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2.プリンとマヨネーズ②


(あぁもう!土足で厨房入んなや!)


 プリンを食べ終えた騎士たちは、演習へと戻っていった。「プリンのお礼に演習見にいくか!?」と騎士達に誘われ、マリアはここにはいない。


 で、残された私は、やりっぱなしで放っておかれてる調理器具を水に漬け込みつつ、土で汚れた床を磨いてるところだった。


 異世界だけあって、ここの衛生観念はかなりガバガバだ。厨房の人間だって外履きと内履きの概念はなかったし、みんな思い思いの靴で厨房に入ってくる。

 だがそれしても、だ。

 屋外で演習に励んでいる騎士達の靴はそれはそれはきったない。

 おかげで厨房の床は土や泥まみれだ。


(あぁもう!)


 ほっときゃ良い話なのだが、現実世界での癖が抜けずに床を綺麗に磨いてしまう。

 掃除できねぇやつに料理上手はいねぇぞ、とまだひよっこだった私に教えを説いた、ヤクザみたいなツラした、ハゲの凄腕料理人の言葉を思い出しながら、ガシガシと床を磨いていく。


 どうせ掃除したところで、また汚れるだけではあるが……それでも、出来る限り厨房は綺麗にしておきたかったのだ。


「失礼する!ここに騎士たちは来なかったか!」


 と、厨房の入り口から声がかかった。

 なんだなんだと見にいくと、そこに立っていたのは、ヴォルフ・フォン・マイヤー騎士団長だった。

 整えられた短い黒い髪に、190ぐらいありそうな長身。目は私みたいな牛肉色の赤。年齢は30ぐらい。

 身長が160しかない私は、いっつも彼を見上げる形になっていた。


「来ましたよ。さっきまでマリアの新作を食べていましたが、今は食べ終わって、マリアと共に演習に戻っています」

「なぜマリア嬢まで演習に?」

「美味しい新作のお礼に、演習を見てくれ!らしいです。あ、団長様の分の新作も作ってましたよ」


 食べますか?と聞くと、少し悩んだ素振りを見せてから、首を横に振った。


「いや、私は別に……」


 苦虫を噛み潰したヴォルフ騎士団長とは、実はそれなりの付き合いがあった。


 なぜかといえば、マリアが現実世界の料理を振る舞いだしてから、騎士たちが職務を放棄して、マリアの料理をこっそり食べ出したからに他ならない。

 なんかこう、『秘密ですからこっそりおいでなさってくださいね』と、マリアは言っているらしい、が、夜中とかならまだしも、まだ陽の高いうちは騎士達だって騎士としての仕事があるのだ。


 秘密もクソもなく、職務放棄して食べに来なければ良いだけの話なのだが、マリアはおかまいなしに騎士を誘うし、騎士はそんなマリアに恐ろしいぐらい従順だったのだ。


(馬鹿じゃねぇの)


 とは、割と最初のうちから思ってはいた。 

 だがここは、マリアが主役のマリアのための世界。誰も咎めることをせず、多分そのうち皇太子とかも食べに来るんだろうな一ーと思っていたら、皇太子より先に、騎士団長が厨房にやってきた。


(あーはいはい。確かに順番的には騎士団長が先だよねぇ)


 そう、ヴォルフ騎士団長と初めて顔を合わせたのはマヨネーズの一件のときだった。

 あのときも確か、『素晴らしい料理人がいるとみんなに教えないと!』みたいな感じで、マリアは騎士と共にどっか行っていた。

 で、しばらくして、


「失礼する!ここに騎士団の人間は来なかったか!?」


 と、ヴォルフ騎士団長がやってきたわけだ。

 マヨネーズのときも、マリアの後始末を私がやらされていたから、床をごしごし磨いていた、デッキブラシ片手の私が対応したのだ。


「来てましたけど、マリアと一緒にどこか行きましたよ」

「……マリア?」

「あれ?ご存知ありません?誰も考えたこともない新作料理をぽんぽん作ってる、私と同い年くらいの、桃色の髪した可愛い女の子です」

「……あぁ、そいつが噂のマリアか。それで、そのマリアとうちの騎士どもはどこへ?」

「わかりません。マリアの素晴らしさを紹介しないとー!とか叫んでましたが、どこに行ったかまでは……」 

「そうか。ありがとう。迷惑をかけたな。ところで君は?」

「私ですか?厨房で下っ端やってるユーリです」

「そうか、覚えておこう。この調子だと、今後も君の世話になるかもしれないからな」

「はぁ……」


 ヴォルフ騎士団長の予言は当たり、それからマリアが新作を作るたびに、

 騎士達が演習すっぽかしてマリアの新作食べに来る→ヴォルフ騎士団長がそれを追っかけにやってくる、というサイクルができてしまったのだ。


 

 というわけで、今日もいつものような会話を交わしているというわけだ。

 ヴォルフ騎士団長は疲れ切ったようにため息をついて、頭を抱えていた。


「……すまないな、ユーリ。君がそうして床を磨いているのも、うちの野郎どもが床を土まみれにしたからだろう?」

「え、どうしてわかるんです?」

「だって私がこうして厨房に顔を出すたび、君は必ず床を磨いているじゃないか」

「まぁ確かにそうですね」

「厨房は料理人の聖域のはずだからな。私はあくまで騎士ではあるが、知らん人間に職場を踏み荒された後、そうして掃除に精を出したく気持ちはよーくわかる」


 まぁそうですね。

 特に厨房は、衛生的な面でも、騎士がどかどか入って良い場所ではありませんからね。


 否定も肯定もせず黙っていると、そういえばヴォルフ騎士団長は、絶対厨房には入ってこず、いつだって厨房の入り口、かろうじて土足が許されるエリアから声をかけていたな、ということに気が付いた。


「あぁ、だからヴォルフ騎士団長はいつもそこから声をかけてくれるんですね」

「その通りだ。知らん職務の領域に勝手に入るわけにはいかないからな。それぐらいの分別はついている」


 ちょっと胸がきゅんとした。なぜかって、「たかが飯炊きがwww誰でもできるってwww」と現実世界で笑われることが多かったから、騎士団長の心遣いがとても嬉しかった。


「とにもかくにも、マリアと騎士の皆さんはもう戻ってるはずです。入れ違いだったのかもしれません」

「あぁ、ありがとう。また迷惑をかけてしまったな」

「大丈夫ですよ。気にしないでください」


 こんな下っ端にまで丁寧に頭を下げながら、ヴォルフ騎士団長は走り去っていった。

 私も床磨き頑張らなきゃなぁ〜、と置いておいたデッキブラシを手にしたのだった。

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