表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カズとダニエルのラノベ談義  作者: とおエイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/7

異世界チート? チーター滅ぶべし

ルビが振れなかったりおかしかったりしたので1回上げなおしました


「Yo カズ、異世界転生とか転移での定番のチートスキルってなんなんだろうな?」


 深夜1時すぎ、Discordの通知が光った。

 画面に映ったのは、アメリカの大学寮らしき部屋。散らかった机の向こうで、いつものごとくテンション全開の男――ダニエル・リヴァースが語っていた。


「その前に一つ教えてくれ。お前に時差を理解させるにはどうしたらいい?」


「それはsimply(どうやっても)無理だろ。」


 七割ぐらい本気だったのにこいつは……


「切っていいか?」


C'mon, man(わかったわるかった)!努力するって!Seriously(ほんとだって)!」


 だめだなこりゃ。絶対やらん奴の言い方だ。断言できる。


「全く信用できないが……で、チートスキルが何かだっけ? チートと一言で言っても内容は色々あるだろうに。」


「そのとおり。作品によって内容はいろいろだ。でもさ、think about i(考えてみろよi)t.そもそも論で、なんてチートと言われるものが付与できるんだ?

 あれって世界の管理者...…神でも上位存在でもいいけど、その存在でもcontrol(制御)できてないのが多いじゃん?

 自分の制御できないスキルを与えられるっておかしくないか?」


 また変なことを言い出したな。でも確かに、仮にも神を名乗るモノが自分の世界で思い通りにならないてのはおかしいわ。


「言われてみれば。神様って創造神の場合もあるよな? 創造神が管理できないものってそもそもその世界に存在できるのか?」


「そこなんだよ。しかもチートと呼ばれるものは異世界人だけじゃなくて、現地人でもgranted(付与)されることがある。さらに使用者本人も理解できてないのもあるじゃないか。このチートっていったい何なんだ?」


 ……知らん。考えたこともないし、普通は考えようともしない。けど、こいつは違う。絶対に答えを聞かせたくて通信してきてる。


「で、もう答え用意してる顔だな」


「そのとおり。俺は思うんだ、チートには大きく分けて二種類あるんじゃないかって」


「2種類?チートが?」


 チートはチートでいいんじゃないかと思うがまあ言わせてみよう。


「そうだ。まず大きく異世界人がgranted(付与)されたものと現地人がgranted(付与)されたものに分ける。」


「なんで?」


「異世界人は現地神が直接デザインした存在じゃないだろ? だから異世界人のスキルに関しては予期しないbehavior(挙動)が起きる可能性は否定できない」


「まあ、そうだな。」


「それに対して現地民を作ったのは現地の神様だ。だから現地民のスキルに関しては、神に理解できないものなど存在すらできないはずなんだ。」


「知らないものは作れない、か。」


 言ってることは極端だけど、妙に説得力があるのが腹立つ。


「そう。相手は神だからな。俺ら人間なら『バグ』や『予期しない動作』が起こることもあるが、神の場合は違う。その世界のcore framew(基本フレーム)orkにない動作は、そもそも発生しない。」


それができるなら、プログラマーから見たらまさに神だな。


「ということで2種類に分けた。まず最初に転生・転移者のほうからだ。こちらの場合はなんだかんだ理由がつけられてるが、ほぼreincarnation(転生特典) perkとして扱われてる。」

「神とか出てこなくても主人公が転生特典って言ってるのたくさんあるからなあ。」


前にこいつが言ってた翻訳スキルなんかも鉄板だし。


「そこで俺は考えた。このreincarnation(転生特典) perkは色んな理屈がつけられているが、実際はご褒美でも特権でもない。ただの互換パッチなんじゃないかと。」


「互換パッチ?」


「そう。例えるなら地球人は本来、異世界OSじゃ動かない未対応アプリだ。

 そのままじゃbiological func(生命活動)tionどころか存在すらできない。だから強制的に互換用プログラムを付けられる。

 本質的には『稼働条件を満たすための必須ドライバー』ってことだ。」


互換パッチとかドライバーとか、おまえいつからIT系になったよ? 文系の広告系じゃなかったか?

正直雰囲気は分かるが具体的なことはさっぱりわからん!


「……なるほどな。でもそれなら最低限の修正だけでいいだろ。なんでチートなスキルになるんだ?」


だが話を合わせるくらいはできる!マウント取られ慣れてるオタをなめるなよ!


