庭師とスライム02
サイクロプスの討伐が終わり、その場で野営の準備を整える。
軽く寝床を確保した所で、簡単なかまどを組み、まずは飯盒で飯を炊き始めた。
「お米大好き! 今日はなぁに?」
と聞いてくるリルに、
「今夜はカレーだ」
と答えると、リルは不思議そうな顔で、コテンと首を傾げた。
「ああ。リルはカレーをまだ食ったことがなかったな。じゃあ、辛さを抑えた甘口にしよう。ちょっと辛いが平気そうか?」
「うん! たぶん大丈夫だよ! ユーリが作ってくれるならなんでも大好き!」
そんな可愛いことを言ってくれるリルを撫でてやり、カレー作りに取り掛かる。
ジャガイモとニンジン、タマネギを切って炒めたものにたっぷりのベーコンを入れてしばらく煮込んだ。
やがて、野菜に火が通ったところで、ハンナさん特製のカレールーを入れる。
すると途端に、あの独特の匂いが辺りをカレー色に染めた。
「きゃふーん! なにこれ? すっごくいい匂い。早く。早く食べよう!」
そう言って興奮するリルを、
「もうちょっと待ってな。少しとろみが出るまで煮込んだ方が美味しいんだ」
と言って宥め、しばしカレーを煮込む。
やがて、炊きあがった米を皿に盛ると、出来上がったカレーをたっぷりかけて、野営飯の定番、カレーができあがった。
「「「いただきます!」」」
声を揃えてみんなでカレーを口に運ぶと、まずは初体験のリルが、
「わおーん!」
と声にならない喜びを遠吠えで表現する。
それに続いて、マロンも、
「外で食うカレーはやっぱり乙なものよのう」
と渋い感想を言い、私も微笑みながら、もう一口カレーを口に運んだ。
重層的なスパイスの香りが鼻を抜け、舌先を適度に刺激してくる。
リルに合わせて甘口にしたカレーはいかにも子供の頃に食べた味で、なんとも言えない懐かしさを感じさせてくれるものだった。
食事を終え、なんとも幸せな気分で床に就く。
ふかふかとしたリルの毛に包まれて見上げる、夜空の星はなんとも幸せそうにチラチラと瞬いていた。
翌日も朝からスライム探しに追われる。
十から二十の小さな群れを見つけては駆除し、また奥を目指すということを繰り返していった。
さすが、神獣が二人もついてくれているだけあって、かなりの効率でスライムを駆除していく。
そして、四日ほど経った日の昼。
そろそろ昼食をと思ったところでリルが、
「たくさんいる匂いがするよ!」
と教えてくれる。
私は少しげんなりしつつも行動食を取り出し、かじりながらリルが匂いを感じたという方向に向かっていった。
一時間ほど歩くと開けた森の陽だまりに出た。
そこにこれでもかというほどのスライムが密集している。
辺りの木は根こそぎ食われ、地面は無残に土をむき出しにしていた。
「こいつは……」
唖然として見る視線の先には二メートルほどの黒い塊がいる。
どうやらこれが今回の大発生の原因らしい。
私はすぐさまマロンに視線を向けた。
「しょうがないのう。あのデカいのだけじゃぞ?」
そう言ってマロンが面倒くさそうにスライムの群れに近づいていく。
スライムの群れギリギリの所まで近づいたマロンは、「ふみゃぁ……」とひとつ面倒くさそうにあくびをすると、軽く伸びをした。
次の瞬間マロンの姿が消える。
そして、黒く巨大なスライムに目を移すと、いつの間にかマロンがその頭上にいて、二メートルを超えるスライムを余裕で包み込み、なんなら周りのスライムも一掃するほど巨大な火魔法を繰り出した。
熱がこちらまで伝わってくるようなその圧倒的な魔法に感心し、
(さすがだなぁ……)
と心の中でつぶやく。
マロンは何事も無かったかのように着地すると、こちらに向かって、
「ほれ。ぼさっとせんで残りを焼いてしまわんかい」
と声を掛けてきた。
その場で丸まり髭をクシクシし始めたマロンに苦笑いしつつ、スライムを焼いて回る。
その地味な作業は結局夕方近くまでかかり、その日はそこで野営することになった。
ペコペコの腹にとにかく米を詰め込みたくて多めに米を炊く。
ご飯のお供は迷ったが、ハンナさん特製の美味しい干し肉とスープの素で作る簡単ビーフシチューにした。
「うむ。さすがはハンナじゃ。この干し肉は塩辛くなく、うま味が十分に引き出されておるわい。それにこのスープの素よ。時間をかけたデミグラスには及ばんが十分にうま味を蓄えておる。これが外で食えるというのはなかなかに幸せなことよのう」
「うん。これとっても美味しいね! ご飯がどんどん進んじゃう!」
そう言って満足そうに食べてくれる二人に負けじと私も米をかき込んでいく。
そして、ようやく満足した腹を抱え、その日も幸せな眠りに就いた。




