表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カズとダニエルのラノベ談義  作者: とおエイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/9

ラノベに出てくる魔法使い? そんなのいたか?

 午前0時すぎ、Discordの通知音が鳴った。

 ディスプレイに映ったのは、見慣れたアメリカの大学寮だった。

 床にはAmazonの空き箱、机には空になったゲータレードのボトル、謎のケーブル、まだピースのそろってるピザ。


 そして、その中央でやけに楽しそうな顔をしている男。


 ダニエル・リヴァース。

 留学時代の悪友であり、メディア文化論専攻であり、時差という概念を人生のどこかに置き忘れてきた男である。


「Good morningおはよう カズ!」


「……お前に時差を理解させるには、どうしたらいいんだろうな」


「理解したから一時間早くしたんだ。おかげでhealthy morn(健康的な朝)ingを迎えちまった。どうしてくれる」


「俺に何の責任も義務もないよな!?」


 と突っ込んでからカレンダーを確認する。4月。


「しかもそっちの時間は変わってないだろ!夏時間になっただけじゃねえか!」


「Don’t worry(気にすんな).」


「俺の深夜であることに変わりはないんだよ」


 俺はため息をついた。


「で、今日はなんだよ。異世界か? 神か? それともまた日本人の頭がおかしいって話か?」


「うん、日本の魔法使いって、魔法使いじゃないよな?」


「……第一声から喧嘩を売る範囲が広すぎるんだよ、お前は」


 俺は反射的にそう返してから、少し考えた。


「でも魔法使いじゃないってなんだよ? ちゃんと魔法使ってるじゃないか」


 攻撃魔法でモンスターを退治する。誰でも一度はアニメや漫画、ライトノベルで見たことがある光景だ。


「あんなのをmagic(魔法)と呼ばないでくれ」


 ダニエルがピザをかじりながら返してくる。


「ラノベとかでも魔法が使えるようになった、って言われて想像するのが大抵ファイアだのライトだのだろ?」


「初めはそんなもんなんじゃないか?」


「そこからしておかしい。 なんで1効果なんだよ。魔法だぞ?」


 言われてみたらそうだ。魔法。 なんで魔法が使えるようになる=ファイアとかライトなんだ?

 もっと漠然とした大きな効果でもいいんじゃないか?


「確かにそうだわな」


「だろ? そもそもwizard(魔法使い)って、こちらでは神の次くらいに万能な存在なんだぞ?」


「待て待て待て。いきなり魔法使いの立ち位置が世界の管理者レベルに跳ね上がったんだが?」


「だってそうだろう。童話でも何でも見てみろよ。

 杖の一振りで何でもできる。pumpkin(カボチャ)を馬車に。死の呪いを100年の眠りに。悪い大臣をネズミに。この子に幸せな人生を。死者の言葉をあなたに。今の日本の魔法使いじゃ誰もやってないだろ」


