庭師とおつかいの旅03
「出るとすれば、今夜か明日の明け方だぜ。一応交代で見張りをすることになるから、覚悟しておいてくれ」
「了解だ。夜の見張りは慣れている。任せてくれ」
「ああ。頼りにしてるぜ、先生」
少し冗談めかしたしゃべり方をしてくるヒーニスにこちらも気軽に返し、夜の見張りの順番を決める。
最初はヒーニス一人。
そして、次は私とリッカ、最後はアニスとシニエという組分けになった。
いつも通りブランケットに包まり軽く目を閉じる。
浅い睡眠で体を休めていると、夜更けになって、自分の番が回ってきた。
焚火に当たり静かにお茶を飲みながら周囲の気配を読む。
リッカも慣れた様子で適度に力を抜き、静かに辺りの様子に気を配っているようだった。
何事もなく時間が過ぎ、そろそろ交代かという時、ふいに嫌な気配を感じる。
(こいつは……)
そう思って遠くの茂みの方に目をやると、そこには見慣れた影がいくつかうごめいていた。
「ゴブリンだ!」
リッカに告げ、急いでヒーニスのもとに向かう。
ヒーニスを起こし、
「ゴブリンだ。数はたいしたことない。私が前線で蹴散らすからヒーニスたちは漏れた分を狩ってくれ。とにかく馬車と人を守ることを優先に動いてくれよ」
と手早く指示を出し、ゴブリンに向かって突っ込んでいく。
私の存在に気付いたゴブリンがワラワラと茂みから出てくるのを見て、私は一気に速度を上げた。
いつも通り、気を落ち着けて、静かに、しかし的確に刀を振っていく。
すると、ものの五分ほどで辺りに動く気配はなくなった。
「ふぅ……」
と軽く息を吐き、刀を鞘に納める。
後ろを振り返り、隊商の様子を見てみたが、大きな混乱は無かったようだ。
「よかった」
そんなことをつぶやきながらみんなのもとへ戻る。
なぜかぼんやりしているヒーニスに、
「どうした? なにかあったのか?」
と聞くと、ヒーニスはやや引きつったような笑顔で、
「先生、さすがっすね」
とわけのわからない言葉を返してきた。
「被害は?」
「いえ。おかげ様でないわ。ありがとう」
「そうか。よかった」
と呆然としているヒーニスに変わってシニエと現状の確認をする。
そこへリッカがやって来て、
「ユーリ。すごいね。ていうか、庭師ってみんなこんななの?」
となんだか目を輝かせてそう聞いてきた。
「ん? まぁ、新人でもこの程度は出来ると思うが、どうしてだ?」
「あはは! さすが大陸最強部隊だね! いやぁ、すっごいものを見せてもらったよ」
「ええ。いい勉強になったわ」
そんなことを言われ、少し照れてしまった私は、
「後始末は頼む。ああ、魔石は好きにしてもらってかまわんぞ。私はいらんからな」
と言い、さっさと焚火の方に向かっていく。
そして、やはり感動したような様子で礼を言ってくるヤックさんと苦笑いで握手を交わすと、隊商付きのメイドにお茶を淹れてもらって、ひと息つかせてもらった。
その後、何事もなく夜が明け、再び出発する。
隊商は順調に進み、夕方前には無事ゴルディアス共和国最初の宿場町に到着した。
「では、ここで失礼します」
「ああ。縁があったらまた会おう」
「今回はいいもの見せてもらったぜ、またどこかで会えるといいな」
「ああ。そっちも元気でな」
そんな挨拶を交わし、みんなと別れて適当な宿に入る。
なんだか妙な高揚感を沈めるようにベッドに横になると、しばらくぼーっとして天井を見つめた。
(なんだかんだでいい経験になった。冒険者のことも少しは知れたし、世間の人たちがどうやって生きているのかというのを目の当たりに出来たことは大きい。これからもこういう市井の人たちが笑顔で暮らせるよう、自分に与えられた仕事をこなしていかねばな……)
そんなことを思い、多少重くなった体を起こす。
そして、いつもの様に風呂に行き、その日は適当な酒場で飯にすることにして一杯だけビールを飲んだ。
翌日。
すっきりとした気持ちで旅路に戻る。
さすがドワーフの国ということで、行きかう人たちのほとんどがドワーフだ。
そんな光景に最初は物珍しさを感じていたが、徐々に慣れ、目的地に着く頃には、すっかりその風景がしっくりくるようになっていた。
数日かけて辿り着いた目的の町でさっそく鉱山を訪ねる。
鉱山は町から歩いて数時間の所にあるらしく、けっこうな山道を歩き、ちょうど昼頃になってようやくたどり着いた。
その辺にいた人に適当に尋ねつつ、親方がいるという詰所に向かう。
「失礼する。フィッツランドから来た庭師のユーリだ。話は通っていると聞いているが、アダマンタイトを受け取りにきた。これが受け取りの手紙だ」
そう受付で話すと、さっそく親方がいるという部屋に通された。
「おう。話は聞いてるぜ。さっそくだが、倉庫に案内するからついてきな。ああ、一応厳重に警戒されてる場所だから武器の類は持ち込み禁止な。あと、簡単に身体検査をさせてもらうからそのつもりでいてくれ」
いきなりそう言われて、
「あ、ああ。わかった」
と少ししどろもどろしながらうなずく。
(ドワーフというのはみんな気が短いのだろうか?)
