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宙に浮かぶはUFOの如く  作者: しいらしゆう
CASE1 青白く光る物体
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1話 澤田教授の退任

 男は日の出を見るために3人の仲間と山登りをしていた。だが、22時過ぎぐらいから突然雨に降られてしまい、休憩も兼ねて木陰で足を止めていた。


「日の出までに止むといいんだけどな」


 男がそう呟く間にも、徐々に雨足は強くなっていた。町の方からは雷が落ちる音も聞こえる。かなりの豪雨だった。

 男と3人の仲間は雨が止むまでその場で待つことにした。時間にまだ余裕はあるし、予報を見ても長く降り続ける雨じゃないことはわかっていた。雨が止んでから頂上を目指せば良い、そう考えていた。ちょうどその時だった。


「おい、なんだあれ……」


 真っ暗な夜空に浮かぶ、青白く光る球のようなものを見つけた。それはまるで生きているかのように空を自由に動き回っていた。男は自分の目を何度も擦ったが、青い光を発する物体が視界から消えることはなく、むしろその物体は、男の方に少しずつ近づいていた。


「お、おい逃げろ!UFOだ!逃げろ!」

 

 未確認飛行物体、UFO。男は青白く光るその物体をそう認識した。男たちはその後、パニックになりながら下山したが、青白い光る物体が結局どうなったかは、誰も知らなかった。


………………………………………………



 俺、増田智樹(ますだともき)は昔から飛行機が大好きだった。幼稚園の頃は用もないのに空港に連れて行ってもらって、離着陸する飛行機を展望台から一日中見ていた。部屋には飛行機のフィギュアをたくさん飾って、暇になればそれで遊んでいた。俺の幼少期はそんな具合だった。

 少し大きくなって小学生の高学年の頃には、自由帳に飛行機の設計図を書いたりしていた。ここにはこんな大きなエンジンをつけて、翼はこうやって伸ばして……。自分が作った飛行機が空を飛んでいる様子を想像しながら、夢中でノートを埋めていたものだ。

 中学生になって高校受験が近づいていた頃、「自分の作った飛行機を空に飛ばしたい」ということが自分の夢だということをはっきり自覚した。そしてそれには勉強が必要なことを知ると、頭の良い高校に入るために猛勉強を始めた。勉強の筋は案外良くて、志望する高校に入ることができた。

 高校に入ってからも俺の夢は変わらなかった。勉学に励み、高校2年生の頃にはすでに大学の志望校も決めていた。東京帝国大学の工学部、航空宇宙工学科。この分野で最も有名な教授・澤田先生が在籍していて、全国から優秀な学生が集まる場所だ。合格するのは至難の技だが、ここなら俺の夢を実現できる、そう確信していた。

 俺は運が良かった。過去問にはかなり苦戦していたが、本番の問題とは相性が良く、現役で東京帝国大学工学部航空宇宙工学科に入学することができた。

 そこは夢のような場所だった。志を同じくする仲間と共に、最先端の知識や技術に触れる毎日は本当に刺激的だった。俺が幼少期から目指していたものは全てここにあった。勉強をしているという感覚はなく、自分の好きなものを極めているような感覚に近かった。

 4年生に上がるタイミングで、学生は全員どこかの研究室に配属される。俺は成績が特にいい方ではなく、第一志望だった澤田先生の研究室・航空システム工学研究室に配属されることは叶わなかった。澤田先生のもとで学ぶのが目標だったから、悔しくて悔しくて仕方がなかった。

 だが、まだチャンスは残されていた。大学院入試をして大学院生になるタイミングで、他の研究室に移ることができるのだ。難易度は高いが、澤田研に入れるのならいくらでも努力はできた。澤田先生のもとで、自分の飛行機を作り出したかった。

 そんな心境で迎えた大学院入試を無事乗り越え、俺は修士1年生から澤田研に配属されることになった。少し遠回りすることにはなったが、澤田先生のもとで研究ができると思うと俺は嬉しくて仕方がなかった。幼稚園の頃から大好きだった飛行機を、自分で飛ばせるようになるかもしれない、そんな期待は日に日に高まっていくばかりだった。


 そのつもりだった。あの男が、俺の目の前に現れるまでは……。


「いや本当におめでとう!来年から一緒に頑張ろうな、増田」

 

 時は大学4年の3月まで遡る。来月から修士1年生になって澤田研に配属されるという時に、大学の同期で親友の川端が俺を飲みに誘ってくれた。彼は4年から澤田研に所属している、いわば超エリートだ。


「なあ川端。卒論はどんなテーマで書いたんだ?」

「えっとね、まあ簡単に言うと超音速旅客機の主翼の設計についてかな。モデルを使って実験しながら、騒音とかの問題をどうクリアするのかっていう、まあそういう感じ」


 澤田研の研究テーマは本当に面白い。川端の研究の話を肴に、ビールを胃に流し込んだ。

 

「うわ、面白そうだなぁ。来年から俺もそういうのやれるって思ったらワクワクして仕方ないよ」

「……」

「うん?川端?どうかした?」


 この日川端が俺を誘ってくれたのは、来年から一緒に澤田先生のもとで頑張ろうみたいな、そういう決起集会のようなものだと思っていた。が、川端の意図は全く違っていたということに、この後の彼の話を聞いて俺は気付かされた。


「実はな増田、お前に言わなきゃならないことがあって、今日誘ったんだ」

「え?」

「最近、研究室の中で噂になってんだ。澤田先生が大学を辞めるかもしれない、ってな」

「え?ちょ、ちょっと待ってくれ。ど、どういうことだ」


 澤田先生が大学を辞める。川端のその言葉が脳にこびりついて離れなかった。澤田先生のもとで学びたいと高校の頃から願っていて、ようやくその夢が叶う、その直前だったのだ。あれだけ努力して大学に入って、大学院入試でようやく澤田研に配属が決まって、その矢先だった。


「落ち着け増田、ただの噂だ。まだ澤田先生本人は何も言っていない」

「うん、そうだと良いけど……。でもなんでそんな噂が?」

「最近、大学と色々揉めているらしい。研究費のこととかで、色々」

「な、なるほど」

「まああくまで噂だ。来月から新年度だって言うのに、このタイミングで突然辞めますってのは流石にないだろう」


 川端はそう言っていた。が、この次の週には大学から連絡が来て、澤田先生が今月いっぱいで大学を離れることが公にされた。それと同時に、4月からは新しい教授が澤田研に赴任してきて、澤田先生の跡を継ぐことも発表された。

 川端にあらかじめ話を聞いていたから、大学からの連絡も落ち着いて受け止めることができた。次の教授もきっと優秀な人だろうから、その先生のもとで学べることを楽しむしかない、そう自分に言い聞かせていた。先生が誰であろうと、大好きな飛行機の設計を学べるなら誰でも良い、そう思うことにしていた。

 だが、肝心の新任の教授がなかなか決まらなかった。澤田先生の退任があまりに急であったこと、澤田研は東京帝国大学の看板とも言える研究室で、後任の先生に過剰なプレッシャーがかかっていることなどが理由として考えられた。研究室の学生はみんな、ひどく戸惑っていた。

 新任の教授が決まった、大学からそう連絡があったのは5月になってからだった。これから少なくとも2年間、お世話になる先生だ。澤田先生ではないにしても、期待が全くないわけじゃなかった。

 だからこそ、赴任してきた教授があんな男だと知った時、俺は心底失望することになる。

小説を読んでいただいてありがとうございます!!


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