庭師とおつかいの旅04
「おい。坑道の地図を寄こせ! 出たのはどの辺だ?」
いきなり大声でそう言ったグラッツのもとにすぐ地図が用意され、いかにも鉱夫といった感じの男が、
「出たのはDの三番坑道の奥だ。ちなみに、ミスリルの大鉱脈が見つかったぜ」
「なにっ!? そいつはよかったな……って、言ってる場合じゃねぇよ。で、何匹だ?」
「わからん。ただ、一匹じゃなさそうだってだけだな」
「ってことだけどよ。大丈夫そうかい、庭師の旦那」
「ああ。おそらくな。ただ、こう入り組んでたんじゃ場所を探すだけで一苦労しそうだ。現場の手前まででいい、道案内を頼めないか?」
「おう。そういうことなら、ジッタのやつがいいだろう。腕っぷしもあるし、なにしろ逃げ足が速え。おい! すぐにジッタのやつを呼んでこい!」
「おう!」
物事がトントン拍子に決まっていく。
(やっぱりドワーフってのは気の短い性格の人が多いらしいな)
と妙なことを納得しながら少し待っていると、どうやら、ジッタらしい人物が、
「親方。お呼びですかい?」
と言いつつ私たちのところにやってきた。
「おう。ヘルワームが出たのは知ってるな。Dの三番坑道だ。で、この旦那が討伐してくださるってんでよ、現場近くまで道案内してやってくれ」
「え? 討伐っておひとりでですかい?」
「ああ。こう見えて庭師先生でいらっしゃるんだそうだ」
「庭師、ですかい?」
「まさか知らねぇのか?」
「へい……」
「庭師ったらそんじょそこらの植木屋のことじゃねぇぞ。フィッツランドで魔獣狩りを専門にしてる特殊部隊さんのことだ。大陸最強部隊って名高いお方たちだから、ヘルワームなんて屁でもねぇってよ」
「いや、屁でもないとまでは言ってないぞ?」
「でも、討伐してくださるんでしょ?」
「ああ。五匹や十匹程度ならな」
「ほれ。屁みたいなもんじゃねぇですかい。まぁ、そういうこったから、しっかり案内してやりな」
「了解っす!」
「……ははは。よろしく頼む」
最後はなんともしまらないような返事をしてしまったが、とにかく、そのジッタの案内で問題の場所に向かうことが決定した。
「灯りの魔道具はどのくらいの範囲を照らせるものなんだ?」
「坑道の中だったら、二時間くらい人の目が及ぶ範囲は全部照らしてくれるぜ」
「そうか。なら一本で十分だな。まぁ、なにがあるかわからんから予備にもう一本持っていこう」
「あとは?」
「……終わった後に一服するならお茶くらいか?」
「へっ。そりゃぁなんとも余裕なこってい」
「まぁな。討伐自体は早ければ三十分で終わる。もし一人じゃ手に負えないと判断した時は出来るだけ削って出てこよう。騎士団はすぐに駆けつけてくれるんだろ?」
「ああ」
「じゃぁ、そうだな。この辺り、ちょうど目的の坑道に入っていく手前にある広場で待機していてくれ」
「了解」
「じゃぁ、そういうことでいってくる」
「おう。頼んだぜ」
グラッツに見送られ、やや恐々といった感じのジッタと共に坑道の中に入っていく。
「旦那……、本当に大丈夫なんですかい?」
「ん? ああ。安心しろ。何があっても必ず守るからな」
「へい。よろしくお願いしときやすよ」
少し泣きそうな顔でそう言ってくるジッタを少し不憫に思いつつ、複雑に入り組んだ坑道の中を進んでいくと、やがて、いくつかの坑道が分岐する場所に出た。
「地図でいうとここが騎士団の待機場所だな」
「へぇ。Dの三番坑道はこっちでさ」
「了解。あとはまっすぐ進むだけか?」
「へい。小さな分岐はありますが、大きな道を行っていただければ間違いねぇはずです」
「わかった。ジッタはここで待っててくれ。さっさと片づけてくる。灯りの魔道具をもらってもいいか?」
「へい。どうぞお気を付けて」
「ああ。そっちも気を付けてな」
最後はいかにも安心しろという感じに笑顔でそう言って、ひとり問題の坑道へと進んでいく。
坑道の中はある程度の広さは確保されていて、刀を振るには十分な広さだと感じた。
やがて、いきなり坑道が広くなる。
