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最強「庭師」ユーリの任務録 ~天才剣士は今日も「日常」を守るために働く~  作者: タツダノキイチ
第一部

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庭師とおつかいの旅05

再びジッタの案内で坑道を出る。

外に出ると、そろそろ日が西に傾こうかとしているような時間だった。

「ご苦労さん。手間かけさせちまって申し訳ねぇ」

そう言って手を差し出してくるグラッツさんの手を握り返し、

「いや。お役に立てて何よりだ」

と笑顔で応じる。

「たいしたことは出来ねぇが、今夜は奢らせてくれ。おかげでたくさんの鉱夫の命とこの鉱山の安全が守られた。このまま帰したんじゃドワーフの名折れってもんだからな」

「そうか。では遠慮なくご馳走になろう。この地の名物はまだ食べてないから、楽しみだ」

「おう。まかせときな。とびっきり美味い店に連れて行ってやるよ。しかし、その前に風呂だな。宿は決まってるのか?」

「いや。まだだ」

「ほう。ならちょうどいい。この鉱山の麓に鉱夫御用達の宿屋がある。風呂もデカいし飯も美味いからな。今日はそこで宴会といこうじゃねぇか!」

「ははは。それはいいな。遠慮なく堪能させてもらうよ」

そう言ってグラッツさんと握手を交わし、さっそくその宿に向かう。

ドワーフ向けの宿ということもあって、やや低い扉を頭を屈めてくぐり、とりあえず部屋に入るとそこもやや狭いベッドが置かれたやや狭めの部屋だった。

「すまんな。その辺はドワーフ仕様だから勘弁してくれ」

「いや。屋根があるだけ十分だ」

「へっ。さすがは庭師さんだな。根性が座ってらぁ」

「ふっ。まぁな」

そんな言葉を交わし、さっそくこの宿の自慢だという風呂に向かう。

私は風呂もドワーフ仕様の大きさだろうと高をくくっていたが、いやはやどうして、案内された風呂は普通の人間でも十五人は一緒に入れるかというほどの大きさをしていた。

「どうよ」

と自慢気に言うグラッツさんに、

「さすがに驚いた。これはすごいな。この大きさの風呂はきっと貴族屋敷にもないぞ」

と素直に感心して返すと、グラッツさんは嬉しそうに、

「へへっ。なにせ、ドワーフ自慢の天然温泉ってやつだからよ。今日は存分に堪能してくんな」

と言いつつ、私の背中をバシバシと叩いてきた。

さっそく掛け湯をして湯船に浸かる。

「ふぅ……」

と思わず息を漏らすと、隣でグラッツさんが、

「くっはぁ……、やっぱたまんねぇぜ!」

と豪快に声を漏らした。

「温泉ってのは初めてだが、普通の風呂とはお湯の感じが違うんだな」

「おう。ここのは無色透明だが、他の所には白とか茶色に濁ったのもあるぜ。珍しいところだと真っ黒なんてのもあるな」

「ほう。それはすごいな。見てみたいものだ」

「ああ。帰り道、余裕があるようだったら街道から少し外れてみるといい。いい温泉地がたくさんあるぜ」

「そうか。ではぜひ立ち寄らせてもらおう」

「おうよ。それぞれの温泉で効能が違うからそれも楽しみにしときな」

「ほう。温泉ってのは何かしらの効能もあるのか」

「ああ。お湯に溶け込んでる鉱物とかの成分が違うからな。腰痛とか肩こりにいい温泉もあれば、切り傷や皮膚病にいいって温泉もあるぜ」

「それは興味深いな」

「ああ。温泉の奥は深いぜ」

なんとなく温泉の知識を聞きつつ、ゆったりと風呂を堪能させてもらう。

その後も庭師の日常やこれまで討伐した魔獣の話なんかをしているうちにすっかり体が温まり、やたらとぽかぽかした体で風呂から上がった。

「風呂上がりはこれだぜ、これ」

と言ってグラッツさんが牛乳らしきものが入った瓶を差し出してくる。

「牛乳?」

一瞬怪訝な顔をするが、グラッツさんは構わず私に牛乳瓶を押し付けると、

「こうだ。こうやって腰に手を当てて一気にグビっといくんだぜ」

と言って美味そうに牛乳をゴクゴクと飲み始めた。

私も真似してやってみる。

これでもかと温まった体に柔らかな甘みの冷たい牛乳がじんわりとしみ込み、なんとも言えない美味さだと感じた。

「ぷはぁっ!」

と豪快に息を漏らすグラッツさんに続き、私も、

「ふぅ……」

とやや遠慮気味に息を漏らす。

「やっぱたまんねぇな。どうでい?」

とドヤ顔で聞いてくるグラッツさんに、

「この習慣は国でも広めたいな」

と笑顔で応じる。

「はっはっは。そうだろうよ、そうだろうよ!」

とご機嫌のグラッツさんといったん別れ部屋に戻ると、軽く防具の整備や荷物の点検を済ませてから食堂に向かった。

「おう。こっちだ!」

というグラッツさんの声がする方へいってみれば、そこには案内をしてくれたジッタの姿もある。