「いや、その『杖一振りで何でもできなきゃおかしい』の基準がもう神側なんだよ!」


「でも魔法使いってそういうもんじゃね?」


「……否定はしない」


 俺は画面越しにダニエルを睨む。


「つまり、お前の言いたいことはこうだろ。

 日本式ファンタジーの魔法は、魔法というにも値しないと」


「ひどいなカズ、Whoa, I di(俺そこまで)dn’t say all(言ってないぞ) that?」


 一発殴らせろ。今すぐだ。


 魔法使いが杖を振って万能の魔法を使う……ではなく。

 魔法使いが規定コストを支払って、決まった効果を発生させる。


「でもさ、そのほうが物語上はものすごく扱いやすいんだよな。

 本物のwizard(万能魔法使い)なんて出したら、「なぜ最初からそれをしない?」問題が延々と発生する。

 だからMPだの属性だの詠唱だので縛る。

 結果、魔法はどんどん万能性を失って、火力職に落ち着くんだ」


 そこまで聞いてから、ふと嫌なことに気づいた。


「待てよ。じゃあ本来の意味での魔法使いって、神と何が違うんだ?」


「Good quest(いい質問だ)ion.」


 うげ。ダニエル(こいつ)が『良い質問だ』と言う時は、だいたい自分の中ではすでに答えがある時だ。


「こっちでは、神は基本的に人間のことなんか見向きもしない。祈っても答えない。困っていても助けには来ない。試練は与えるらしいが、俺は受けたことがない」


「受けてたまるか、そんなもん」


「つまり神は偉大だが、個人にとっては遠すぎる。直接会えない。話を聞かない」


「まあ、そっちじゃそういうイメージだよな」


 我が国の身近な神様たちとは大違いだ。


「だが魔法使いは違う。実際に会える。話を聞いてくれる。人によって得意不得意はあるにしても、基本的には何でもやってくれる」


 そこでダニエルは、少し考えるように首を傾げた。


「つまり、an all-purp(万能の)ose problem so(何でも屋)lver?」


「……何でも屋」


 その単語が、妙にしっくり来た。


 神は世界を作り、試練を与える。

 神は人間を見下ろすが、目の前の困りごとには来てくれない。


 それに対して魔法使いは、村のはずれや森の奥にいて、困っている人間の話を聞く。

 病人がいる。悪魔に呪われた。井戸が枯れた。恋人が欲しい。山に竜が住み着いた。

 王子がカエルになった。姫が百年眠っている。

 そんな人が来たときに『火の玉だけ出せます』『水属性なので呪いは無理です』じゃ困るわけだ。


「……完全に何でも屋だな」


「そうだ。個人にとっては、神よりuseful(実用的)なんだ」


「危険なこと言うなよ」


「危険だからこそ、魔法使いは目の敵にされたんだ。何でもできて、人の話を聞く。

 個人にとっては神の上位互換だ。だから宗教権威からは悪魔の手先認定された。

 神以外がmiracles(奇跡)を起こしてはならぬ、ということだ」


 俺は少し黙った。


「……なるほどな。神と教会を経由しないで、個人が直接、超常の解決策にアクセスできる。

 そりゃ宗教権威からしたらほっとけないわな」


 乱暴に言えばこうだ。


 神はいつも見てます。

 病気?祈りましょう。不幸?あなたに何か悪いところがあるのです、悔い改めましょう。来年の作物が不安?試練です、乗り越えましょう。悪魔憑き?あなたの心が弱いからです、祈りなさい。