(ああ。この辺りからやつらの領域だな。周りの土が食い荒らされている)
そう思って慎重に歩を進め、ある程度来たところで、明かりの魔道具を発動させわざと足を止めた。
「ふぅ……」と息を吐き、辺りを威圧するような感じで一気に魔力を放出すると、坑道の奥から、「ズゾゾッ」と不気味な音が聞こえてきた。
(おいでなすったか……。音からして二、いや、三匹ってところだろうな。そのぶん大きさはけっこうありそうだが、まぁ、所詮ワームだし。なんとかなるだろう)
そう判断して、待ち構えていると、さっそく奥から一匹のヘルワームが姿を現した。
デカいミミズのような体に大きな牙が生えた円形の気持ち悪い口をしている。
大きさはおおよそ十五メートルくらいだろうか。
(やはり大きめだな。しかし、これくらいならいける)
冷静のそう判断して、魔力を練ると、一気にワームとの間合いを詰めた。
ヘルワームの厄介なところはブニョブニョしていて斬りにくいところと、あと完全に両断されたとしてもうねうねと動き、相手に絡みついてこようとするところだ。
牙の生えた口に捕らえられたら一巻の終わり。
それを踏まえて戦うとなると、口での攻撃を避け、横に回って、とにかく手数を出して細切れにするしかない。
(面倒っちゃ面倒な相手なんだよな……)
と心の中で愚痴りつつ、さっさと刀を振る。
袈裟懸けの後は下段から跳ね上げ、時折横なぎの一閃も加えつつ、ヘルワームの頭からお尻までをとにかく細切れにしていく。
すると、私の背後から別の個体がその恐ろしい牙を叩きつけるように襲い掛かってきた。
さっと回転するように避け、その個体にも一撃食らわせる。
スパッと音がして、ヘルワームの首といっていいかどうかわからないが、頭の根元が半ばまでスパッと斬れた。
「ちっ」
思わず舌打ちしつつ、さらにもう一撃加えて今度はその巨体を両断する。
それからは、とにかくうねって巻き付こうとしてくるヘルワームを斬って斬って斬りまくるという作業になった。
最後の三匹目も同じように始末し、辺りの気配をうかがう。
(さて。これで終わりだと思うんだが……)
と思った瞬間、奥からなにか魔力を帯びたものが飛んでくるような気配があった。
瞬時に避け、近くにあった岩陰に飛び込む。
すると、さっきまで私が立っていた辺りに何かの液体がベチャッと張り付き、煙を上げ、地面を溶かし始めた。
(なっ。マザー付きだったのか!)
一瞬でその攻撃が通称マザーと呼ばれるヘルワームが少し進化したような個体の仕業であることを見抜く。
(あの酸攻撃は厄介だ。防御魔法はあまり得意じゃないからな……。まともに受けないよう常に動いてかく乱するしかあるまい……)
瞬時にこれからの行動を決めると、さっと岩陰を出て酸が飛んできた方向に素早く駆け出す。
時折飛んでくる酸の攻撃を小さな防御魔法の盾でなんとかいなし、マザーのもとにたどり着くと、先ほどと同じようにとにかく斬って斬って斬りまくった。
注意点としては酸にやられないよう先に頭を潰すことと、むやみやたらと体液に触れないことが重要になってくる。
だから私は一撃一撃にいつも以上の魔力を込め、とにかく体液が飛び散らないようスパッと斬ることを心掛けた。
そんな攻撃が十分ほど続き、ようやくマザーがただの肉塊に変わる。
私は体に体液が付いていないかどうかを念入りに確認したあと、刀にも綺麗に拭いを掛けてから鞘に納めた。
元来た道を戻り、無事ジッタが待つ広場に到着する。
そこには騎士と思われる一団がいたので、
「全て片付けた。全部で四匹。うち一匹はマザーだった。確認してくれ」
と告げ、後のことは騎士団に任せると暗に示した。
「了解した。ご協力感謝する。後日、正式な感謝状が届けられると思うが、この場でもこの国の民を代表して礼を言わせてほしい」
そう言ってきたのはおそらく騎士団の隊長かなにかだろう。
私はなんとも照れくさいような感じになったが、一応真面目な顔で、
「たいしたことじゃない。鉱山の安全が守れてよかった」
と応じ、その隊長らしき人物と握手を交わした。




