庭師とスライム01
リルがうちにきて数日。
いつものように詰所に出勤すると、ノルド師長から全員集合の指示がかかった。
「朝からすまねぇな。森の奥でスライムの小さな群生が確認された。意味はわかるな? あいつらは群れたらやっかいなことこのうえねぇ。しばらくの間は全員できるだけ森に入って駆除にあたってくれ。ユーリ。猫ちゃんたちにも協力を仰いで、奥地を頼んでもいいか?」
「了解です」
そう言って、私はさっそく市場に走り最低限必要な物を揃えると、家に戻って準備にとりかかった。
昼食時。
「森の奥にスライムが出たんだ。一日も早く駆除しなければならない。すまんが協力してもらえるか?」
とマロンに頼む。
「スライムか……。それはやっかいだな。なに。魔力での索敵は任せておくがよい。リルもその鼻を生かして索敵するいい練習になるじゃろうから、いっしょに行くぞい」
「うん! っていうかスライムってどんなの?」
「お。リルはスライムを知らんのか。スライムというのは森に住むちょっと変わった存在でのう。魔獣と精霊の中間のようなやつじゃ。普段は単体で行動して魔獣の死骸なんかを食べてくれるいわば森の掃除屋のような役割をしておるんじゃが、時折これが爆発的に増える。すると、森の何もかもを食べつくす勢いでどんどんその数を増やしていくからやっかいなんじゃ。小さいと言えども群れが確認されたということはその兆候だと言えるじゃろう。だから、なるべく多くの群れを見つけて虱潰しに駆除していかねばならん。まぁ、地味じゃが重要な仕事ということじゃな」
「そっかぁ……。よくわからないけど、僕、がんばるね!」
「ああ。二人とも頼んだぞ」
そう言うと、私はさっそく準備を整え出発する。
いつもより急いで街道を進み、翌日の昼過ぎには無事森の入り口にある村に到着した。
森の中を行きながら、
「スライムを倒すのは難しくない。なにせ、燃やせばすぐ消えてくれるからな。逆に斬ろうと思ってもなかなか斬れないからその点は厄介だが……。まぁ、とにかく今回は下級の火魔法が出る杖を用意してきたから、それで燃やして回ればいい。マロンとリルにはとにかく索敵を頼む。おそらく森のいたるところにいると思うから、けっこうな日数森を巡ることになるが、よろしく頼むぞ」
そう言って二人に今回の作戦の概要を伝える。
すると、リルが不安そうに、
「僕にできるかなぁ?」
と言ってきた。
「なに。最初はわしが見つけてやるでのう。それで匂いと魔力の波長を覚えれば次からはリルでも簡単に見つけられるようになるじゃろう。何事も最初は不安なものじゃが心配せずともよいぞ」
マロンのひと言で、リルは少しほっとしたような様子を見せる。
私はその様子をなんとなく微笑ましく思いながら森の奥へと進んでいった。
適当にゴブリンの相手をしつつ進むこと三日。
適当な水場で小休止をしていた時、ふいにマロンが、
「おったぞ」
と告げてくる。
私は急いで火魔法の出る杖を取り出すと、マロンが指し示す方に向かって進んでいった。
三十分ほど進んだところで、十匹ほどのスライムが密集しているのを発見する。
「これがスライム? なんだかかわいいね」
とリルがやや呑気な感想をつぶやいた通り、スライムは直径二、三十センチの団子状で、ぽよんぽよんしているし、半ば透き通った緑色でどことなく愛嬌のある姿をしていた。
「ああ。だがこれが大量発生したら大事になるんだ。緑色のやつはなにも攻撃してこないから、適当につついたりして遊んでも問題無いが、黒とか紫のやつがいたら絶対に触るなよ。体の表面に毒がしみ出しているからな」
「はーい」
「よし。ではユーリはさっさと駆除を始めい。わしはリルにスライムの匂いと魔力の波形を教えておくからのう」
「了解。たのんだぞ」
そう短いやり取りでお互いの役割を分担し、スライムの駆除にあたる。
スライムは本当になんの攻撃もしてこないので、若干の罪悪感がないとも言えなかったが、そこは仕事と割り切って、淡々と焼却していった。
しばらくして木の枝の上にいたやつまできっちり焼却し、駆除に漏れがないかを再確認する。
マロンにも聞いたが、
