庭師と社交界03
「王国きっての天才剣士といわれるユーリ様のお話が聞けるなんて今日はとてもいい日になりそうですわ」
と言ってどこか嬉しそうに笑うプリフォアに、
「どのような話を聞かれているのか存じ上げませんが、私はまだまだほんのひよっこなんです。庭師はそれこそ精鋭ぞろいですから、各人がそれぞれ自慢の武勇伝を持っているものです」
と苦笑いで答える。
するとプリフォアは本当に興味津々と言った感じで私の顔を覗き込みながら、
「ではユーリ様も武勇伝をお持ちなのですね? 是非、聞かせて欲しいですわ」
と目を輝かせながらぐいぐい私に詰め寄ってきた。
そんなプリフォアの態度に若干引きつつ、
「かなり血なまぐさい話になってしまいますが、なるべくかいつまんでお話しましょう」
と答えつつも、
(さて。何を話したらよいだろうか)
と悩む。
そうこうしているうちに私の周りにはなぜか人が集まり始め、結局十人ほどの輪ができてしまった。
「それで、まず、魔獣とはどういったものなんですの? やはり物語にあるように恐ろしい見た目をしているのでしょうか?」
とプリフォアが話を促し、それに応えて話を始める。
「ええ。概ねそう思っていただいてけっこうです。しかし、虎や熊、鹿の魔獣などは普通の動物と見た目は変わりません。ただ、普通の獣より大きくて凶暴な目つきをしているくらいでしょうか?」
「まぁ、どれくらい大きいんですの?」
「鹿は二メートルを少し超えるくらいですが、虎は三メートル、熊に至っては五メートルほどあります」
「まぁ! なんて大きさなんでしょう!」
「ええ。目の前にするとかなりの迫力がありますよ。私も最初は驚いたものです」
「そんな魔獣にどうやって挑みますの?」
「私の得意な武器は刀です。ですから、身体強化を使って速さで相手を圧倒します。それに私の刀は特別製ですから、魔力の乗りが非常にいいんです。なので、たいていの魔獣は一刀で両断できるんですよ」
「まぁ。それはすごいですわね! みなさんもお聞きになりまして? たいていの魔獣はたったの一刀でお斬りになるんですってよ」
「ええ。すごいですわ。一度見てみたいものです」
「あら。私は恐ろしくてとても耐えられそうにありませんわ」
「ええ。私も。でも、そういうお話を聞くのはなんだか怖いもの見たさな感じでドキドキしますわね」
そんな声を聞きつつ、
「獣型の魔獣はそんなものですが、人型の魔獣はさらに狡猾で手強い相手が多いんですよ」
と話を続ける。
「人型というと?」
「ええ。ゴブリンやオーク、サイクロプスにミノタウロスなどの魔獣です」
「聞いたことはありますが、姿は物語の挿絵くらいでしか見たことがありませんわね」
「あれとはまったくの別物です。特にゴブリンは淑女の皆様にお話しするのはどうかと思われるほど醜悪な見た目をしていますよ」
「まぁ、怖い! それで、その人型とはどうやって戦いますの?」
「基本は同じです。ただ、人型の特徴として群れを作って襲ってくるというのがありますので、獣型と違ってこちらもある程度考えながら立ち回る必要がありますね」
「というと?」
「はい。例えば右の敵を斬ったとしても必ず追撃が来るので、油断せず常に動き回る必要があります。私の場合は刀を持ってくるくる回ったりしながら戦うわけです。近くで見た人にはまるで踊っているようだと言われたこともありますね」
「まぁ。魔獣相手にダンスをなさるの?」
「ははは。まぁ、そういう感じかもしれません。当然、それほど優雅なものではありませんが」
「うふふ。ユーリ様ってけっこうおもしろい方なんですね」
「そうでしょうか? 周りからは堅物という印象を持たれているようですが」
「いいえ。私たちのような世間ずれしていない者からすると十分に面白いですわ。もっとお話を聞かせてくださいまし」
そういうプリフォアの求めに応じて私は野営中にはどんな食事をとるのかとかどうやって寝るのかなどの詳しい話を時に軽く冗談を交えながら話していった。
自然と人の輪が広がっていく。
気が付けば私の周りはちょっとした講演会のような感じになっていた。
そんな状況に少し戸惑いつつ、
