庭師とおつかいの旅02
夕暮れ時とあって、ギルドは冒険者でごった返している。
そんな人ごみを少しかき分けるようにして、受付に向かった。
少し並んで、私の番が来たので正直に身分と目的を告げる。
すると、受付嬢がカッと目を見開き、私の方をじろじろと見てきた。
「どうした?」
「あ、いえ。あの庭師様というのは本当ですか?」
「ああ。なんなら紋章を見せるか?」
「あ、いえ。大丈夫です。ただ、庭師様を見るのは初めてだったので、少し驚いてしまいました」
「もしかして、公用であれば通関手続きは他のところで行うのか?」
「はい。たいていは事前に用意された通関用の文書をお持ちになっているはずですので、手続きなしで国境を越えられていきます」
「そうだったのか。いや。その辺りまでは準備をしていなかった。なにせ、おつかいに近い任務だからな」
「そうなんですね。あ、一応型通りの質問なんで聞かせていただきますが、冒険者や商人としてギルドに登録していない人はここで登録できることになっています。登録されますか?」
「冒険者登録ということか?」
「あ、はい。一応決まりなんで型通り説明しただけですから、あまりお気になさらないでください」
「そうか……。いや、少し気になるな。詳しく説明してもらえるだろうか? その冒険者登録というのは難しいのか?」
「いえ。おところとお名前、得意の武器なんかを紙に書いていただくだけで登録できますよ。登録料は銀貨三枚です」
「ほう。で、登録するとなにかいいことがあるのか?」
「そうですね……。一応、冒険者ギルドにある依頼が受けられるようになったり、ギルド推奨の宿に泊まる時にほんの少し割引があったりする程度でしょうか? あとは、なにもありませんね」
「なるほど。ちなみに依頼というのはどういうものが多いんだ?」
「このギルドの場合、国境越えの時の護衛でしょうか? 最近、たまに魔獣や野盗が出るものですから、意外と要望が多いんです」
「ああ。そんな話だったな。……よし。何事も経験だ。ひとつその冒険者登録というのをしてみようじゃないか。すまんが、手続きを頼む」
「え? あ、はい。少々お待ちください」
受付嬢は少し驚いた表情を浮かべ、いそいそと書類を揃えてくれる。
書類は本当に簡単で、
「冒険者登録すると、まずは三級からの開始です。その後、実績に応じて、一級まで上がっていきます。ちなみに、一級の上に特級というのもありますが、それは国の認証が必要なので、滅多になることはありませんね」
というような受付嬢の説明を聞きながらさらさらと書き、ものの十分で冒険者登録が完了した。
「せっかくだ。護衛の依頼というやつを受けてみようと思うんだが、どうすればいい?」
「でしたら、明日の朝、そこの掲示板に張り出される依頼票を取って受付に持ってきてください。早い者順ですから、朝早く来ることをお勧めしますよ」
「そうか。なにからなにまでありがとう」
と軽く礼を言って、冒険者ギルドを後にする。
私は冒険者という知らない世界に飛び込んだような気持ちになって、少しウキウキしながらその日の宿を探して、人で賑わう大通りを歩いていった。
翌朝。
本当に早くから冒険者ギルドに向かう。
言われていた通り、ギルドには多くの冒険者がいて、掲示板の前で、依頼票を眺めていた。
私も隙間から依頼票を覗き、一番目立っていた隊商の護衛というものを選ぶ。
どうやらそれは複数人で受ける依頼らしく、同じ内容の依頼票が何枚も重ねて張られていた。
それから次々にその依頼票が取られるのを見て、
(人気の依頼なんだな。無事取れてよかった)
と思いつつその依頼票を持って受付にいく。
「あら。さっそく依頼を受けられるんですね」
と言われて見れば、昨日と同じ受付嬢だった。
「ああ。何事も経験だと思ってな」
「この依頼は五人一組で受ける依頼ですから、あと四人他の冒険者がいるはずですよ。待ち合わせの門のところで依頼主にこの紙をみせれば大丈夫です。依頼が完了したら目的地のギルドに依頼主が発行した完了届を提出してくださいね。そこで依頼料が支払われますから」
「ああ。わかった。丁寧にありがとう」
「いえ。お気をつけていってらっしゃいませ」
そんな会話を交わし、さっそく待ち合わせの場所になっている門の所に向かう。
同じように出発を待つ荷馬車がひしめき合っているのを見て、
(ここからどうやって依頼主を見つけるんだ?)