「そこだよ。互換パッチは正常なんだが、世界ごとに処理の仕方が違うから、完全に対応しきれないことがある。

 そうなると想定外の挙動――グリッチが発生するんだ。つまりチートってのは性能が高すぎるから特別なんじゃなく、互換パッチのmalfunct(誤作動)ionから生まれた制御不能スキルなんだよ。」


「……ああ、なるほどな。グリッチが起きなければ、ただのスキル――剣術や魔法として扱われる。けど、誤作動でおかしな挙動をしているのがグリッチ=チート扱いされるわけか。」


Exactly(そのとおり)! 本質はただの修正コードなのに、対応しきれないせいでグリッチ的に動いてしまうからチート扱いされるってわけだ」


なるほど、理屈は立ってる。

でもこいつの仮説なのに、まるで公式設定みたいな確定口調で言ってくるのが妙にムカつく。


「じゃあ現地人のチートってどう説明する?」


「こっちは悩んだんだよ。現地人が得るチートは外付けじゃない。全ての法則がその世界で作られてる存在だからな。その時点までの法則で想定外の挙動を起こせるわけがないんだ。

 だが advertising cl(広告論)ass のディベートを聞いてて思いついた。

 あれは世界OSで公式に配布するアップデート前のβテストなんじゃないかって!

 だからグリッチじゃなく、キャラクターはβテスターに当選しただけだったんだよ!」


どこをどうしたらそうつなげられるんだお前は。αはどこいった。


「……つまり、転生者のチートは改造コードで動作がグリッチ。現地人のチートはβテストで挙動チェック中と。

 同じチートでも意味が違うわけか。」


「Exactlyそのとおり!」


「でも神もさ、βテスターに当選したんなら一言くらい通知してやれよ……」


「Ha-ha! それは『God’s thoug(神の思いは)hts are not(人の思いと) man’s thou(異なる)ghts.』ってやつさ。

 だから通知なんて来ないし、理由もわからないままただ与えられるんだよ。

 ――外部コードでグリッチが転生者、公式βテストが現地人。

 ラノベ文化じゃ同じチートでも、実際は根っこが二重構造なんだ。」


「……なんか納得できるのがスッゲェ腹立たしい。

 あ、転生特典が互換パッチだとすると、『スキルなし』転生はどう定義するんだ?

 パッチがないなら存在できないはずだろ?」


 「フフン、それはpredetermi想定済みnedだ。今のライトノベルじゃ、スキル無しがかえって最強みたいに描かれることもあるだろ?」


まあそうだな。スキル無しでそのままモブに埋もれてく主人公なんて見たことないわ。


「確かにスキルなしは互換パッチがない。

 代わりに――自前のエミュレーターを走らせてるんだ。」


「エミュレーター?」


「そう。転生特典に使われなかった容量で地球OSをそのまま異世界上で|run virtually《仮想的に動かす》んだ。

 効率は悪いし処理落ちもするが、外部コードに依存しないから、その世界OSとは違った動作しても処理される。その世界の神も手を出せない最強の領域だ。

 ――もっとも、処理できる範囲は元の地球OSの法則内に限られるけどな。」


「……ってことは、よくある知識チートとか科学チートって、そのエミュのおかげってことか?」


「Obviousl(もちろん)y. 異世界なんてnatural la(物理法則)wが同じわけないのに、こっちの知識や科学が通用してるんだ。それが何よりのproof(証拠)さ。こっちのSFには、異世界でチートしようとしてもマッチが付かなかった――なんて作品もあるんだからな?」


 ……まあ確かに。精霊が管理してる世界で、空気の対流や炎色反応が起こるのは不自然すぎるもんな。


「……ってことは、エミュ型は地球OSを丸ごと持ち込んでるわけだよな。

 だとすると、異世界の神がどんなに定義をいじっても影響ないってことか?」


Exactly(そのとおり)!互換パッチ型やβテスト型は世界OSに依存する不安定な存在だ。神がOSを弄ればそれに影響される。

 でもエミュレーター型は独立環境で動く。外にも中にも依存しないから、どんなにOSを弄られても影響を受けない。昔から無効化能力が最強扱いされるのと同じくらいにチートだろ!」


「……地味だけどハマると強いってやつだな。」


よくもまあここまでこじつけられるものだ。一回頭の中見て……やめよ。正気度が減る。1D50 くらい。


Exactly(そのとおり)。だがどのタイプだとしても問題があると思うんだ。」


「問題ってなんだよ。その世界で生存できりゃ問題ないだろ?」


「まず異世界型は生存できてるのが問題なんだよ。パッチにしろエミュにしろ、本来は対応外のものを無理やりその世界で動かしてるんだ。グリッチ起こしてるチートなんてその最たるものだ。

ということはだ、どっちにしろその世界で処理しきれないことになったら、世界OSごとフリーズやクラッシュしてもおかしくないんだ。」


「そういえばお前、前に帰還者の火の玉1発で世界が滅ぶとか言ってたよな」


「理論的には同じことだ。俺らの世界ではエントロピー。異世界ならworld’s rul(その世界の法則)es.どんなに小さくても異物は世界を崩壊させるのに十分なんだよ」


最新のスパコンも埃一つでぶっ壊れる そんな話を思い出した。


「そしてβテスト型。動作としては全てを把握してるはずの神がテストをしなきゃいけないってことはだ。その世界に今の処理外のadditional defin(新しい定義)itionを持ち込んだってことだろ。」


「まあ、そうかな」


「てことは当然unintended be(予想外の挙動)haviorが起こりえる。故にフリーズやクラッシュの可能性は常に付きまとうんだ。……あ、一応補足しとくと、『処理外の新しい定義』ってのは『神が知らない』って意味じゃないぞ。

神の側では全パターンの展開も因果関係も把握済みだけど、その時点で世界OSに『実装されてない定義』ってだけだ。

言ってみりゃ、仕様書には載ってるけど、まだコードが組まれてない状態だな。」


ん、それおかしくないか?


