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最強「庭師」ユーリの任務録 ~天才剣士は今日も「日常」を守るために働く~  作者: タツダノキイチ
第二部

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みんなとお肉

肉が悪くなる前に急いで森を出る。

かなり急ぎ足で戻ったので、五日ほどで王都に到着した。

「魔獣の肉は持ちがいいから大丈夫だと思うが、一応確かめてくれ」

庭師行きつけの料理屋「煉瓦亭」に肉を持ち込み、店主に確認を求める。

「こいつぁ……。庭師のみなさんに振舞っても十分過ぎるほどのお釣りがきますぜ?」

そう言う店主に、

「じゃあ、近所の連中にも振舞ってくれ。きっとみんな喜んでくれるぞ?」

と言うと、店主は困ったような笑顔で、

「どちらにしろ、うち一軒じゃ捌けませんよ。それこそハンナ様にお預けになったらどうです? この質の肉ですから、王宮でお出ししてもなんの問題もないと思いますよ」

となかなかいい進言をしてきてくれた。

「そうだな。よし。ハンナさんに相談してみよう。いい案をもらった。ありがとう」

そう伝えてたっぷり過ぎるほどの肉を卸し、店を後にする。

いったん詰所に戻りノルドさんに状況を報告すると、私は急いで家に戻り、ハンナさんに状況を説明した。

「あらまぁ。そうなのね。じゃあ、王宮の料理長にお肉を渡してきてくださいな。きっと美味しいローストビーフにしてみんなに振舞ってくれますよ。うちは家族が食べる分があればいいから、一塊もあれば十分ですからね」

「わかりました。じゃあ、約束通りシャトーブリアンを置いていきましょう。夕食を楽しみにしています」

「はいはい。料理長さんによろしくね」

そう段取りを決めて私は王宮の台所に向かう。

王宮の料理長は顔見知りとあって、勝手口から訪ねると喜んで台所に招き入れてくれた。

「忙しいところすまんな。とにかく大量のモルフォスの肉が手に入ったんだ。庭師全員とご近所さん、それに我が家だけではどうにも食べきれないほどの量があるんでハンナさんに相談したらここへ持ってくるといいということになってな。なんでもローストビーフにするといいとか言っていたが……」