 効果はあなたの心の中に。信じるものは救われます。


 そこに魔法使いがやって来て、

 病気?はい薬草。不幸?呪われてるね、解呪。来年の作物が不安?はい豊作祈願、悪魔に憑かれた?はい悪魔祓い。

 しかも祈りと違って実効が見える。


「完全に上位互換の競合サービスだな」


「That’s rig(そういうことだ)ht.」


「でも、それなら魔法使いって、人間社会にとって便利すぎたから迫害されたってことになるぞ」


「既得権益者から見たら便利どころじゃない、自分の権益を犯すものだぞ?」


 ダニエルはそう言って、画面の向こうでピザを一枚つまんだ。

 あのペパロニ、久しぶりに食べたくなるじゃねえか。よこせコノヤロウ。


「そして物語上でも同じ問題が起きる」


「物語上?」


「Deus ex macデウス・エクス・マキナhinaってあるだろう。最後に神が出てきて万事解決。余はすべてこともなし、というやつだ」


「あるな。やりすぎると嫌われるやつ」


「あれ、魔法使いでも同じことができるんだよ」


「……あー」


 俺はそこで、嫌な形で腑に落ちた。


 解けなかった呪い。

 引き離された恋人。

 失敗した冒険。


 神が出てきて、はい解決。

 でも、万能の魔法使いも同じことができる。

 杖を持った婆さんが現れて、『チンカラホイ』とか呪文唱えながら杖の一振りで全部片づける。


「つまり本来の魔法使いって、歩くデウス・エクス・マキナなのか」


「そういうことだ」


「そりゃ物語から追放されるわ。そんな奴が最初からいたら、勇者の旅も試練も成長も犠牲も、全部『魔法使いを呼べばよくね?』で終わる」


 ドラゴンが出た。

 魔法使いを呼べ。


 姫が呪われた。

 魔法使いを呼べ。


 国が亡ぶ。

 魔法使いを呼べ。


 魔王が復活した。

 魔法使いを呼べ。


「……どんな勇者より便利だな」


「だからストーリー上の魔法使いは、探しに行く対象として隠れ住む。人が会いに行くだけでも困難な山奥だったり、辺鄙な村はずれだったり、町のスラムの片隅だったりにな」


「神秘性とか禁忌とか迫害だけじゃなくて、何でもできすぎるのか。街中にいても便利だと思うけど」


「何でもできる何でも屋は仕事が多すぎるんだよ。想像してみ、カズなら我慢できる?」


 言われてみれば当然だ。

 いちいちあちこちの業者に持ち込まなければならない問題、それを全部、一人の人間で解決できる。

 町中、生活圏中の問題が持ち込まれるわけだ。


「……無理だな。俺なら三日で玄関に『廃業。帰れ。呪うぞ』って貼る」


「そう、魔法使いはどこまでいっても人間なんだ。The wicked (童話のいじわるな)wizards and w(魔法使いたち)itchesって大体意味もなく性格悪いけど、ブラック労働させられすぎてひねくれただけってのが真実かもしれない」


「人間臭すぎてヤな結論だなおい」


 想像してみる。

 神の代行者でも、悪魔の手先でもない。

 何でもできるから何もかも振られた人間。


 成功すれば、次も頼まれる。

 失敗すれば、責められる。

 断ったら、「なぜやらない」になる。


「そりゃひねくれるわ」


「そうだ。だから本物のWizard(魔法使い)は目立たないようにする。気まぐれに見せる。代償を要求する。試練を課す。怖がられるくらいでちょうどいい」


「……なるほどな。魔法使いが森の奥とか塔とか村はずれにいる理由、生活防衛に見えてきたぞ」

 

 もしくはクレーマーやカスハラ対策な。


「でも日本のライトノベルで『魔法使い』と呼ばれるのは、だいたいそういう奴じゃないよな」


「That’s the po(そこなんだよ)int.」


 ダニエルが待ってましたとばかりに身を乗り出した。


「日本のラノベの魔法使い……いや魔法使いというのもおこがましいけど、使える魔法が制限されている。ゴブリン一匹倒すのにも、火の矢だの水の球だの、いちいち呪文がいる。属性で分けられて、合わないものは使えないことまである」


