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私は攻略させません!  作者: あずま青春
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第4話 脱チョロインを目指します!

週末を挟んで、月曜日がやって来ました。


相変わらず私が藤井レナに転生した理由は分かりませんが、四月十八日、今日も平和な時間が流れています。そう、少なくともお昼ご飯の時間までは平和でした……。


「本当にもうっ。けしからんっ」


「きゃあっ」


なぜこうなったのでしょう⁉


ユイちゃんの手が、私の胸をがっちりホールドしています。ゆさゆさと上下に揺らして、ふにふにと感触を確かめるように指で押して、もみもみと揉みしだき始めて……。


「なっ何をするのですかぁっ!」


「レナの胸ってふわふわだよね。気持ちいい」


「やめてください! ここ、学校ですよ⁉ こんなところ見られたら……」


「ほーう?」


ユイちゃんの目が妖しく光りました。


「それはレナの家でなら、このたわわを、心置きなく好き勝手にいじくりまわしてもいいということなのかな?」


「そっそういうことではありませんがぁっ!」


ユイちゃん、悪ふざけしすぎです!


普通の会話をしていたはずなのに、急に私の胸がうらやましいと言い出して……所構わずもみもみと……こんなところ誰かに見られたら、恥ずかしすぎて死んじゃう……。


「あぁ、このふわふわに埋まりたい」


「変態ですか!」


と、廊下の奥に誰かの姿が見えました。


やっやばいのです!


「ユイちゃん、誰か来ました! ストップです!」


「いいじゃない。こんなに立派なものなんだから、見せつけてやろうじゃない」


「ひゃあっ」


ひどいです。私は見せつけたくなんてないのに……。


「……あっ」


顔を上げると、こちらに向かって歩いてくるハルヒロくんが見えました。


そういえば、そうです。ゲームでもこんなシーンがありました。


藤井レナが友人に胸を揉みしだかれているところを目撃し、その後にどのような行動をするかで、キャラの好感度が変化するのです。


すっかり忘れていました……うぅ、恥ずかしい……。


「やべぇ。レナ様のたわわマジでたわわずぎ。ぷるんぷるん揺れてプリンかっつーの。マジやべぇ。こんなの視界の暴力……いやご褒美か? 破壊力マジぱねぇ」


あれ、ハルヒロくんが何かぼそぼそ呟いています。


純朴な彼らしくない言葉が、彼の口から発せられているような……空耳でしょうか?


「こんにちは、先輩。何しているんですか?」


あ、いつものハルヒロくんに戻って、話しかけてきました。


無視してくれないのですね……無視して通り過ぎると、その先でモモちゃんと出会い、彼女の好感度を上げるための会話ができるのですが……。


まさか私のルートを狙っている⁉


いえいえ、ここで話しかける選択をしたからと言って、攻略対象が私だと確定したわけではありません。モモちゃんと藤井レナを天秤に乗せたら、藤井レナのほうに傾いたというだけで……きっとそうでしょう。


是非ともここは無視して欲しかったのですが……はうぅ。


羞恥心で死んでしまいそうです。


「この人、レナの知り合い?」


私の胸を揉みながら、ユイちゃんが不思議そうに聞いてきました。


「そうですよ。TSK部の後輩……部長さんです」


「あぁ。この人が例の」


ユイちゃんが納得したような声を出して、私の胸を揺らしました。


あの、そろそろ不埒なその手を、離していただけませんか……?


友達の胸を揉みながら異性と話すって、正気の行いじゃありませんよ?


「例のって……俺、何か悪い噂でもあるんですか?」


ハルヒロくんが、私の胸元を凝視しながら尋ねました。


見ないでください……。


「いんや、そういうわけじゃないけど」


あ、ようやく胸が解放されました。やれやれです。


それにしても、ハルヒロくんからの視線が痛いので、ユイちゃんの後ろに隠れさせてもらいましょう。あまりにもぶしつけに見られると、居心地が悪いのです。


「レナを奉仕部から引き抜いたの、君なんだ」


「いや、先輩をTSK部に連れて来たのは、俺じゃなくて松岡さんですけど……まぁ、引き抜いたのは事実ですね。藤井先輩にもいつもお世話になっています」


「ふーん。言っとくけど、レナを泣かせたらタダじゃおかないから」


あれ? ……なぜでしょう?


ユイちゃんが、ゲームとは違うことを口にしています。


ここは面食いのユイちゃんが『悪くはないけど、よくもない。まぁまぁの男ね』と主人公の顔面偏差値を評価するところなのですが……。


どうしたのでしょう?


それに、先ほどから険悪な雰囲気といいますか、二人の間の空気がちょっと、ピリピリしているような気がします。どうして?


「先輩のこと泣かせたりしませんよ」


「あっそ。ならいいけど。万が一のことがあったら、あんたの股にぶら下がっているソレ、再起不能にするから。覚悟しておきなさいよ」


「ユ、ユイちゃん!」


なんてことを……!

こんな会話、ゲームでは絶対になかったのです!