「それはありがとうございます。ちょうど先日ハンナ様からローストビーフのコツを伝授していただいたばかりでして。さっそくその味を再現してみせますよ」

「そうか。それはよかった。おそらく王宮で働くみんなの分もあるだろうから、大変だろうが頑張って振舞ってやってくれ」

「がってんです! おい、おめぇら! 庭師様から大量のモルフォス肉をいただいたぞ。みんなに食わせる分もあるらしいから、気合入れて調理にかかりな!」

「おう!」

料理人たちの気合をなんとも頼もしく思いながら、王宮の台所を後にし、自宅へ戻る。

なんだかソワソワしたような気分を落ち着けようと、とりあえず風呂に浸かる。

「ふぅ……」

と息を吐き、呼吸を整えていると、段々心が落ち着き、腹が減ってきた。


風呂から上がると少し体の火照りがとれるのを待ってから母屋に向かう。

「楽しみじゃのう」

「きゃっふーん!」

「ああ。同じ肉でもハンナさんの手にかかるとまるで別物になるからな」

「楽しみ!」

「ああ。たくさん置いてきたからきっとお代わりもたんまりあるぞ」

「やった!」

そう話しながら母屋に入るとすぐ家族の食堂に向かった。

「ただいま戻りました」

「うん。ご苦労だったな」

「いえ。試し斬りに行ったようなものでしたから、さほど苦労はありませんでしたよ」

「そうか。で、どうだった?」

「はい。一番いい肉をくすねてくることができました」

「……そっちじゃない。刀の方だ」

「……ああ、すみません。さすがのじゃじゃ馬ぶりで少し手懐けるのに苦労しましたが、二、三回魔獣を相手にしたところでなんとか手に馴染むようになりました」

「そうか。一度実際に見てみたいものだな」

「魔獣討伐に参加されますか?」

「ふっ。時間があればそうしたいものだ」

「そうですね。王の許しが出れば是非あの頃のようにご一緒したいものです」

「ああ」

最後は昔を思い出し少し懐かしいような気持ちになりながら、料理の到着を待つ。

すると、

「お待たせ。できたわよ!」

と相変わらず元気な声のノンナがカートを押して入ってきた。

「ご飯もたっぷり炊きましたからね。どんどん食べてくださいな。なんなら丼にもできますよ」

「ほう。それはよい。あとでそうしてもらおうかのう」

「僕も! 僕も丼食べる!」

ハンナさんの提案にさっそくマロンとリルが反応して、楽しい食事が始まる。

「いただきます!」

全員の声が揃うと、さっそくみんなが肉を口に運んだ。

「むっ!」

「まぁ……」

「うそ。やばっ……」

そんな言葉にならない感想がカイゼルさんたちから漏れてくる。

一方マロンとリルは少し落ち着いて、

「うーむ。やはりハンナが焼くと全然違うのう。火の通し加減が絶妙じゃ。それにこの塩気のちょうどよさよ。何もつけんでも全部いけそうじゃわい」

「そうだね。でも、ソースたっぷりもものすごく美味しいよ。なんかね。お肉の甘いのとソースのちょっと酸っぱいのがちょうどあって癖になりそうなの」

と具体的な味の感想を述べてきた。

私はそれをなんともしてやったりというような表情で眺め、この上なく贅沢なステーキを思いっきり頬張った。


「おい。今日の事務仕事は明日に回してもいいからな。キリのいい所まで終わったやつから煉瓦亭に行け。一応師長命令だ」

「了解!」

粋な師長命令にみんなが笑顔で応え、みんなが早々に事務室を後にしていく。

役得で先に味わった私とラッツ先輩は少し遠慮し、みんなが仕事を切り上げて出て行くのを確認してから煉瓦亭に向かった。

「お肉。楽しみですね」

「ああ。あそこのおやっさんは肉を焼くのが上手ぇ。きっと野営中に食ったやつの何倍も美味いのが出てくるぞ」

「私、ちょっと贅沢に丼にしてご飯と一緒にかき込みたいです!」

「お。そりゃいいな。真似していいか?」

「もちろん!」

そんな話をしながら煉瓦亭に着くと、顔見知りで埋め尽くされた店内の隅っこの席に陣取り、ステーキ丼を注文した。

「ソースはちょっと濃いめにしてありますから、途中ワサビで味を調えながら食ってくだせぇ。肉はたんまりありますから、お代わりも遠慮しなくていいですよ」

そう言ってくれる店主に礼を言ってさっそくがっつく。

「うっま! やっぱ料理人の腕ってのはすげぇな」

「はい。でもユーリさんのすき焼きも絶品でしたよ?」

「ああ。でも、野営にはそれなりの限界があるからな。やっぱり何事も専門家の腕に任せるのに限るってもんさ」

「ですね。それは同感です」

「そういや、町にシューマイの専門店ができたの知ってるか?」

「シューマイの専門店ですか? それは珍しいですね」

「おう。そこのシューマイがよ。大振りで食べ応えもある上に飯によく合うんだとさ」

「……美味しそうですね」

「だろ? 今度一緒に行かねぇか?」

「はい! もちろんです。いつにします?」

「あー。そうだな。勤務中に行ってもいいが、どうせなら酒も飲みたい。明後日の仕事終わりでどうよ」

「了解です。ご馳走になります!」

「おいおい。誰が奢りだって言ったよ?」

「えー……」

「……ったく。しょうがねぇなぁ」

「よっしゃ! ごちです!」

そんな話をしながらニコニコ顔でステーキ丼をかき込む。

私の目の前でラッツ先輩は苦笑いをしていたけど、その顔はどこか楽しそうに見えた。

ワイワイ、ガヤガヤした雰囲気の店内で楽しく食べ、満足して家路に就く。

石畳の道をコツコツ歩きながら見上げる空には大きな満月が浮かんでいた。

(私、上手くやれてるよ)

故郷に残した両親の顔を思い出しながら心の中でそうつぶやく。

そうやって見上げる満月はなぜか笑っているように見えた。


「本日のメインはモルフォスの肉を使ったローストビーフでございます」

「ほう。それは珍しいな」

「はい。なんでも庭師さんが大量に仕留めたのだとか。それが王宮で働くみんなで食べても大丈夫なほどの量をいただきましたので、今も台所では次から次に焼いているところでございます」

「はっはっは。そんなことをするのはユーリのやつか? きっとハンナの指図もあるんだろうな」

「はい。その通りでございます」

「ふっ。あいつもなかなかのものよ」

「お父様! このお肉とっても美味しいですわ!」

「そうか、そうか。それは良かった。たくさん食べて元気になるんだよ」

「もう、お父様ったら。私そんなに子供じゃありませんわ」

「そうだったね。もうそろそろ十八になるんだったな……」

「ええ。あの小さかったアーニャちゃんがこんなに立派になって……」

「それもこれもユーリさんのおかげかもしれませんわ。だって、マロンちゃんを連れてきてくれたのも、スーちゃんを連れてきてくれたのもユーリさんなんですもの。そのおかげで私の体調もどんどんよくなっていますし、感謝してもしきれませんわ」

「ああ。そうだな。せめてもの褒美にと思ってユーリには刀の購入を許したが、そのうちもっとちゃんとした褒美を取らせなければならんだろう」

「まぁ。それは素敵ですわね」

「うむ。しかし、いろいろ問題もあるからなぁ……。はてさて、どうしたものか……」

「ユーリさんにご褒美をあげるのに何か問題があるんですの?」

「ん? いや。なに。いわゆる大人の事情ってやつさ」

「まぁ。それはなんだか大変そうですわね」

「ああ。しかし、その辺のことはカイゼルのやつも考えておるだろうから、そのうちきちんと話をすることにしよう」

「うふふ。どんなご褒美をおあげになるかわかりませんが、きっとユーリさんの喜ぶものにしてくださいましよ? だってユーリさんは私の命の恩人でもあるんですから」

「ははは。そうだね。ちゃんと考えて素敵なご褒美をあげることにするよ」

「お願いいたしましてよ」

王室のきらびやかな食堂に家族の笑顔が咲き誇る。

その笑顔はどんなに華美な装飾よりも美しく輝いていた。


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