「まあ、ゲーム的にはよくあるな」


「MPって何だ。そんなもの、武器と弾倉と何も変わらないだろう」


 また極論ぶっこんで来たなおい。


「まてお前この間MPがどうこうって散々語ってなかったか?」


「今回はMP自体は論点じゃないからな。 あんなの共通規格の弾薬となんも変わらん。MP=NATO 7.62mmと言い換えても問題はないだろ」


「多方面から本気で怒られろ」


 でも、そのとおりだ。

 MP、クールタイム、属性、射程。


「……日本の魔法使いは魔法使いじゃなくて、補給と工場のいらない理想の兵器の擬人化?」


「そうだ。日本式の魔法使いは、Wizard(神の次に万能な存在)ではなく、|Spellcaster《ただ呪文をブッパしてるだけ》なんだ」


「言い方」


「事実だろう」


 否定できないのが腹立たしい。


「火は出せます。でも治癒はできません。転移はできません。結界は専門外です。それはただの専門職だろう」


「町医者とか鍛冶屋とか猟師と同じだな。すごい技能を持っている人ではある。でも魔法使いという言葉にある、理不尽な万能感は消えてる」


「そういうことだ」


 俺は少し考えた。


「つまり、日本の創作では、魔法使いを物語に参加させるために人間化しすぎたんだな」


 本物の魔法使いは物語を終わらせる。

 だから制限する。

 魔力、属性、レベル、効果。


「全部、デウス・エクス・マキナ化防止策か」


「そう。でも、魔法使いって名前だけは残った」


「名前だけ?」


「日本のライトノベルで魔法使いと呼ばれるのは、MPを消費して攻撃魔法を撃つ存在だ。だが本来の魔法使いらしさは、そこにはない」


「じゃあ、どこに行ったんだよ」


「いるじゃないか。最近のライトノベルなら、クリエイト系だな」


「……ああ」


 俺は思わず声を漏らした。

 アイテム作成、錬金、料理、建築。


「たしかに、そっちのほうがよっぽど魔法使いだな」


 火球でゴブリンを倒す。

 それはその場の敵を一匹消すだけだ。


 でも、井戸を作れば水が飲めるだけじゃなく畑も潤う。

 薬を作れば病気が治るだけじゃなくそのエリアの寿命が変わる。

 道を作れば物流が変わるし、紙や印刷機を作れば文化が変わる。


「戦闘魔法は敵を倒せる。でもクリエイト系は世界の状態を変える」


「そうだ。困っている人がいる。そこへ不思議な力を持つ人物が現れて、生活の問題を解決する。そして問題が解決されて人々は幸せに暮らしました、And all was (めでたしめでたし)well.これは昔話の魔法使いそのものだ」


「でも、クリエイト系は魔法使いとは呼ばれないよな」


「そこが面白いんだよ」


 ダニエルは満足げに言った。


「日本のライトノベルでは、本来の魔法使いっぽい行動をしているクリエイト系は魔法使いと呼ばれず、魔法の名前を借りた火力職のほうが魔法使いと呼ばれる」


「名前と機能がズレてるのか」


「そうだ。|魔法使い《Spellcaster》という名前は戦闘職に固定された。その結果魔法使いらしさはクリエイト系の方へ移った」


 魔法使いらしさが移った。俺は頭の中でその言葉を反芻した。


「つまり、日本ラノベの魔法使いは、魔法使いという職業名を持った兵科。クリエイト系は、魔法使いという名前を持たない魔法使い」


「そういうことになる」


「なんか、本物の魔法使いがいたら、自分たちから目を逸らすためにそんな分類を仕込みそうだな」


「Good poin(いいところ)tに目をつけるじゃないか」


「やめろ。お前に褒められると負けた気がする」


 だが、かなりまとまってきた。


 本来の魔法使いは、人の困りごとを聞き、世界の状態を変え、社会の外側にいながら必要な時だけ介入する存在だ。


 だが日本のライトノベルで魔法使いと呼ばれる者は、魔力を消費して攻撃魔法を撃つ戦闘職になっている。


 その一方で、本来の魔法使いの機能は、別の肩書きへ分散している。


「つまり、日本のライトノベルは『魔法使い』って名前だけ残して、中身をバラして別職業に配ったってことか」


「Hentai Jap(日本の改変力)anはすごいよな」


「お前なあ」


 でも、実際そうなのかもしれない。

 輸入された概念をそのまま使わない。

 名前と機能を分離し、別々のジャンルへ再配置する。


 魔法使いの名前は残って、魔法使いの本質は移動した。


「そういえば、日本の昔話にもWizard(魔法使い)ぽい存在はいるよな」


 ダニエルが思い出したように口にした。


「いたっけ?」


 俺には全く思い当たる節がない。


「いる。マスター・コーボーだっけ?」


「マスター・コーボーって誰だよ。急にローブでビームサーベル振り回す師匠みたいな言い方すんな。弘法大師だろ」


「そう、それだ」


 弘法大師。

 旅の僧が困っている村に現れ、井戸を掘ったり、水を湧かせたり、病を癒やしたり、問題を解決する。

 その時はただの旅人か僧に見える。

 だが後になって、あれは弘法大師だったのでは、と分かる。


「……言われてみれば、完全に日本版の魔法使いだな」


「そうだろう?」


「でも、日本だとそれは魔法使いじゃなくて、聖とか高僧とか大師になるんだよな」


「日本は神も仏も妖怪も役割が分業されているからな。水に困ったら水の霊験。道に迷ったら地蔵。商売なら稲荷。病なら薬師。学問なら天神。縁結びなら縁結びの神。超常の窓口が多い」


