庭師と森の変調01
秋も深まり、そろそろ町が冬支度を始めるころ。
いつもの任務でいつものように森に向かう。
森の一番浅い所にある野営場所に着くと、そこでさっそく夕食の準備を始めた。
熱々のシチューが出来上がり、みんなで一緒に食べる。
「今回の任務は森の奥地の調査だ。これまで調査の手があまり入ってこなかった地域も含まれるから油断せずにいこう」
「ふっ。わしらにとってはどこも同じようなものじゃ。お主こそ気を引き締めてかかれよ」
「ああ。そうだったな。そうしよう」
「わっふ! いつもより長いお散歩楽しみだね」
「ははは。そうだな。楽しくお散歩して元気に帰ろう」
「うん!」
リルの明るい言葉になんとなく元気をもらい、前向きな気持ちで温かい食事を終えると、みんな一塊になって暖をとりながら眠りに就いた。
それから三日ほどは順調に進む。
最初に魔獣に出くわしたのは四日目の朝だった。
「リザードマンか……。なんでこんな寒い時期に活発に動いているんだ?」
「知らんわい。しかし、けっこうな数じゃのう」
「うん。知らない匂いがいっぱいするよ」
「湿地帯での戦闘になると少し厄介だが仕方ないな」
「ふっ。それが剣士の辛いところじゃの。雑魚でも大量だと一撃で終わらせることができんからな」
「ああ。まったくだ。……手伝ってくれてもいいんだぞ?」
「甘えるでないわい」
と話しながら痕跡を追っていく。
辿り着いた湿地帯にはそれこそ百を超える数のリザードマンがたむろしていた。
「これは大仕事だな」
軽く苦笑いしながらそう冗談を言い、刀に手を伸ばす。
ひとつ息を整え、一気に抜き放つと、私はリザードマンの群れの中央めがけて一気に駆け出した。
すれ違いざまに何匹かのリザードマンを斬り、群れの中央に立つ。
いきなりの敵の登場に驚いた様子のリザードマンたちだったが、立ち止まった私を見て、一斉に襲い掛かる決心をしたらしい。
私の周りをぐるりと取り囲むように距離を詰め、「グギャァ!」と気味の悪い鳴き声を発しこちらを威嚇してきた。
少し腰を落とし、「ふぅ……」と息を吐く。
そして、気合とともに刀を一閃し、目の前にいた数十匹のリザードマンを両断した。
(やはりとんでもない威力だな……)
と思いつつ走り、穴の開いたリザードマンの包囲網から抜け出す。
あとは慌てふためき、バラバラに襲ってくるリザードマンたちを順に屠っていくだけの作業となった。
最後の一匹、少し大きい個体を斬り、刀を鞘に納める。
ぬかるみで動き回った私の靴はじっとりと濡れていた。
(まったく。かなわんな……)
と内心愚痴りつつマロンとリルのもとに戻る。
「ふっ。お疲れじゃったのう」
と軽く労ってくれるマロンに、
「ああ。このザマさ」
と言って靴を見せると、
「どれ。少しじっとしておれよ」
と言われた。
(はて。なんだろうか?)
