庭師とトレントの森03
一夜明け、さっそく敵の中枢に乗り込んでいく。
しばらく行くと上空に黒い影が踊った。
「グエェェッ!」
意外と甲高い声で喚きながらグリフォンが襲い掛かってくる。
「防御は任せろ!」
そう叫んでコーエンさんが前に出る。
コーエンさんが展開した防御魔法がグリフォンの最初の一撃をはじいた。
少し面食らって空中でよろけたグリフォンに向かって飛ぶ。
私はグリフォンの背中の上まで飛び、そこで軽く一回転するとその勢いのままグリフォンの翼にするどい一撃を加えた。
「グエェェッ!」
と悲鳴を上げながらグリフォンが地面に叩きつけられる。
そこにコーエンさんが向かっていき、一刀でトドメを刺してくれた。
「次!」
コーエンさんが叫んだ瞬間、背後から強烈な気配を感じる。
私はそれを冷静に転がりながらかわし、ぱっと振り返り素早く刀を振った。
「グギャッ!」
と短い悲鳴が上がってグリフォンが羽で顔の辺りを覆う。
どうやら私の一撃は過たずグリフォンの顔面を捕らえたようだ。
そこへコーエンさんが突っ込んで来て、防御魔法を展開したままグリフォンに強烈な体当たりをかました。
グリフォンがバランスを崩し、よろける。
コーエンさんはその隙を逃さずグリフォンの前脚を薙ぐと深手を負わせていったん下がった。
コーエンさんと入れ替わりに私が突っ込みグリフォンの腹をざっくりと斬り裂く。
そこで勝負は終わった。
「二匹で助かったな」
「はい」
「とりあえず魔石だけ取ってしまおう。放置していくには少し惜しい素材だからな」
「了解です」
そう言って二人で協力しながらグリフォンの腹を裂き、手早く魔石を取り出す。
そして、亡骸に火をつけると、私たちはいよいよトレントの森へと歩を進めていった。
三十分ほど進んだところで、マロンが、
「来るぞい」
と告げてくれる。
その言葉通り、あちこちから木の根がボコボコと音を立て地面から這い出してきた。
「私が道を作る。ユーリはとにかく斬って斬って斬りまくれ!」
「了解!」
言い終わった瞬間コーエンさんが全力でトレントの群れに突っ込んでいく。
私はその背中を守りながら襲ってくる木の根を次々に斬り落としていった。
「雑魚にはかまうな。とにかく中心を目指すぞ!」
「了解!」
進むごとに多くなってくる攻撃を凌ぎつつ、奥を目指す。
そのうち、枝も襲ってくるようになり、私たちの進む道の先はうねうねと動くトレントたちで埋め尽くされていった。
「一発こじ開けます!」
「おう!」
魔力を集中して全力でトレントの群れに突っ込んでいく。
ありったけの魔力を乗せた一刀を思いっきり振ると、目の前にあったトレントの枝や根が何本も斬り落とされた。
それに構わずその攻撃を繰り返す。
すると私たちの前にわずかな道ができた。
「あとは任せろ!」
そう言ってコーエンさんが防御魔法を展開し、その道を駆け出していく。
私はその後ろに続き、時折やってくるトレントの攻撃をいなしていった。
やがて、また同じように道をふさがれては打開するという展開になる。
一体それを何度繰り返しただろうか。
とにかく私たちは休まず体を動かし、トレントの森をズンズンと進んでいった。
(おいおい。いくらなんでもそろそろきついぞ……)
と思ったところで、コーエンさんを見る。
あちらもずいぶん辛そうだ。
(ここらでボスの登場と願いたいところだな……)
と思っていると、目の前に周りよりひと際太い幹を持つ大木が見えてきた。
「ありました!」
「おう!」
まずはコーエンさんが突っ込んでいき、これまで以上に太い根の攻撃をなんとか受け止める。
私は迷わずその根を斬り、次の攻撃に備えた。
間髪入れず襲い掛かってくる根の攻撃を避け、時に斬り落としてなんとかその場を凌ぐ。
すると、またコーエンさんがやって来て防御魔法を展開し、私が少し前進するということを繰り返すことになった。
(こんな時、魔法使いがいてくれたらな……)
と思いつつとにかく襲い掛かってくる攻撃をひたすらいなし続ける。
すると、だんだんと攻撃の手が緩やかになってくるのが分かった。
「もう少しだ!」
「おう!」
さらに気合を入れてトレントの枝や根を斬り払っていく。
そして、そろそろ幹に到着しようかという所でトレントが最後のあがきを見せてきた。
これまで以上に太い枝が私たちを襲う。
コーエンさんがなんとか受け止めてくれたが、その勢いを完全に殺すことは出来ず、後ろに押されてしまった。
(ちっ!)