と思ったが、よく見ればそれぞれの荷馬車にはわかりやすく商人の名や紋章が入っていた。
依頼票にある紋章と同じものを見つけ、さっそく依頼主に会いに行く。
依頼主はヤック商会という貿易商の隊商らしく、いかにも代表者らしい少しいい服を着た人に声を掛けると、
「初めまして。私が依頼主のヤックです。今回はよろしくお願いしますね」
とにこやかに挨拶をされた。
「こちらこそよろしく頼む。正直に話しておくが、昨日冒険者登録をしたばかりの新人だ。ただ、本業は王国の庭師をしているから、腕にはそれなりの自信がある。勝手のわからないこともあるから、迷惑をかけるかもしれんがひとつ大目にみてくれ」
「え? 庭師様ですって!? あの、それは、えっと……」
「ん? ああ。任務でゴルディアス共和国に行く途中でな。おつかい程度の簡単な任務だから物見遊山の気持ちで行ってこいと言われているんだ。だから普段できないことをしてみようと思って、冒険者に挑戦してみることにしたんだ……。迷惑だっただろうか?」
「い、いえ。大陸最強と言われる庭師様に護衛していただくなど、なんともったいない。いや、こちらこそ、何卒よろしくお願いいたします」
「庭師はそんな風に思われていたのか……。実際は魔獣狩りの専門家ってだけでそこまで大きな戦力じゃないんだがな……。まぁ、いい。私もそれなりに経験は積んでいるから、足手まといにはならないだろう。よろしく頼む」
挨拶ついでに握手を交わし、他の冒険者の到着を待つ。
他の冒険者もほどなくやってきたので、とりあえず出発することになった。
「ユーリだ。護衛の仕事は初めてだからなにかと教えてほしい」
そう切り出して、他の冒険者の代表者らしい男に握手を求める。
「お。新人かい? 俺はヒーニス。これでも全員二級冒険者だ。俺たちは四人で『リンゴの木』ってパーティーを組んでてな。俺が盾役で隣のアニスが弓、エルフのシニエ姐さんが魔法を使って、獣人のリッカが短剣を使う。まぁ、護衛依頼は何度も受けてるし、慣れたもんだから、大船に乗った気でいてくれ」
そう言ってガハハと笑いながら私の手を握ってきたヒーニスの手はたしかにそれなりに戦ってきた手だと思った。
その後、各人と握手を交わし、一応の隊列を組む。
「ユーリは刀だし、前衛になるだろうから、リッカと一緒に先導を頼む。俺は殿だ」
そう言われてリッカと名乗った獣人の女性と一緒に隊列の一番前の馬車に乗り込む。
「ユーリってなんで冒険者になろうと思ったの?」
と無邪気に聞いてくるリッカにまた同じような説明をする。
「え? なにそれ? 超おもしろいんですけど! あはは。ユーリって変わり者なんだね!」
リッカは私の状況を聞き、なんとも面白そうに笑ってくれたので、そこからは世間話が弾んだ。
どうやらリッカたち「リンゴの木」は同郷の出身らしい。エルフのシニエが実質上のリーダーでみんなのまとめ役なんだそうだ。
ただ、年齢もけっこう上なので、いつもはヒーニスに任せて後ろから見守っているという感じの立ち回りをしているらしい。
「シニエの姐さんは優しいから、私たちが冒険者になるって言った時、ついて来てくれることになったんだ。本人曰く、どうせ長い人生なんだから、たまには冒険もいいかもねってことだったけど、きっと私たちのことを本当の妹や弟みたいに思ってくれているんだと思うよ。本当に優しい人なんだよね」
そういうリッカの目はどこか懐かしいものを思い出している様子で、どこまでも優しい。
そんな目を見て私は、
(みんなもきっと優しい人に恵まれて育ってきたんだろうな……)
と勝手に想像を巡らせた。
やがて、昼休憩の時間になり、みんなで簡単なスープとパンの食事をとる。
その時、改めて私の話になったが、やはりみんな驚き、シニエさんに至っては半分呆れたような表情を浮かべていた。
「はっはっは。かの有名な庭師様がいるんなん安心だな。まぁ、そんじょそこらの野盗だったら、俺たちで十分対応できるから、ユーリ先生は後ろでデンと控えててくだせぇな」
といつの間にか私を先生と呼び出したヒーニスに苦笑いを返しつつ、また、元の隊列に戻って進んでいく。
そして、夕方前。
一行は峠の頂上より少し手前にある広い野営地に着くと、そこで野営の準備に取り掛かった。