と思っている私をいきなりマロンの魔法が覆う。
「ぬおっ!」
思わず私が驚くと、
「これ。じっとしておれ」
とマロンに少し怒られてしまった。
言われた通りじっとしていると、すぐにマロンが魔法を止め、
「ほれ。頑張った褒美じゃ。ありがたく受け取るがいい」
と言ってくる。
私がまた「はて?」と思っているとマロンが、
「掃除をしてやったんじゃ。ありがたく思え」
と言ってきた。
そう言われてやっとマロンが何をしたのか気付き、自分の足をみる。
あれだけ濡れて気持ち悪かった靴やズボンはきれいさっぱり乾き、汚れも落ちていた。
「すごいな……」
改めて感嘆する私にマロンが、
「礼くらいいわんか」
と拗ねたような口調で言ってくる。
その姿がなんともマロンらしいと思った私は、ついつい微笑んで、
「ありがとうな。助かったよ」
と言いつつマロンの頭を撫でた。
「ふんっ」
と拗ねたような感じでそっぽを向くマロンだが、その表情はどこか誇らしげでもある。
私はまたなんとも微笑ましい気持ちになり、
「昼はホットサンドでいいか?」
と聞いた。
「チーズと肉はたっぷりじゃぞ。パンはしっかり焼いてパリっとさせてくれ」
「僕もそれがいい!」
「はいよ」
注文が決まったところでさっそくホットサンドを作り始める。
ハンナさん特製の小麦がしっかりと香る甘味豊かな食パンにコンビーフとチーズを満杯に入れてホットサンドメーカーで焼くと、あっという間に熱々のホットサンドが出来上がった。
まずはマロンに与え、次にリルの分を焼く。
マロンは私たちを待たずに食べ始めたが、リルは、
「ユーリと一緒がいい」
と言って、私の分が焼けるのを待っていてくれた。
そんな可愛らしいリルと一緒に出来立てのホットサンドを頬張る。
パリッとしたパンの表面としっかりとした小麦の香り、そして中からあふれ出すチーズとコンビーフの濃厚なうま味が口の中で重なり合い、絶妙なハーモニーを奏でた。
(やっぱりハンナさんのパンは美味いな。店で買うものとは一味違う。さすがだ)
そんな感想を持ちつつ、お茶にする。
お茶を飲みながら、マロンに、
「この時期のこの場所でこのリザードマンの大群というのをどう思う?」
と聞くと、マロンは少し考えてから、
「奥が気になるのう。これは少し覚悟した方がいいかもしれんぞ」
とかなり気になる回答を寄こしてきた。
「やはりそう思うか……」
そうつぶやく私にリルが、
「大丈夫。いざとなったらお手伝いするからね!」
と明るい言葉を掛けてきてくれる。
私がリルの頭を撫で、
「ああ。よろしくな」
と言うとリルは嬉しそうに頭をぐりぐり擦り付けてきた。
準備を整え、再び森の奥を目指す。
すると二時間ほど歩いたところで、オークの群れらしい痕跡を発見した。
(なるほど。リザードマンはこいつらに追い立てられていたのか……)
と思いつつ、痕跡を追っていく。
群れに迫れば迫るほど、かなりの数のオークがいるらしいことがわかり、最終的な見込みは三十ほどだろうということになった。
(おいおい……)
確かな異常の気配に軽くため息を吐きつつ現場に急行する。
十五分ほど進むと見込み通り三十ほどのオークがたむろしているのを発見した。
(もう少し開けた場所ならやりやすかったんだろうが、森の中か……。一匹ずつ相手をしなくちゃいかんようだな)
軽く作戦を立て、刀を抜く。
そして私は堂々と正面からオークの群れに向かっていった。
「ブモォォッ!」
叫びながら拳を突き込んでくるオークの脇を抜けすれ違いざまに足を両断する。
倒れるオークにはかまわず目についた大木を背にすると、両側から同時に襲い掛かってきた二匹のオークを同時に両断した。
素早く駆け出し、さっき斬ったオークの後方にいた個体に狙いを定める。
振り下ろされた拳を高く飛び上がってかわすとそのまま空中でくるりと回り、オークの首を一閃した。
スッと着地しまた素早く動く。
かわしては斬り、斬ってはかわすという動きをひたすら繰り返すこと二十分。
最後の一匹を袈裟懸けの一刀で沈めるとそこで戦闘は終了した。
「ふぅ……」
と息を吐き、刀を鞘に納める。
休む間もなく倒したオークを焼く作業に取り掛かり、灰の中から魔石を取り出して討伐は無事完了した。
「この辺りにしてはけっこうな数じゃったのう」
「ああ。いよいよ何かがおかしい。これは本当に覚悟が必要なようだ」
「うむ。久しぶりに大物の予感がするわい」
「そうか。例えば?」
「一番ありそうなのはミノタウロスの群れあたりじゃろうな。あとはコカトリスかロックリザードといったところかのう」
「どれも厄介だな。ミノタウロスはとにかく強いし、コカトリスは毒がある。ロックリザードに至っては硬いから手数が必要だ。まぁ、他にもサイクロプスやコングの群れなんかの可能性もあるだろうから、どれが出てきてもいいように心構えはしておかなければな」
「ああ。いざという時は手伝ってやるから安心して戦うがよいぞ」
「ありがとう。その言葉だけで助かるよ」
そう現状を簡単に考察し、いそいそとその場を後にする。
(はてさて。この先どうなることやら……)
私は一抹の不安を抱えつつ、その日の野営場所を探し、森のさらに奥を目指した。




