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第63話 白との戦い 1

 人形たちが動いた。

 白流の手の先で光が弾けるとともに、すべての人形の手に光の球が現れて細長く伸び、魔術師の杖、あるいは(つるぎ)や斧や槍を形づくった。人形たちは一斉に武器をかまえ、願いの木のもとの静湖(しずみ)たちに詰めよった。


 だが静湖たちが人形の動きに気を取られた隙に、白流はこちらに走りより、ふわりと静湖の体を両腕に抱きあげ、たん、と地を蹴った。気づけば静湖は、白流の腕の中で宙に浮いていた。白流は人形の頭を二つ三つ踏んで跳び、夜空へ舞いあがる。


「なにをするの……!」


 もがこうとするが、体の自由がきかない。

 白流は静湖に顔を寄せ、優しく語りかける。


「二人で永遠(とわ)の王国を創りにいこう、青流。そのためにはあの〈流の炉〉だって役にたつんだから」


 静湖ははっと口をつぐみ、白流の狙いを見極めんとする。このまま〈流の炉〉に静湖を連れ去ろうというのだろうか?


 人形たちは結良(ゆうら)(じゅん)に襲いかかっていた。わっと雪崩うった人形の中に二人の姿は見えなくなり、静湖は息を呑む。が、折り重なった人形のはざまに結良のものらしき魔法陣が浮かびあがり、灰色の天狼が上に飛びだした。


「准!」


 静湖は安堵の声をあげる。天狼となった准は、静湖を抱えた白流を追ってくる。白流は悠々と宙を蹴って上空へ渡りながら、静湖にゆがんだ笑みを向けた。


「青流、君ってやつは。御影の次はあの狼かい? 僕というものがありながら」

「な、なにを言うの」


 静湖は返す言葉に困る。白流は出会ったときからずっと、一方的に親愛の感情を向けてくる。それはきっと静湖本人を見ているものではなく……。


 そのとき、准が俊足で飛びかかり、白流はひらりと斜め上へ避けた。


 が、先には炎が渦巻き、白流と静湖をからめとった。

 炎は不思議と柔らかい温もりを静湖に感じさせた。と思ううちに静湖の体は、炎の向こうからせまった何者かに、ごう、という風とともにさらわれていた。


 何者かは風そのものだった。いや、風はやがて静湖を乗せて実体を現す。(くう)を翔ける天狼の准、その背にまたがった(あかり)が、静湖を捕まえていた。


「准! 灯!」

〝しず! 大丈夫?〟

「私の炎だ、大丈夫に決まっている。さて──反撃開始といくか」


 灯は静湖をしっかりと准の背に座らせると、ふっと姿を消した。かと思うと、風雲のような流れになって紅蓮の龍が吹き荒れ、力強い紅の音楽が響いた。


 ちっ、と舌打ちを残し、白流も夜にまぎれるようにかき消える。


 静湖だけが准の背に残され、上空から場を見おろした。


 地上の広場では、願いの木のもとに魔術の防壁が光っていた。結良のものだろう。それを取り囲んだ人形たちが武器を振りあげ、叩いたり魔法を放ったりしていた。たくさんの人形がうしろにひかえ、広場を埋めつくしている。結良は孤軍奮闘だが、今は地上に降りることはできそうにない。


 その上空では願いの木を取りまくように、赤き流れと白の流れが、からまっては弾きあい、戦いはじめた。


 ──〈赤流(アカル)〉と〈白流(シロル)〉の戦いだった。


 暖と寒。炎と雪。轟と響。両者の音楽が入り乱れながら、だんだんにひとつの曲となっていく。〈赤流〉と〈白流〉の決闘という未知なる交響曲に。


 と、赤き流れがはっきりと龍の姿をとって螺旋状に舞いあがり、白の流れをしめあげて、炎の柱に閉じこめた。


〝灯さん、やった!〟


 准が歓声をあげる。


 その直後、炎の柱が白くきらめきながら一瞬で凍りつき、砕け散った。氷の破片が刃となって八方へ飛散する。慌てていくつかの破片を避けた准が、遅れて飛来した小さな氷片に前足をざくりと裂かれる。氷片は静湖の頬や肩をもかすめていく。


「准!」


 静湖は頬や肩から血がにじむのもかまわず、准の首に抱きつく。前足の傷は深く、准はふらつきながら高度をさげていく。


 世の終焉を思わせる凄まじい音楽が(とどろ)いた。


 はっと顔をあげれば、凍りついた柱のあった場所で、純白の輝きが弾けた。禍々しいほど澄んだ白が(ひらめ)く。光に弾かれ、人影が吹きとばされていく。〈(ヒト)〉の姿の灯だった。


「灯!」


 静湖が叫ぶと、准は前足から血をしたたらせながらも斜めに天を走り、灯に追いついた。静湖は無我夢中で灯を抱きしめ、なんとか准の背に引きとめる。灯はすべての気力を失ったようにぐったりと目を閉じていた。


「赤流、〈反転〉の力はどうだい!」


 宙空に〈人〉に戻った白流が浮かびたち、言い放った。凄絶な笑みには、白流もまた余裕をなくしていることがうかがえた。


「〈流〉である君が〈反転〉すれば、〈人〉の姿に甘んじるしかなくなるはずさ──もはやなにもできないってわけ。ついでに!」


 白流は禍々しい純白の光の柱を、願いの木のもとへ(いかずち)のように落とした。

 結良のいた場所が、周囲の人形ごと白い柱に包まれ、やがてなにもなくなった。


「結良さん!」


 静湖は悲鳴をあげ、白流をきっ、とにらんだ。准は危うい足取りながらも、警戒したまなざしで白流と対峙する。静湖の腕の中の灯は意識がない。そんな二者には目もくれず、白流は静湖をじっと見すえ、悲しげに笑った。


「師匠も〈反転〉してもらったよ、本当はもっと反省してほしかったけど仕方ない。ねぇ青流、敵はいなくなった。敵なんていない。僕たちが戦う理由はない」

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