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最強「庭師」ユーリの任務録 ~天才剣士は今日も「日常」を守るために働く~  作者: タツダノキイチ
第一部

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20/28

スライムと猫とわんちゃんと

ユーリが旅に出た翌日。

どことなく寂しそうな顔をしたリルを連れてアナスタシアのもとを訪れる。

「遊びにきたぞい」

そう言っていつものように遠慮なくサロンに入ると、そこにはスライムのスーを膝に抱いたアーニャがいた。

「ごきげんよう。マロンちゃん」

「うむ。アーニャも息災のようじゃな」

「ええ。スーちゃんがきてからさらに調子がいいの」

「ほう。それはよかった。今日はそのスーに魔法のコツを教えようと思ってな。ちょっと借りてよいか? ああ、ついでじゃ、セレナお主の身体強化の魔法も見てやるからついてまいれ」

「はっ!」

「あら。じゃあ、今日は一人で過ごさなくちゃいけないのね。寂しいわ」

「なに。午後のお茶の時間には戻ってくるでの。それまで、ゆっくり本でも読んでおいてくれ」

「はーい」

「ふっ。良い返事じゃ」

「なるべく早く戻ってきてね」

「ああ。努力しよう」

そう言ってスーとリル、騎士のセレナを伴い部屋から出ていく。

セレナの案内で近衛騎士団がいつも使っているちょっとした広場のような場所に着く。

「まずは魔力の循環から始めるぞ。わしはスーとやるから、リルはセレナの方をみてやってくれ」

「はーい」

そう言って稽古を始めると、私はスーにチョコンと足を乗せ、セレナはリルにお手をさせるような形でお互いに魔力の循環を始めた。

ある程度魔力が巡り、体が温まってきたところで、まずはスーに聖魔法の手ほどきをしていく。

「スーの魔力は何もせんでも聖属性をもっておるからの。属性は意識せんでいいぞ。ただ、自分の魔力を優しく他の人に渡してやるようにすればよい。あとは、その人の悪い部分を見つけられるように体内の魔力の流れを見極めることじゃな。それができるようになれば、アーニャの体調ももっとよくなるじゃろうて」

そう言うとスーはどこか気合の入ったような様子で、

「きゅっ!」

と鳴いて見せた。

そんなスーを相手に自分の魔力の流れを読ませ、時々、わざと流れを悪くしてはそれを探り当てさせるということをした。

ある程度コツをつかみ始めたところで、スーの相手をリルに任せ、今度はセレナの方を見る。

セレナはまっすぐで良い魔力の持ち主だが、どうにも不器用でイマイチ身体強化の魔法を上手く使いこなせずにいた。

「体の中を常に巡る魔力を意識せい。足を動かしたいなら足、手を動かしたいなら手に魔力を集中させ、力を十分に引き出せるようにするんじゃ。その時、筋肉の一つ一つを意識することを忘れるな。最初は理屈を考えながらだから、上手くいかんこともあるが、感覚を覚えてしまえば後は楽なもんじゃろうて。ほれ、わしが手伝ってやるからわしを抱いて、走り回ってみい。まずは強化された肉体の感覚というのを教えてやろう」

セレナは指示された通り、私を抱き、仮想の敵を作って動き回り始める。

私はその動きに合わせて魔力を循環させてやったが、最初は動きすぎる自分の体に戸惑ったようで、時々転んだり、壁にぶつかったりしてなかなか上手くいかなかった。

「セレナはまっすぐで良い性格をしているが、どうも物事を杓子定規に考えすぎる傾向がある。もっとおおらかに構えて自然に身を任せてみい。わしの魔力を素直に受け取ってなすがままにされてみるんじゃ。最初は勇気がいるかもしれんが、慣れれば怖いことはないからの」

「はい!」

そんな指摘をしてもう一度練習させる。

すると、徐々にではあるが、セレナは私の魔力を受け入れ、先ほどよりもよほど器用に動き回れるようになってきた。

「なるほど! わかったような気がします、マロン様!」

「うむ。いい感じじゃ。この感覚を忘れるな。ほれ。もっと自由に動いてみい。信じられんほど高く飛び上がったりできるぞ」

そうやって、しばらくセレナの相手をして、次はリルの魔法を見てやる。

さすが神獣だけあって、リルは様々な魔法を使いこなせたが、まだまだ魔力の使い方に無駄が多いように思われた。

「魔法というのは結局のところ魔力の具現化じゃ。具体的な魔法の姿を想像し、それに合わせて効率よく魔力を送り込む必要がある。我ら神獣はとんでもない魔力を持っているがゆえにその効率性をないがしろにしがちじゃが、きちんと効率を極めると、もっとすごい魔法が使えるようになるからのう。その辺りを意識してやってみよう。とりあえず、一番苦手な火魔法で試してみるかな。どれ見本を見せてやるからちょっと離れてみておれ」

