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最強「庭師」ユーリの任務録 ~天才剣士は今日も「日常」を守るために働く~  作者: タツダノキイチ
第一部

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騎士と庭師02

五人組の近衛騎士団を一人で相手にするという過酷な訓練を三回ほど続けざまにやって、汗を拭う。

それぞれの小隊がそれぞれに陣形を工夫してくるから、こちらも気の抜けない戦いになった。

(やはりあの十手というのは厄介だ。あの鉤の部分で刀を捕らえられれば一瞬で動きを止められてしまう……。あれを思いついたというハンナさんの発想力は本当にすごいな……)

と思いながら、私を制圧できずに悔しそうにしている近衛騎士たちを見ていると、カイゼルさんが、いきなり、

「敬礼!」

と声を張り上げた。

その場にいた全員が一瞬で緊張し、敬礼をする。

「みなさん。ごきげんよう。少し見物させていただいてもよろしいでしょうか?」

そう言って私たちに近づいてきたのは、胸にマロンを抱いたこの国の第三王女、アナスタシア殿下だった。

「はっ! 御意のままに」

カイゼルさんがそう答えると、アナスタシア殿下は嬉しそうに微笑み、側にいた護衛の女性騎士にちらりと目をやったあと、私に視線を向け、

「セレナも訓練に参加したいそうですわ。どうぞ、お相手をしてあげて?」

と、いかにもお姫様らしく無邪気な感じでお願いをしてくる。

私はいかにも困ったという表情で苦笑いしつつもそのお願いを聞き入れ、

「お手柔らかにお願いいたします」

とセレナを見ながら苦笑いでそう言った。

「今日こそ一本取るまで付き合ってもらうわね」

「今、三連続で制圧戦の訓練に付き合ったばかりで疲れているんです。少し手加減していただけると助かりますが……」

「ふっ。ユーリがその程度で疲れるわけないじゃない」

「いやいや。さすがに私も……」

「四の五の言わずにさっさとやるわよ」

「かしこまりました……」

そんな手厳しい言葉をもらい、ため息交じりに闘技場の中央に移動していく。

そして、セレナが、

「いくわよ!」

と言って剣を構えると、そこからは少しばかり気を引き締め、セレナの剣に向き合うことになった。

閃光とあだ名されるセレナの素早い剣が次々と私に襲い掛かってくる。

私は集中してそれを的確に弾いていった。

(身体強化の魔法無しでこれなんだから、たいしたものだな……)

と思いつつ、セレナの隙を窺う。

セレナの剣は確かに恐ろしいほど速かったが、正確で真っ直ぐな剣筋をしているので、正直、捕らえるのはそれほど難しいことではなかった。

やがて、疲れの見えてきたセレナのわずかな剣の乱れをつき、剣を絡め取るように巻き上げる。

すると、セレナは小さく、「あっ」と声を上げ態勢を崩した。

そこへすかさず木刀を差し出す。

私の木刀はセレナの胴の辺りにちょこんと当たり、セレナが、いかにも苦々しいというような表情で、

「参った」

と声を絞り出した。

「もう一本!」

と言ってくるセレナに、

「いやいや。さすがに、勘弁してくれ」

と願い出るが、セレナはさっさと間を取り、再び剣をこちらに向けてくる。

私は「やれやれ」と思いつつ、再びセレナと相対した。

そんな稽古が三本続き、カイゼルさんから「そこまで」の声がかかる。

セレナはなんとも不満げな表情をしていたが、渋々という感じで剣を納めてくれた。

「やっぱりユーリは相変わらずね」

「お褒めにあずかり光栄だ」

「ふんっ。次こそ覚えておきなさい」

「ああ。またやろう」

最後は握手をして稽古を終える。

そして、しれっと下がろうとする私の前に今度はカイゼルさんが立ちはだかった。

「次は私だ」

「いや、ちょっと休憩を……」

「何を言っておる。お前の体力が化け物並みなのはみんな知っているぞ?」

「……」

「ほれ。さっさと構えろ」

そう言い捨てるとカイゼルさんが真剣な面持ちで木刀を構える。

私は先ほどより、気を引き締めてカイゼルさんに相対した。

裂ぱくの気合と共に、繰り出されるカイゼルさんの重たい袈裟懸けの一刀をなんとかかわし、素早く突きを入れる。

当然、その突きは交わされ、すぐさま胴に横なぎの一閃を叩き込まれてきた。

ギリギリでかわし、くるりと回りつつ、こちらも横なぎの一閃を繰り出す。

カイゼルさんはそれを軽々と受け、お互いが間合いを詰め、鍔迫り合いの形になった。

「軽いぞ」

「疲れを考慮してください」

「ふっ。笑わせるな」

そう言葉を交わし、お互いにさっと距離を取る。

そこからは、壮絶な打ち合いが始まった。

私が袈裟懸けの一撃を放てば、カイゼルさんはそれをギリギリでかわしつつ踏み込んで下段から木刀を跳ね上げてくる。

私もそれをすんでのところでかわすと身を低くして踏み込み、太ももの辺りに横なぎの一閃を放つが、それをカイゼルさんがかわし、また重たい一撃を放ってくるというような攻防が幾度も続いた。