「お疲れさんした!」

と元気に挨拶してくるジッタに軽く挨拶を返し、席に着くと、

「一応、素人さんだから、辛さは控え目にしてもらっておいたぜ。今日は俺の奢りだからな、遠慮なく飲み食いしてくれ」

とグラッツさんが言い終えるのと同時くらいに料理が運ばれてきた。

赤い。

何もかもが赤く、いかにも辛そうな見た目をしている。

「街道沿いの宿は旅行客向けに普通の飯も出してるが、一本路地に入ってみな。こんな料理ばっかりがでてくるぜ。ああ、おススメはこの麻婆豆腐だ。知ってるだろ? フィッツランドの食神様が考案なさったっていうのをドワーフ流に辛くしたやつだ。近頃じゃすっかりこの国の名物になってやがる。それに、こっちの鍋は昔っからあるやつで、火炎鍋つってるな。とにかく辛いスープになんでも入れて食っちまうんだ。まぁ、どっちもいかにもドワーフらしい料理だから、思う存分堪能してくれ」

そう言われて私はまず、一応慣れ親しんだ麻婆豆腐の方に手を付けた。

「うん。美味い……」

と思ったのもつかの間、ものすごい刺激が口の中で暴れまわる。

「……! 辛っ!」

思わずそう叫んだところにすかさずビールがやってきた。

「ははは! 辛いだろ。だがそれがいいんだ。ほれ。乾杯だ!」

と言われジョッキを合わせると、すかさずビールを口に流し込む。

それでもビリビリとしびれる舌をどうしたものかと思っていると、グラッツさんが、

「ほれ。続けて食ってみろ。そのうち、そのしびれが癖になってくるぜ」

と言い、私にさらに食べるよう勧めてきた。

(これは、私の知っている麻婆豆腐とは似ても似つかないぞ。ドワーフ料理恐るべしだな)

心の中で、戦々恐々としつつもさらにひと口食べる。

やはり、これでもかというほど辛さが口の中で暴れたが、不思議なもので、ひと口目より具材の美味さが感じられるようになっていた。

「ちょうど旨辛って感じだな。俺たちにゃぁ物足りねぇが、ユーリにはちょうどいいんじゃないか?」

「ああ。最初はあまりの辛さにびっくりしたが、なるほど、辛いだけじゃなく美味いってのがわかるようになってきたよ」

「はっはっは。そいつは重畳。さぁ、こっちの鍋もどんどん食ってくれ。おススメはこの茸だ。巾着茸って言ってこの辺りでしか採れない珍しい茸だからな。美味いぜ」

そう言われてさっそくその茸や肉類を鍋に投入する。

しばらく煮て、

「お。そろそろ良さそうだぜ」

と言われたところで、さっそくその噂の茸を口にすると、また結構な辛味の奥からものすごく凝縮されたうま味の塊が飛び出してきた。

「美味いっ!」

思わずうなってグラッツさんを見ると、ドヤ顔で、

「だろ?」

と返される。

初めて食べた巾着茸はマッシュルームのうま味を何倍にも濃縮したような、ものすごい濃さのうま味の持ち主だった。

その後も、じゃんじゃん追加の具を頼んで、鍋を堪能する。

あまりの辛さに汗をダラダラかきながらの食事になったが、私の体はだんだんその辛さに爽快感を感じるようになってきていた。

最後の〆まで辛い雑炊を食べ、大満足で腹をさする。

「どうよ?」

とまたドヤ顔のグラッツさんに、

「これまで経験したことのない味だったが、美味かったよ。少なくともまたこの国に来て食べてみたいと思うほどには、な」

と答えると、グラッツさんもジッタも満足そうに、

「はっはっは!」

と豪快な笑顔を見せてくれた。

グラッツさん、ジッタと別れの言葉を交わし、部屋に戻る。

小さく狭いベッドに身を横たえ、妙にぽかぽかする胃の辺りをさする。

(今夜は眠れるだろうか?)

と思ったが、やはりそれなりに疲れていたのだろうし、酒の酔いもあって、すんなりと眠気が降りてきた。

(さてあとは帰るだけだな……)

そんなことを思った瞬間、みんなの顔が浮かんでくる。

(ああ、そうか。私はこの十五年間で帰るべき家を手に入れたんだな……。それがなんと幸せなことだろうか……。あのまま、孤児として野垂れ死にしていてもおかしくなかった私をカイゼルさんは拾い上げてくれた。そして、ここまで育ててくれたんだ。ハンナさんはいつも優しかったし、ノンナという妹のような存在まで産んでくれた。本物ではないかもしれないが、私は家族を得たようなものじゃないか。ああ、私はなんて幸せものなんだ)

そう思うとなぜか自然に涙がこぼれてきた。

起き上がって涙を拭き、小さな窓を開け外の空気を吸う。

私はなんとなく苦笑いを浮かべ、

「良い旅だったな……」

とつぶやいた。

夜風に流され酔っ払いらしき人達の歌声が微かに流れてくる。

私はそれを快く思いながら、大きく輝く満月を見上げ、もう一度家族の顔を思い出してから再び幸せな眠りに就いた。


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