「近くにはおらんぞ」
と言ってくれたので、とりあえずその場で昼をとることにした。
「ハンナさん特製のコンビーフとチーズがあるからそれでホットサンドにしようと思うがいいか?」
「む。そいつは美味そうじゃな」
「なんだかわかんないけど、ユーリが作るのなんでも美味しいからそれでいいよ!」
そんな長閑な感じでメニューを決め、さっそく作っていく。
まずはマロンに渡し、続けてリルの分を焼いた。
リルがひと口で食べ、
「おいひい! もっと食べたい!」
というので急いでお替りを焼き、ようやく自分の分を焼く。
結局リルは四枚食べたので、次々と焼きながら自分の分を口に運ぶというちょっと忙しない昼食になったが、それもまた楽しかった。
食後のお茶を飲み、再び移動を開始する。
すると、まもなくしてリルが、
「さっきと同じ匂いだ!」
と言ったので、すかさずそちらへ向かっていった。
今度は先ほどよりも多い十五から二十匹を焼いて回る。
中には一匹だけ黒いのがいたので、毒に触れないよう慎重に処理をした。
「ふぅ……。今日はもう少し奥に進んだら適当な場所を見つけて野営にしよう」
そう言う私に、マロンが、
「そうも言っておられんぞ。奥からちとデカい気配がする」
と、あまり歓迎できない言葉を投げ返してくる。
私は一瞬で緊張感を高め、
「なにかわかるか?」
と聞くがマロンは、
「それは行ってのお楽しみじゃ」
と意地の悪い答えを返してきた。
「わかった。とりあえず向かおう」
そう言って歩き始める。
しばらく行くと明らかに大物とわかる痕跡がいくつもあるところに差し掛かった。
「……サイクロプスか。複数いるな。ちっ。面倒だ」
思わず吐き捨てる私にリルが、
「お手伝いしようか?」
と気づかわしげに声を掛けてくる。
私はあえてニコリと笑うと、
「なに。ちょっと斬りにくい相手だが、落ち着いてじっくり相手をすれば問題無い。マロンと一緒にゆっくりお留守番していてくれ」
と言って、リルの頭を軽く撫でてあげた。
慎重にかつ急いで痕跡を追っていく。
そして、三十分ほど進んだところで、なにやら餌を貪っているらしいサイクロプスを発見した。
(三匹か。ちと面倒だが、なんとでもできる範囲だな)
そう思ってリルとマロンに、
「荷物番を頼む」
と冗談っぽく告げ、刀を抜く。
そして一気に全身の魔力を練り上げ、駆け出すとあっと言う間にサイクロプスの群れに肉薄した。
(関節と腱の弱い部分を狙って確実に、だぞ)
と心の中で自分に言い聞かせながら、乱暴に振り回されるサイクロプスの拳を慎重に避けていく。
しびれを切らしたサイクロプスが、さらに大振りの一撃を繰り出してきたところで、
(よし!)
と思いながら、それをギリギリでかわしその個体の懐に飛び込んだ。
魔力を十分に溜めた刀が青白い軌道を描いてサイクロプスのアキレス腱に吸い込まれていく。
スパッという音が聞こえてきそうなほどざっくりと斬れ、そのサイクロプスが、
「グギャァァッ!」
と叫んでうずくまった。
(次!)
と切り替えて次の個体に向かう。
残った連中はなにかしら学習したらしく、二匹同時に挟み撃ちの攻撃を仕掛けてきたが、そこもなんなくかわし、最後には同士討ちを誘って大きな隙を作った。
尻餅をついた一匹の膝を一刀両断する。
そして、素早く移動すると、やはり尻餅をついていた最後の個体に飛びかかり、空中で首筋をスパッと跳ねた。
ドサッと音を立てて倒れるサイクロプスを尻目に残りの二匹にもトドメを刺して回る。
サイクロプスは最後まで抵抗してきたが、足を止められた個体の攻撃など当たるはずもなく、最後は首筋をスパッと斬られて討伐は終了した。
「わっふ! ユーリ強いね! かっこいいね!」
と喜びの感情を爆発させながら飛びついてきたリルをなんとか受け止め、これでもかと撫でまわしてやる。
それに対してマロンは落ち着いたもので、
「まぁまぁじゃな。もちっと速く動けるじゃろ。いついかなる時も気を抜くでないぞ」
と言ってきた。
「ああ。精進するよ」
と苦笑いで返しマロンの頭も軽く撫でてやる。
するとマロンは、
「にゃぁ」
とくすぐったそうな声を出した。




