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最強「庭師」ユーリの任務録 ~天才剣士は今日も「日常」を守るために働く~  作者: タツダノキイチ
第一部

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33/34

我が家とシチューと平穏な日常

トレント討伐が終わり、仮の拠点に戻る。

多少のけが人はいたものの、全員無事な様子に安心し、ほっと胸を撫で下ろした。

「さっそく乾杯といきたいところだが、森を出るまで待ってくれ。最後まで気を抜くんじゃねぇぞ!」

ノルドさんの声にみんなが笑顔で応える。

みんなでワイワイ言いながら過ごす森の夜は、これまでの単独行動とは違いなんだか遠足に来たような気分でなんとも楽しいものだと思った。

翌朝。

全員そろって意気揚々と帰路に就く。

当然、何事もなく村に着き、そこでちょっとした宴会を開くことになった。

「ユーリが土産で買ってきたワインがある。美味いからって飲み過ぎるなよ。明日、二日酔いで動けねぇなんてことになったら遠慮なくおいていくからそのつもりで加減しろ。お家に帰るまでが任務だからな」

「おう!」

みんなが笑顔で盃を交わし、労をねぎらいあう。

どうやらラッツさん率いる遊撃部隊はトレントに押されて湧き出てきた魔獣の対応に相当苦労させられたようだった。

「まったくよう。オークがわんさか出てきたと思ったら次は鹿の大群だぜ? それを追って虎やら熊やら次々に出てきやがるんだからたまったもんじゃなかったぜ」

「あれはちょっとげんなりしちゃいましたね」

「ああ。でもおかげで美味い熊鍋が食えたじゃねぇか」

「まぁ、そうだけどよ。それにしたって出過ぎは出過ぎだ」

ラッツさんを中心に少し愚痴りつつも、そういうみんなの顔はどこか楽しそうにしている。

きっと自分たちの役目をきちんとまっとうできたことへの満足感があるのだろう。

ノルドさんも、

「てめぇ、いつの間にか腕をあげやがったな。あの剣の切れ味はなかなかだったぜ!」

と若手の肩をバンバン叩きながら豪快に「がはは」と笑い、笑顔で酒を飲んでいた。

(みんな笑顔でよかった……)

そんなことを思いながら、同じく微笑ましい顔をしているコーエンさんと静かに酒を酌み交わす。

深い渋みと華やかな香りが同居する赤ワインの味は暗い夜空に燦然と輝く星々のようにきらびやかな味わいだと感じた。


翌朝。

ちょっとした二日酔いの者もいたが、全員そろって村を発つ。

そして無事王都に着くと、そこで一度解散となった。

薬草の被害状況なんかをまとめて報告書を作る作業に取り掛からなければいけない人間を除き、みんなが家に帰っていく。

私もコーエンさんと硬い握手を交わし、マロンとリルを伴って家へと戻っていった。

家に着くとすぐに裏庭に回り井戸端で野菜を洗っていたハンナさんに帰還の挨拶をする。

「ただいま帰りました」

「おかえりなさい! ……無事でよかったわ」

涙ぐむハンナさんの肩に優しく手を添え、勝手口をくぐった。

「おかえり、ユーリ!」

「ああ。ただいま」

「すぐにお茶をいれるわね。ああ、シュークリームもあるけど、いる? 今回のクリームは私が作ったのよ」

「お。それはすごいな。ぜひ食べさせてもらおう」

「うふふ。ちょっと待っててね」

嬉しそうに台所に向かうノンナの後ろ姿を笑顔で見送りサロンに入ると、そこにはカイゼルさんがいてお茶を飲んでいた。

「ご苦労だったな」

「はい。無事討伐できました」

「被害状況は?」

「私は突撃隊だったので、周辺の状況は詳しく聞いておりませんが、多少被害があったようです。ただ、貴重な物にはさほど被害が無かったという話でしたから、ひとまずは安心していただいていいかと」

「そうか。トレントはどのくらいの範囲にいたんだ?」

「結局、森の半分以上を覆っていたみたいです。中心はエルダートレントでした」

「なに!? それは一大事だったな」

「はい。被害がさらに広がる前に対処できたのは幸運でした」

「そうだな。明日以降上がってくる書類で詳しく見ておこう。とにかくご苦労だった」

「ありがとうございます。ああ、そうだ。エルダートレントの枝が手に入ったので、それで木刀を作ろうかと思っているんですが、かまいませんか?」

「ん? ああ。それはなんとも贅沢な話だが、お前がそれでよければかまわんぞ」

「了解です。ようやく折れない木刀が作れそうですね」

「ふっ。そうだな。お前と存分に打ち合える日を楽しみにしているよ」

「ははは。お手柔らかにお願いします」

そんな会話をしているところに、ノンナとハンナさんがお茶とお菓子を持ってきてくれる。

温かい陽だまりがいっぱいに広がるサロンに笑顔の花が咲いた。


温かいお茶会を経ていったん離れに戻る。

手早く風呂場で汗を流し、荷物を軽く整理してから普段着に着替えると、私はまた母屋へと戻っていった。

食堂に入り、また談笑しながら夕飯を待つ。

「今日は美味しそうなニンジンとタマネギをたくさん持ってきてもらったからシチューにしましたよ。鶏肉もごろごろ入っているから、安心してね」

まるで腹ペコの子供を安心させるかのような言い方をするハンナさんを少しおかしく思いながら、

「ありがとうございます」

と軽く礼を言う。

「どういたしまして。さぁ、食べましょう」

「いただきます!」

声を揃えてそう言うと、さっそく楽しい夕食が始まった。

「これ好き! 甘くて美味しいの!」

「うむ。なかなか滋味深い味わいじゃのう。まったりとしたクリームの舌ざわりとプリプリした鶏肉の食感との対比がなんとも面白いわい」

「やっぱりお母さんのシチューって美味しいのよねぇ。私が作るのと何が違うのかしら?」

「うふふ。大丈夫よ、ノンナ。ノンナもそのうち自分にしか作れないシチューを作れるようになりますからね」

「そうかなぁ?」

「ええ。シチューはね、思いを込めれば込めるほど深い味わいになるの。だからノンナにも大切な家族ができて、その幸せを守りたいって思える日がきたら、きっと今より美味しいシチューを作れるようになるわ」

「なんだか、抽象的な話ね」

「ふっ。結局料理は愛情ということかな?」

「ええ。それが一番の調味料よ」

それぞれがそれぞれに味の感想を抱きつつ笑顔でシチューを食べる。

マロンの言う通りまったりとしたクリームの舌ざわりと濃厚な味わい、それに染み出した野菜や鶏肉のうま味が重層的に重なって、滋味深いという表現がぴったりの味わいだと思った。

やがて、食事が終わり、お茶を飲みながらなんでもない会話をする。

ノンナが宿題を忘れて怒られた話やカイゼルさんが近衛騎士団全員を相手に殲滅戦の訓練を行った話、ハンナさんが冬に備えてマフラーを編み始めた話など、何気ない日常のことを話していると、なんだか私もほんわかとした気分になってきた。

この日常があるから私は頑張れるんだ。

この日常を守りたい。

そして、いつまでもこの幸せを享受するんだ。

そんな思いが湧いてくる。

私は改めてそんなことを感じながら、甘えてくるリルを撫で、のんびりとした気持ちで緑茶をすすった。

爽やかな渋みが私の心をさらに爽やかなものにしてくれる。

今、この時の幸せを私はずっと忘れないだろう。

私はなんとなくそう思いながら、楽しそうに日常の話をする家族の顔を見つめた。



第一部 完


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