心の中で軽く舌打ちをしつつその太い枝を斬る。
渾身の魔力を込めた一刀を放ったつもりだったが、枝は完全には両断できなかった。
(なっ!?)
少し焦りつつもさらに数撃刀を入れる。
その攻撃でようやく枝が落ち、私は幹に到着することができた。
また集中して思いっきり魔力を込めた一閃を叩きつける。
「キエェェッ!」
トレントが奇妙な叫び声を上げた。
「後ろは任せろ!」
態勢を立て直したコーエンさんの声を背後に聞きながら、さらに刀を叩き込んでいく。
静かに深く集中し、とにかく自分の持てる技全てを叩き込むつもりで、右に薙ぎ、袈裟懸けに下ろし、下段から跳ね上げ、今度は左に薙ぐという具合に攻撃を繰り返していると、ようやく半ばまでトレントの幹が削れた。
(これで決める!)
そう思って放った渾身の一撃がトレントの幹に吸い込まれ、スッと抜ける。
どうやらトレントの幹をざっくりと斬ったらしい。
私はその手応えに自信を持ちつつも、トドメとばかりに袈裟懸けの一刀を放った。
次の瞬間、パキッという音がしてトレントが白い色に変わる。
どうやら終わったらしい。
そう思って見上げたトレントの姿はどこか神々しくも見えた。
「エルダートレントだったな。よくやった」
そう言ってくれるコーエンさんと握手を交わす。
後ろをみるとそれまで襲ってきていたトレントたちが軒並み炭化して黒くなっていた。
「今夜は炭火焼きにしましょう。ハンナさん特製のハムがたっぷりあるんです。軽く炙ると美味いですよ」
「ああ。なんなら酒もつけてくれ」
「了解です」
そう話しているところにマロンを乗せたリルがやってくる。
「わっふ! ユーリもコーエンもすごかったよ!」
「まぁ。この程度のことができんようじゃったら世界樹も期待せんじゃろうて」
そう言う二人を軽く撫で、私はさっそく野営の準備に取り掛かった。
「素材は後からみんなで回収することになるだろうが、役得だ。エルダートレントの枝の一番いいところをもらおう。薙刀の柄に使うと良い武器になりそうだ」
「じゃあ、私の分も回収しておいてもらっていいですか? ちょうど木刀が不足して困っていたところなんで」
「わかった。しかし、エルダートレントの素材で木刀を作るとはなんとも贅沢だな」
「ええ。でも、私とカイゼルさんが本気で打ち合うといつも木刀が折れてしまうんです」
「なるほど。それならエルダートレントくらい使わんといかんかもな」
そんな話をしつつ私は調理を進め、コーエンさんは素材の回収と設営を進めていく。
やがて、持ってきた鶏や豚肩ロース、それに鴨のハムがジュージューと音を立て、表面から脂を滴らせ始めたところで、夕食となった。
「このハム美味しいね!」
「うむ。鶏も良いが、この鴨がまた絶品じゃ。コショウが程よく効いておるのはわかるが、あとはなんじゃろうな? かなり複雑な香りがするぞい」
「ああ。きっと燻製の具合がいいんだろう。ハンナさんの手にかかればどんなものも美味くなってしまうからな」
「こっちの豚肉は食べ応えといい、脂の溶け出し具合といい、完璧だな。よく酒に合う」
「まだ一応森の中なんですから、飲み過ぎないでくださいよ?」
「ふっ。言われるまでもないさ」
恐ろしいトレントの森に明るい声が響き、楽しい宴が始まる。
私はぽっかり空いた枝の隙間から見える星空を見上げ、
(無事終わったんだな……)
と心の中でつぶやきつつ、今の幸せを改めてかみしめた。
どこの馬の骨ともわからない自分を家族と呼んでくれる人達の顔が思い浮かぶ。
それに、庭師のみんなや町でよく会う人たちの姿も。
(私は本当に人に恵まれた……。この幸せに胡坐をかくことなく、これからももっと精進せねばな……)
そんなことを思いながら、ちびりと酒を飲み、心の底からほっとして、
「ふぅ……」
と安堵の息を吐いた。