「ちょっと待て。神は全知全能の設定だろ? なんで新たなものが必要なんだよ?」


「いい質問だ。だがな、全知ってのは『all-kn(すべてを)owing(知っている)』ってだけで、『decides everyt(すべてを決めている)hing』って意味じゃない。

 神がすべての可能性をシミュレートしていたとしても――そのうちどれを選ぶか、どの分岐が現実にふさわしいかは、実行してみなきゃわからないって前提がある」


「シミュレーションじゃ足りないのか?」


「完璧な『予測』と、現実にそれが『起きる』ことの間には、ノイズや揺らぎがある。

 神ですら予測だけで世界を固定するのはリスクがあるってわけだ。

 だからβテスト型のスキルは、神が想定内の動作であっても、現実世界に実装したときの環境影響や法則への負荷を観測してるんだよ」


「……なんか神っていうより、高性能な監視型AIっぽくなってきたな」


でもそれも最近のライトノベルにはよくあることだよな……日本人の頭の中ってどうなってんだ。集合知が趣味分野で全力発揮されてるじゃねえか。


「んじゃチートはどれもこれも危険ってことに……チートって表現はクリティカルだったってことか?」


「that's righ(そのとおり)t! どう言いつくろっても、チートは全部、崩壊の可能性を秘めた動作なんだよ。日本人の表現力ってどうなってるんだ?」


本来のチートの意味とも合ってやがる。


「……でもそんな小説見たことないぞ? チートで世界崩壊とか、あったら話にならないじゃん。」


「そりゃそうだ。崩壊したら物語そのものが残らない。

 俺たちが読んでる異世界物語は、世界OSが耐えられた数少ない事例の記録にすぎないんだ。」


「……待て。それってつまり――崩壊した方の世界は?」


「cease to exi(無かったことになる)st.

 システムがクラッシュすればログも消える。誰も語れない。

 残るのはクラッシュしなかったラインだけだ。」


「……なるほどな。けどそれ、あくまで異世界ラノベの設定遊びだろ?」


For now.(いまのところは)だけど、そう言い切れるか?

 量子と相対論の矛盾とか、未解決問題とか――

 あれ全部、持ち込まれたチートのグリッチだったとしたら?」


証明できないのが証明ってお前それは反則だろ。


「……そんなことあるかい。」


「Ha-ha! そう思うだろ? でも考えてみろよカズ。

 かつてはニュートン力学で世界は完全に説明できると信じられてたんだ。

 けど今は相対論と量子力学が登場して、その完全な説明はあっさり書き換えられた。」


「……それは、ただ学問が進んだだけじゃ?」


「Exactly! 進んだって言い方はできる。

 でも裏返せば、俺たちが当たり前と思ってた法則は――

 上位OSから見ればただの旧バージョンだった、ってことかもしれないだろ?」


「……だれもそんなの証明できないだろが。」


でも――もし、証明できたとしたら? 

そんな仮定、意味ないとわかっていても、

一瞬だけ、世界がひやりと揺れる感覚がした。


「ま、そりゃそうだ。 あ、そろそろ午後の講義だから切るわ。」


「ちょっと待てお前、それでつき合わせやがったな!?」


「See-ya!」


 ――プツッ。


 通話が切れて、静かな部屋に俺ひとり。

 チートって……みんな努力の結果だろ。

 そう呟きながらWebニュースを斜め読みする。


 二刀流で世界を驚かせる野球選手。

 将棋界を席巻する竜王。

 歴史を振り返れば、白い死神と呼ばれた狙撃兵やメンロパークの魔術師と呼ばれた発明王。


 ……現実にも、規格外の存在はずっと現れてきた。

 じゃあ、この世界がまだ壊れてないのは――ただ運がよかっただけなのか。

……それとも、世界はもう壊れていて。

スキル無しのエミュレーター内で動いているだけなのか。

そのエミュレータ―内で俺たちが、かつての記憶と法則だけを頼りに、

世界のつづきと信じて動かしている――

そうだとしたら、今の現実は、いったい誰のものなんだろうな。


もしかして――

あの有名な「われ思う、ゆえにわれあり」ってやつも、

五分前仮説も。

スキル無しのエミュレーターが世界崩壊後に自分を再起動した、

ただのログなのかもしれない。


この世界がたった今生成されたものだとしても、

俺たちにはそれを証明する手段がない。

動いているという結果だけが、唯一の存在証明――

なら、今この瞬間を仮想的に再構成してるのが、

どこかのスキル無しのエミュレーターだとしても、おかしくはない……のか?


……まさか、ね。

異世界転生系はそろそろ終わりにしようかな。


もし少しでも楽しんでいただけたらご評価・感想いただけると次をでっちあげるモチベーションになりますのでよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