そう言って訓練場の真ん中に立ち、空に向かって二メートルほどの火の玉を作り出す。

「良いか。これが普通の火球の魔法じゃな。しかし、魔力を効率的に使って、さらにこの火球の威力を増そうと思うと、この球がもっと小さくなる。熱を凝縮して、より激しく燃えることを想像してみるんじゃ、すると全然違う形になるからの」

そんな説明をすると私は一気に火の玉の大きさを絞り、三十センチくらいの大きさにした。

「ほれ。炎が青くなったじゃろ。これが、より高熱で燃えておる証拠じゃ。これをさらに応用すると、炎を矢の形にして遠くまで飛び、相手を鋭く穿つ一発を放てるようになる。今はこのくらいの大きさじゃが、気合を入れて大きなのを作れば、それこそ竜の羽に穴を開けられるくらいにはなるぞ」

そう言う私にリルが目を輝かせて、

「青くて綺麗!」

と少し違った角度からの感想を述べてくる。

私はなんとなく苦笑いしつつも、

「ほれ。最初は手伝ってやるからやってみい」

と言ってリルに魔法の練習を促した。

そうして、私が各人の稽古をみてやりながら、時々手本を見せたりすること数時間。

みんながいい加減に疲れてきたのを見計らって稽古を切り上げる。

時間はすでに昼を回っており、セレナはいかにも腹が減ったというような顔をしていた。

「すまん、すまん。つい熱が入ってしもうたわい。セレナはさっさと飯を食ってくるがよい。我らはサロンに移動して、お茶とお菓子にさせてもらうからな」

そう言って、スーと二人してリルの上に乗り、またサロンに戻っていく。

サロンに戻ると、アーニャがいつもの微笑みで迎えてくれた。

「お稽古どうだった?」

「あのね! 青い火の玉が出せるようになったの!」

「あら。それはすごいわね。いつか見てみたいわ」

「うん! とっても綺麗なんだよ」

「うふふ。スーちゃんも頑張ってお稽古できた?」

「きゅっ!」

「あらあら。そうなのね。じゃあ、たくさん頑張ったご褒美に甘いおやつを召し上がれ。今日のお菓子は栗たっぷりのモンブランよ」

「やった!」

「きゅきゅっ!」

喜びにあふれた声を合図に楽しいお茶会が始まる。

スーはアーニャの膝の上に乗り、

「はい。スーちゃん、あーん」

と言われると器用に口のような窪みを作り、アーニャからモンブランを食べさせてもらっている。

(ほう。ずいぶん器用な芸を覚えたもんじゃな……)

と感心しながら、自分もモンブランをひと口かじり、花の香りのする紅茶をひと口飲んだ。

「きゃふーん!」

という言葉にならない感想を叫ぶリルにアーニャも私も目を細め、ほのぼのとした時間が続いていく。

そして、その温かく優しい空気はサロン全体を包み込み、私たちの心を芯から解きほぐしてくれた。

少し寂しい別れとまた会う約束をして家に戻る。

伯爵家の勝手口をくぐると、相変わらずいい匂いがして、ハンナが、

「今日はエビグラタンとポトフよ」

と言って私たちを出迎えてくれた。

そんないつもの光景をなんとなく幸せに思いつつ、嬉しそうにはしゃぐリルと一緒に家族の食堂へ向かう。

そして、その日も温かい食卓に、たくさんの笑みがこぼれた。

(はよ帰ってこい。この家の飯は美味いぞ)

そんなことを思いつつ離れに戻る。

誰もいない家に入り、なんとなく寂しさを感じてしまったリルを慰めるように、ベッドに向かうと、

「明日もみんなで遊ぼうぞ」

と言ってリルを慰め、その日も静かに眠りに就いた。

小さな窓から見上げた空には夏の星々がこれでもかというほど煌めいている。

私はそれを見上げながら、

(はよ帰ってこい……)

ともう一度だけ胸の中でつぶやき、そっと目を閉じた。


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