「私のつたない冒険譚はこんなものです。ご満足いただけましたでしょうか?」
とプリフォアに問う。
プリフォアは満足そうにうなずきながら、
「ええ。大変面白いお話をお聞きできました。今度のお茶会でのいい話題ができましたわ」
と言ってくれたので、私は、
「またお話する機会があればその時までには新しいネタを仕入れて参りましょう」
と軽く冗談を言い、プリフォアと握手を交わした。
「では失礼いたしますわ」
と言い、プリフォアが離れていったのをきっかけに人の輪が解けていく。
どうやらプリフォアはそうやって話を聞きだすのが上手い人のようだ。
彼女の周りにいれば面白い話が聞けるかもしれないということで、自然と人が集まるようになっているのだろう。
(なるほど。社交界の中にはああいう役目を負う人もいるのだな)
と感心していると、そこへカイゼルさんがやってきた。
「楽しんでいるようだな」
「はい。すっかりつかまってしまいました」
「いや。いいことだ。ああやって貴族にお前の存在を知らしめることができたし、庭師の何たるかも少しは理解が進んだことだろう」
「はい。私のことはともかく、仕事の認知度が上がったことは嬉しい限りです」
「ああ。貴族の中にはどうにも庭師の仕事を理解しないまま予算に反対する人間が少なからずいるからな。こういう地道な宣伝活動も時には必要なことだ」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「うむ。そんなことより、明日、侯爵様の希望で模擬戦をすることになった。それも多くの貴族に観られながらな。鎧を付けての模擬戦になるが大丈夫そうか?」
「はい。この旅であの鎧もずいぶん体に馴染みましたし、問題ないかと思います」
「そうか。では本気で来い。私も本気でぶつかろう」
「……また木刀が折れますね」
「ふっ。そうだろうな」
そんな話をして、カイゼルさんがどこかへ向かう。
おそらく有力貴族たちに挨拶をして回るのだろう。
私はその後ろ姿を見送ると、少し風にあたろうと思ってテラスの方に向かった。
人気のないテラスで風にあたりほんの少し上気した頬を冷ます。
するとそこにノンナがやってきた。
「ずいぶん人気だったじゃない」
「ああ。庭師という存在が珍しかったんだろう。あれこれ話をさせられたよ」
「みんな王国きっての天才剣士様のお話を聞きたかったんだと思うわ。よかったじゃない」
「ああ。カイゼルさんにも言われたが、こういうきっかけで庭師への理解が進んでくれるといいなと思っているよ。ノンナはどんな感じだったんだ?」
「うん。最初は戸惑ったけど、ミリシア様がお優しい方だからけっこう楽をさせてもらってるわ。まぁ、それでも気を遣う事が多くて嫌になっちゃうけど」
「ふっ。いい勉強になっていいじゃないか」
「まぁね。今回の経験でけっこういろんな勉強をさせてもらったわ。なんていうの? 水面を優雅に泳ぐ白鳥の足を水の中から見たって感じね」
「そうか。そっちはそっちで大変なんだな」
「ええ。社交を催す側がこんなに大変だなんて知らなかったわ。本当に王族の方って大変なのね」
「何事も裏側に回ってみないと苦労がわからないものなんだろうな。私もいい勉強になったよ」
「そうね。……そう言えば、明日お父さんと模擬戦をするんですって?」
「ああ。そういうことになってしまったらしい」
「うふふ。ユーリとお父さんが模擬戦するのを見るのってなんだかんだで久しぶりかも。また木刀が折れるのを楽しみにしているわ」
「ふっ。ご期待に沿うよう努力しよう」
そう話して再び会場の中に戻っていく。
それからはまた何人かの貴族に声を掛けられ、庭師のことや明日の模擬戦のことなどを軽く話し、散会の時間を迎えた。
部屋に戻り軽く風呂を使って寝間着に着替える。
ベッドに身を投げ出すとどっと疲れが湧いてきた。
(貴族というのは本当に大変な職業なんだな……)
そう思ってため息を吐きつつ目を閉じる。
一日中緊張を強いられた体に酒が入ったこともあって、私はいつもよりすんなりと眠りに落ち、そのまま朝までぐっすりと眠ってしまった。




