはじける薪の音を聞きながら鍋に野菜や加工肉を入れていった。

「今日は具沢山のポトフだ。ソーセージもベーコンもいいやつを買ってきたからきっと美味いぞ」

「わっふ!」

「うむ。なかなかよい匂いがしておるわい」

「たっぷり作ったからな。たっぷり食べて温まろう」

「わっふ!」

「いただきます」の声をそろえ、さっそく食事を始める。

熱々のポトフをフーフー言いながら食べると体の奥からじんわり温もってきた。

「寒い日は特に美味いな」

そう言う私に、マロンは少し苦笑いをしながら、

「わしらはあまり寒さを感じんが、こういう冬の景色の中で温かいものを食べるという風情はなんとなくわかるぞい」

と答えてきた。

「僕もなんとなくわかるよ! なんだか気持ちがぽかぽかするもん」

リルがマロンの真似をしてそう言い、私に頭を摺り寄せてくる。

私はそれを軽く撫でてやりながら、またフーフーと息を吹きかけ、ポトフを口にした。

食後のお茶が済み、小さなテントの中でみんなが寄り添って寝る。

リルのふわふわの毛とやわらかな温もりに包まれ、私はなんとも贅沢な気分で目を閉じた。

翌朝。

任務に戻り、また森の奥を目指す。

「わっふ! 知ってる匂い! これ、サイクロプスだよ」

そう教えてくれたリルを軽く撫でてやり、さっそく現地に向かう。

そこにはリルが言ってくれた通り三匹のサイクロプスがいた。

「すぐに済ませてくるからな」

「いってらっしゃい」

まるで近所へ買い物に出かけるような挨拶をして、サイクロプスに近づいていく。

途中、気付かれたが堂々と正面に立ち、刀を抜いた。

襲い掛かってくる拳をくるりとかわしついでに腕を両断する。

痛がる個体には目もくれず、さっさと次の個体に移った。

蹴り上げてくる足をかわし、軸足の方を斬る。

ドサッと倒れる音がした瞬間、後ろから拳が飛んできた。

さっと後方に宙返りをしてかわす。

どうやら先ほど腕を両断された個体が痛みに耐えつつ突っ込んできたらしい。

今度こそ黙らせようと胴をひと薙ぎする。

ついでに倒れている個体の首筋も薙いで完全に黙らせた。

残り一匹となったところで、最後の個体ががむしゃらに拳を振り回してくる。

私はそれを何回か避け、最後はがら空きになった胴を斬った。

「ふぅ……」

軽く息を吐き刀を納めた私に、マロンが、

「本当に踊っているようじゃのう。本気で習えばアーニャと踊れるくらいにはなるんじゃないか?」

とからかうような声を掛けてくる。

「冗談はよしてくれ」

と苦笑いして答えると、マロンはなぜか、「ふっ」とため息交じりに笑った。

いつも通りその場を処理して次に向かう。

次の群生地でも目立った異常は認められなかった。

その日の夜もみんなで温かい鍋を囲む。

その日は魚の干物で出汁をとったトマトスープにした。

滋味深い味わいが胸に広がりほっと息を吐く。

「お魚も美味しいね」

「ああ。そのうち海のある地域まで遠征できたらいいんだがな……」

「うむ。久しぶりに刺身を堪能するのもよいかもしれんのう」

「さしみ、ってなぁに?」

「刺身とは生の魚のことじゃよ。小さく切って、ワサビ醤油で食べるんじゃ」

「それって美味しいの?」

「ああ。魚を食うならあの食い方が一番じゃな。魚本来の味が堪能できるぞ」

「わっふ! それ食べたい! ねぇ、ユーリ。海、行こう?」

「ははは。そうそう都合よく海のある町に行くことがないからな。しかし、そのうち、そういう機会もあるだろう。たまに薬をまとめて卸す一行の護衛任務があるからな。本来なら新人の役目だが、ノルドさんに頼めば行かせてくれるだろう」

「そうなんだ。早く行けるといいね!」

「ああ。そうじゃな」

「ふっ。帰ったら頼んでみるよ」

「やった!」

そんな話をしていると、なんだか無性に刺身が食べたくなってきた。

(王都で食える刺身というと、鱒くらいしかないからな。昔、新鮮なイカの刺身を食ったことがあるが、あれは美味かった。ゲソのコリコリした食感と身のねっとりとした甘み。どちらも甲乙つけがたかったな。他にもいろんな刺身があったが、さすがに全部は食えなかった。次に行く機会があったら、是非マグロを食ってみたいものだ……)