どうしちゃったのですか⁉ 


ユイちゃんらしい物言いではありますが、ちょっと物騒です。


ハルヒロくんの顔が露骨に引きつっています。


「レナ、行くよ」


「あ、ユイちゃん!」


ユイちゃんが私の手を引いて、速足で歩き出しました。


強引です。少し怒っているようです。


変ですね……藤井レナのルートで、主人公が彼女に告白するための手伝いをする、それが菊池ユイです。サブキャラである彼女の、主人公への好感度は一定で、悪化するはずがないのですが……。


おかしいです。


私という異分子が存在しているから?


ゲームの通りには、ならないのでしょうか?


「ユイちゃん、走らないでください! 急にどうしたのですか?」


「どうもこうないでしょ!」


理解が追いつかなくて尋ねると、ユイちゃんが強い口調でそう言いました。


ちょっと怖いです。私、今、怒られている?

もしかしてユイちゃんは、私に怒っているのでしょうか……?


「ごっごめんなさい! 私、何かしましたか……?」


「はぁ~⁉ 気づいていないわけ⁉」


「ごめんさい! 私、鈍いみたいで……」


「あり得ない!」


そう叫んで、ユイちゃんが立ち止まりました。


振り向いた彼女は、鬼のように険しい顔をしています。


どんな罵声を浴びせられるのでしょう。ビクビクしていると、彼女は私の肩をガシッと力強くつかんで、真剣な眼差しで口を開きました。


「あり得ない! あの野郎、レナの体をじろじろいやらしい目で眺めて……あんなんで部活は大丈夫なの⁉ 奉仕部に戻ったほうがいいんじゃないの⁉」


「……はい?」


急に何を……?


青天の霹靂といいますか、そういう理由で怒っていたとは思わず、びっくりです。


ユイちゃんは、私を心配して険しい顔になっていたのですね。


それにしても……奉仕部に戻る?


えぇ、まぁ、確かに、藤井レナが奉仕部をやめて、TSK部に入ったのは、部活を立ち上げるために必要な人数……他の部と兼部していない三名を含んだ、五名以上の部員を集められなくて困っていた、松岡アイの頼みを引き受けたからです。


梅原モモが入部したことによって、現在のTSK部には兼部していない部員が四名、兼部している部員が二名、うち一人は名前だけ貸している幽霊部員ですが、藤井レナがいなくても、TSK部は存続できる状態になっています。


なので、藤井レナには、奉仕部に戻るという選択肢もありますが……しかしそれは、まずいと思うのです。藤井レナがTSK部からいなくなれば、ゲームのシナリオが大きく狂います。その結果、どうなるのかは誰にも分かりません。私はそれが怖いのです。


それに、ユイちゃんは少し心配しすぎです。


ハルヒロくんにじろじろと胸元を見られて、確かに私は嫌な思いをしましたが……それでも、視姦されただけなのです。私の胸を見てくる人は、どこにでもいます。


藤井レナの記憶によると、TSK部を立ち上げた頃のハルヒロくんは、優しくて、親切で、人が嫌がると分かっていることをするような人ではありませんでした。


最近の彼が、少しおかしいだけです。


「大丈夫ですよ。一斉部会の日から、少し様子がおかしい時があるだけで……ハルヒロくん、本当は優しい紳士的な人なのです」


「ねぇレナ」


ユイちゃんが、不意に眉を吊り上げました。


「それ、本気で言ってんの?」


「……はい?」


どういう意味でしょう?


本気でないわけがないのですが……。


理解できなくて瞬きしていると、ユイちゃんがはぁと大きなため息をつきました。


「なんかさぁ、夫にDV受けていた妻が、でも本当はいい人なんです……って言い訳するような気配を感じたから。違うならいいけど、でも、嫌なことはちゃんと嫌って言わなきゃダメだよ。ただでさえレナは流されやすいんだから」


流されやすい……それは確かに、その通りです。


藤井レナはそういうキャラでした。底抜けに優しく、頼まれたことを断れない。


ですが私は、藤井レナであって、藤井レナではないのです。

本当に嫌なことは、ちゃんと拒否できます。


ユイちゃんの心配は杞憂なのです!


「大丈夫です。私、もう流されませんから」


「ほんとにぃ? 私に胸揉まれて、抵抗しなかった人の言葉は信用できないなぁ」


「うっ……。そっそれは、相手がユイちゃんだったからで……」


「私になら、何されてもいいの?」


「そういうわけでは……こっこれからは、ユイちゃんにも『ダメ』や『嫌』を言えるように頑張ります」


「頑張りたまえ」


ユイちゃんがにこっと妖しく笑って、私の胸にタッチしてきました。


ハイタッチならぬパイタッチ……うぅ。


「こっこういうこともダメです、今後は禁止します!」


「えぇ?」


途端に、ユイちゃんが悲しそうな顔をしました。


「これは挨拶でしょ、コミュニケーション。私、レナとコミュっちゃダメなの?」


そう言われると……いえ……。


「ダメではないですが……」


「ほら、すぐまた流される」


「うぅ……」


拒否するって難しいですね……。


ユイちゃんが、励ますように私の肩を叩きました。


「道のりは長いねぇ」


「善処します……」


脱チョロインを目指して、これから頑張ろうと思います。

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