お互いに攻め手を失い、膠着状態になる。

(不用意に突っ込めば負ける……)

きっとお互いがそう思ったのだろう。

しばらくにらみ合いが続き、じりじりとした時間が流れた。

(次で決まる……)

そう思った刹那、カイゼルさんの体から一気に魔力があふれ出す。

私も負けじと魔力を練って集中を高めた。

そしてまるでお互いが示し合わせたように同じタイミングで動き、カイゼルさんの袈裟懸けの一刀と私の下段からの一刀が交錯した。

バチン! と音がしてお互いの木刀がはじけ飛ぶ。

「……またか」

カイゼルさんがさもおかしそうにそう言うと、私も、

「ええ。またですね」

と微笑みながらそう返した。

握手を交わし、礼をして稽古を終える。

「ゴードンに頼めば、ちょっとやそっとじゃ折れない木刀を作ってくれるだろうか?」

「どうでしょう? ああ、そう言えば、ゴードンさんから黒ダモで刀を作らないか、と勧められました」

「黒ダモだと?」

「はい。なんでも私の魔力に対応するためにはそれを使うしかないという話で……。一応一筆書いてもらってきました」

「……そうか。後日、王と財務卿に諮っておこう」

「申し訳ございません」

「そこは謝るところじゃないぞ?」

「そうでした。ありがとうございます」

「うむ。これからも精進するように」

「はい」

そんな言葉を交わしながら、騎士たちの元へ向かう。

そして、私とカイゼルさんはアナスタシア殿下の前に跪くと、

「本日の稽古は以上でございます」

と挨拶をした。

そんな私たちに、相変わらずアナスタシア殿下の腕に抱かれたマロンが、

「お主ら、相変わらずじゃのう」

と、なんだか呆れたような声を掛けてくる。

私はチラリとマロンに視線をやったが、アナスタシア殿下は「うふふ」と微笑み、マロンを撫でながら、

「速すぎて私にはなにがなんだかわかりませんでした。でも、きっとすごいことをしていたのでしょうね。いつもご苦労様です」

と労いの言葉を掛けてくださった。

「ありがたき幸せにございます」

そう言っていっそう深く頭を下げる。

「また見せていただきにきますね」

とご機嫌にそう言って帰っていくアナスタシア殿下を全員が敬礼で見送り、その日の稽古はようやく終わった。

みんなの後片付けを手伝い、家に戻る。

汗と埃にまみれた服を脱ぎ、手早く風呂を済ませると、私は空きっ腹を抱え、伯爵家の母屋に向かった。

勝手口から入り、

「お疲れ様でしたね」

と言ってくれるハンナさんに軽く礼を言って、家族用の食堂に入ると、そこにはカイゼルさんとノンナ、それにマロンが、すでに座っていた。

「遅くなりました」

と言って席に着くと、ノンナが、

「また木刀をダメにしたの?」

と聞いてきたので、カイゼルさんと一緒に苦笑いしながら、

「ああ。いつも通りな」

と答えた。

そこへ鍋と材料を持ってハンナさんとメイドがやってくる。

そして、食卓の準備が整うとメイドが一礼して部屋を出ていった。

「さぁ。今日はいっぱい運動したんだからお腹が空いているでしょ? たくさん用意したからたくさん食べてね」

「「「「いただきます」」」」

と声を揃えて家族団欒の時間が始まる。

熱々の鍋をみんなでつつき、他愛のない会話をして楽しい時間が過ぎていった。

〆のラーメンを食べ終え、

「明日からはまた任務か?」

「はい。軽く今後の予定を話し合ったらまた森に入ることになると思います」

「そうか。くれぐれも気を付けてな」

「ええ。無理はいけませんよ?」

「はい。心得ております」

という何気ない言葉を交わしながら食後のお茶を楽しむ。

緑茶というこれまたハンナさんがこの国にもたらした素晴らしい逸品を楽しみつつ、家族で囲む食卓にはいつも通りのんびりとした空気が漂っていた。

(この幸せがいつまでも続けばいい……)

心からそう思いつつ、お茶をすする。

爽やかな苦みとほんのりした甘さが喉を潤し、私のお腹に幸せな温もりを与えてくれた。


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