そんなことを思って私は少しぼやっとしていたのだろう。

リルが少し心配そうな顔で、

「ユーリ、どうしたの?」

と聞いてきた。

「ああ、いや。ちょっと刺身のことを考えていてな。あれは美味しかったなって」

「いいなぁ。僕も食べたい!」

「そうだな。いつかみんなで食いに行こう」

「約束だよ!」

そう言って頭を擦り付けてくるリルをよしよしと宥めるように撫でてやる。

焚火の火とリルの温もりその両方を感じながらその日も平穏に暮れて行った。


翌日からも薬草の群生地を回って異常がないかを確認していく。

三日ほどかけて五か所の群生地を見回ったが、目立った異常は認められなかった。

そのことにほっとしつつその場で軽く状況をメモしていく。

そして、そろそろ帰路に就こうかというところで、リルが、

「知らない匂いがする!」

とやや緊迫しながら教えてくれた。

「わかった。行ってみよう」

私もやや緊張しながら先導してくれるリルについていく。

しばらく行くと、森が乱雑に踏み荒らされた痕跡を発見した。

「ちっ!」

思わず舌打ちし、急ぎ足で痕跡を追う。

「ロックリザードか」

「ああ」

「厄介じゃのう」

「力を貸してくれるか?」

「いや。最初は自力でやってみい」

「……」

「なに、今のお主ならいけるじゃろう」

「ふっ。了解だ」

そう言っているうちに痕跡の主の大きな体が見えてきた。

ロックリザードは学者によっては亜竜に分類することもあるらしい。

その巨体は十メートルを超え、全身が岩を思わせるような硬い鱗で覆われている。

狙うとすればその岩のような鱗のつなぎ目や関節、腹の柔らかい部分ということになるが、なにしろ巨体をひっくり返すということが難しい。

通常であれば、魔法使いが足止めをしている間に防御魔法に長けた人物が体当たりで体を浮かせ、そこに剣士が斬りつけるという方法が取られるはずだ。

今回はそれができない。

せめてマロンに魔法で弱点をさらすようお願いしたかったが、マロンは私一人でなんとかして見せろと言う。

私は、

(やれやれ……)

という気持ちがありながらも、どこか、

(ならばやってやろうじゃないか)

と思う気持ちを持ちつつ、のんびり草を食っているロックリザードに向かって駆け出していった。

刀を抜き、試しに鱗を斬ってみる。

「キィン!」

と硬い音がして、刀が見事に弾かれた。

一瞬刃こぼれでもしたんじゃないかと思って刀を見るが、どうやら無事だったらしい。

(もし、刃こぼれでもしていたらゴードンさんに大目玉を食らうところだったな……)

と少しヒヤヒヤしつつ、今度は足の関節を狙って刀を振った。

ざっくりと斬れ、ロックリザードが「グオォォッ!」と地響きのように低い唸り声を出す。

どうやら、多少は効いているようだが、傷はかなり浅く見える。

おそらくかすり傷程度の痛みしか感じていないのだろう。

私はなんとなく悔しくなりつつも、

(冷静になれ。魔力を高めて集中しろ)

と自分に言い聞かせた。

ロックリザードがその巨体をゆっくりと動かす。

どうやら尻尾を叩きつけてくるらしい。

そう思って私は一気に飛び上がると猛烈な勢いで振られた尻尾の攻撃をなんとか避け、ロックリザードの背に飛び乗った。

ゴツゴツした岩のような感触を味わいつつ、首筋めがけ駆け出す。

おそらくロックリザードも気が付いたのだろう。

急に立ち上がって私を振り落とそうとしてきた。

その瞬間、

(ハマった!)

と思い斜め前方に飛ぶ。

私は十メートルはあろうかと言うロックリザードの頭上まで到達し、そこで一回転しながら体を捻り、その勢いのまま刀を振り下ろした。

喉から腹にかけての柔らかい部分をざっくり斬り裂く。

着地と同時に飛び退いたが、ロックリザードはそのまま仰向けに倒れていった。

すかさず駆け寄り大丈夫だろうと思いつつトドメを刺す。

「ふぅ……」

と息を吐き刀を納めると、

(さて。戻ったらみんなして素材の回収をせんといかんな……)

と思い軽く苦笑いを浮かべた。

「ほれ。なんとかどころか楽勝だったじゃろ?」

呑気なことをいってくるマロンに、

「いや。今回は運が良かっただけだ。あのまま丸まられでもしたら太刀打ちできなかっただろうよ」

と答えるが、マロンは、

「なに。鱗ごと斬ればよいのじゃ」

となんとも無茶なことを言ってきた。

「そんな無茶な……」

と言う私にマロンがすかさず、

「そのくらい今のお主ならできるはずじゃぞ?」

と言い真剣な目を向けてくる。

そんなマロンになにも言い返せずにいると、マロンは軽くため息を吐きつつも微笑んで、

「限界を決めるな。現実を見て着実に剣を振るうのはお主の良さじゃが、お主は勝手に自分の限界を決めようとする癖がある。もっと自分の力を信じ、まっすぐに刀を振るうんじゃ。そうすればまた新たな道が拓けようぞ」

と言ってきてくれた。

「ありがとう」

そう言って素直に頭を下げる。

「うむ。精進あるのみじゃぞ」

マロンがそう言って、リルの背中に飛び乗る。

リルはどこか嬉しそうに私にすり寄って来ると、

「ユーリ、がんばれ!」

と言ってくれた。

リルを優しく撫でてから自分が持てる分の素材を剥ぎ取り始める。

(限界を超えるか……。簡単に言うが、なかなかの難題だぞ?)

私がそんな風に思いながらチラリとマロンの方を見ると、マロンは呑気にリルの上で丸くなっていた。

「ふっ」

と笑って作業の続きにとりかかる。

(限界ねぇ……)

私はまたそんなことを思いつつ、ロックリザードの素材を収納の魔道具にしまっていった。


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