ゴードンさんの顔を思い浮かべつつ、そんなことを思いながらその親方らしき人の後に従うと、いかにも倉庫らしいところへ連れていかれた。
入り口で武器と収納の魔道具を渡し、軽く身体検査を受ける。
そして、いかにも厳重に施錠してある重たそうな扉をくぐり倉庫の中に入った。
「アダマンタイトはさらに奥の金庫に入れられている。それは俺しか開けられねぇから、ちょっとその辺で待っててくれ。ああ、収蔵品には触るなよ」
また、用件だけをぶっきらぼうに言われたが、言われた通り、大人しく待つ。
待つこと十五分ほど。
戻ってきた親方の手には鈍い金色の延べ棒が四つ持たれていた。
「一応、たしかめてくれ。アダマンタイト二十キロだ」
そう言われたが確かめようがない。
そう思って私は、
「いや。確かめる術を知らんからな。そこは信用取引ということにしておいてくれ」
と言って苦笑いをし、その重たい金属の塊を受け取った。
倉庫を出た所でさっそく収納の魔道具にアダマンタイトを入れ、受取証のようなものにサインをする。
「世話になったな。預かったものはきっちり届けさせてもらう」
「おう。ゴードンのやつによろしくな」
「ああ。ちなみに名前を聞いてもいいか?」
「ん? ああ、そう言えば名乗って無かったか。すまんな。なにせせっかちな性格なんだ。俺はグラッツってんだ。ゴードンのやつとは腐れ縁というかなんというか、まぁ、いわゆる古なじみってやつでな。ガキのころからよく知っているんだ」
「そうだったのか。わかった。元気そうだったと伝えておこう」
「おう。じゃあそういうこってよろしく頼んだぜ」
「ああ」
そんな別れの挨拶をして握手を交わしているところに、
「親方! 大変です!」
と、ひとりの若者が転がり込むようにして駆けつけてきた。
「おう、なんだ。客人の前だぜ」
「す、すみません。でも、一大事なんです」
「どうした?」
「へ、へい。それが、鉱山の奥にヘルワームが出やがりまして。それも一匹じゃねぇようなんです」
「なんだと!? 中にいたやつらは?」
「へい。なんとか命からがら……」
「そうか。ならよし。とりあえず騎士団の所に走れ。入り口は元気なやつらを総動員して固めるぞ。そっちは俺が指揮を執る」
「了解っす!」
そう言って若者がどこかへ走っていく。
私は、
「そういうことだから、あばよ!」
と言いどこかへ駆けて行きそうなグラッツを呼び止めると、
「ヘルワームなら二度ほど経験がある。よければ手伝うぞ」
と申し出た。
「は?」
キョトンとした顔でこちらを見てくるグラッツに、
「これでも庭師の端くれだからな」
と言うと、グラッツはなんとなく納得したような表情を浮かべ、
「ああ。そう言えばそうだったな。本当に頼めるのか?」
「五匹や十匹ならなんとでもするさ」
「なっ……。ああ、まぁ、そうか。庭師さんならそういうこともあるかもな」
「ああ。任せてくれ。ああ、明かりの魔道具があれば貸してもらえると助かる」
「おう。そういうことならひとつ打ち合わせをしようじゃないか。ついてきてくれ」
「了解だ」
そう話して急遽ヘルワーム討伐に加勢する話が決まる。
私はせかせかと歩くグラッツの後をやや速足でついていき、なにやら現場事務所のような建物の中に入っていった。