「超常の役割も縦割りなんだよ、日本」


 だから、日本版の魔法使いは万能の個人としては立ちにくい。

 代わりに、聖人化された旅人や、山奥の仙人や、謎の婆さんや、妖怪の長老として現れる。


「つまり、日本にはWizard(魔法使い)という名前のposition()が空いていなかったのかもしれないな」


「どういうことだ?」


「本来の魔法使いが持っている機能を、神仏や高僧や妖怪や仙人が先に持っていた。しかもバラバラにだ。

 だから後から輸入された魔法使いは、戦闘職や技能職に押し込められた」


「なるほど。魔法使いの名前は入ってきたが、役割の中心部はすでに埋まっていたわけだ」


「マスター・コーボーが先に席を取ってたんだな」


「弘法大師だ。怒られるぞ」


 前にヒーローの例として出してただろ。

 俺は画面越しに睨んだが、ダニエルは悪びれなかった。


「結果、本物の魔法使いは、日本のライトノベルで分解されてしまったわけだ」


 反論してやりたい、でも、筋は通っている。


 本来の魔法使いは、万能に近い何でも屋だった。

 人間の話を聞き、神より身近に問題を解決する。

 だから宗教的にも物語的にも危険だった。

 そのままでは扱えない。


 そして日本では、その魔法使いの機能が分解され、さまざまな職業やジャンルに再配置された。


「日本の魔法使いは魔法使いじゃない」


 俺はそう言ってから、少し言い直した。


「いや、日本の魔法使いだけを見ると魔法使いじゃない。でも日本ラノベ全体を見ると、魔法使いの成分は消えてない。名前を変えて、あちこちに散ってる」


「その通り」


「本来の魔法使いは、戦闘職としての魔法使いに名前を奪われ、クリエイト系として転生した」


 言ってから、自分で顔をしかめた。


「……ダメだ。この言い方、お前が好きそうすぎて腹立つ」


「HAHAHA, いいまとめだな」


「褒めるな」


 ダニエルは満足そうに笑った。


「では結論だ。日本の魔法使いは魔法使いではない。だが日本のライトノベルは、魔法使いを失ったわけではない。魔法使いを解体して、用途別に再配置したんだ」


「魔法使いの名前は火力職に残った。魔法使いの本質は、クリエイト系に流れ込んだ」


「そして日本そのものが、輸入された概念を素材にして再構築する魔法使いなのかもな」


「やめろ。魔改造はしょうがないが魔法使い扱いされる理由はないハズだ!」


「でも考えてみろ。文化も、概念も、神だって日本に入るとだいたい一度バラされる。そして別の役割に組み直される」


「概念のクリエイトって言いたいのか」


「そうだ」


「うまいこと言った顔をするな」


 ダニエルは袋の底に残ったナチョスの粉を指ですくっていた。


 やめろ。そういうところだぞ。


「まあでも、今日はいい頭の体操にはなったな」


「だろう?」


 殴りたい、このしたり顔。


「魔法使いの見え方がちょっと変わった。今後、火球を撃ってる魔法使いを見るたびに微妙な気分になれそうだ」


「失礼だな」


「誰のせいだ」


「Hentai Jap(日本の改変力)anのせいだろ」


「便利な言葉にするな」


 画面の向こうで、ダニエルが時計を見た。


「おっと、そろそろ切るか。こっちも課題がある」


「今からかよ」


「早起きしたから時間が余ってるんだよ」


「くたばれ」


 ダニエルは笑った。

 そして通話を切る直前、ふと思いついたようにこちらを見た。


「カズ」


「なんだよ」


「お前も改変されないように気をつけろよ?」


「……は?」


See ya(またな)!」


 通話が切れた。

 部屋が静かになる。

 ディスプレイには、暗くなった自分の顔だけが映っていた。


「改変、ねえ」


 馬鹿馬鹿しい。

 魔法使いだの日本のライトノベルがどう概念を組み替えただの、そんなものはただのオタクの深夜話だ。

 そう思いながら、ブラウザを閉じようとして――


 そういえば、七福神も外国の神様が混じっている。

 親の世代は知人の電話番号を暗記していたらしい。

 物語だって、昔ながらの勧善懲悪から、悪役にも事情があるものへ変わってきた。


 それも全部、改変なのか?


「……いや、広げすぎだ」


 ばかばかしい。

 ただの文化の変化だ。

 そういうことにしておこう。


 電源を切ろうとしたらメッセージが表示された。


 ――更新《改変》して終了しますか?


 俺はしばらく画面を見つめたあと、そっと電源を落とした。


「……寝よう」


 改変されるにしても、せめて寝ている間に済ませてほしいもんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