帰り道で待っている物怪達は
みえているのはボクだけ。みんなにはみえないものだった。
『カエロウ。カエロウ。コッチニ、カエロウ、ネ?』
人気の無い木々の間、買い物袋を持った子どもの手に何かが触れる。
夕日は木々に阻まれ届かない。薄闇は人に不安と恐怖を与え、存在しない何かを見せる事がある。
『ネ、アッチアッチ。オイシーゴハン、アル。
オカシ、タベヨ。アッタカイフトン、オモチャ、アルカラネ。
僕達の所へ帰ろう。』
だが、存在しないものは子どもの持つ重い缶が入った袋を持ち上げはしない。
買い物袋の持ち手が小さな子どもの頭より高い位置に浮き上がり、子どもを木々の間に引き入れようとしているようにも見える。
『こっちの方が楽しいよ。苦しくない、勉強もない、毎日楽しく暮らそう、僕達と。』
端からは子どもに何が起こっているのか、近くに何が居るのか、何が見えているのか解りはしない。
本人を除いて。
黒い靄の塊。それが辛うじて人の形を成し、本来口の在る部分の靄が裂けて言葉を紡ぐ。
子どもはそれをはなそうとしない。はなしてしまうとどうなるかを覚えているから。
子どもは足を止めて、俯き、いきなり駆け出した。
『アッ、待って。』
靄の裂け目からこの世のものではない声が聞こえる。地面を蹴る度体が震えて寒くなる。
ガチャガチャ荷物が音を立て、重心を揺らす。
『待って、待ってよ。もう少しだけ、もう少しだけ…………!』
子どもが特徴的な朱塗りの門を抜けると、それの声は響かなくなった。
振り返ると、そこには家の外を動き回る黒い靄が居た。
『………………、………………!』
靄の裂け目が現れては消える。しかし、もう声は届かない。
『そっちじゃない、帰り道はこっち!』
そう言った怪異の声は響かない。
翌日も子どもは買い物袋を持って出掛ける。
この世ならざるものは居ない。
買い物を終えて、昨日よりも早く帰り道に辿り着くと……居た。
昨日とは違う、しかし矢張り黒い靄に包まれたそれ。
『カエルノワコチラダ。』
子どもの5倍はある巨体。しかし、それを見ているのは、見えているのは子どもだけ。
『コチラニクルノダ。ワルイヨウニワシナイ。さぁ、手を取って。』
大きな大きな手がおいでおいでと動く。それを見た子どもは一瞬だけ止まり、そして大きな手とは逆方向へ駆け出してしまった。
次の日も矢張り昨日と同じように出掛ける。
『サ、サ、サ、コッチニハヤク。コッチニコッチニスグスグスグコイコイコイ。こっちに来い。』
今度は滑稽な踊りを踊って近寄る黒い靄。人がやったのならば可笑しいで済んだのかもしれないが、物の怪の類がそれをやっている様を見ても恐ろしいだけだ。
子どもはやはり家に帰ってしまった。
『『『こっちに来てくれない!』』』
子どもの家の近くの森の中、三つの怪異が頭を抱えていた。
人から見た姿は黒い靄。喋り方も悍ましいもの。悪意の塊。しかし本来はそうではない。
『こっちに来てほしいのに!なんで来てくれない?』
『やはり我々は怖いものとして認識されているのだろうか?』
『ないないないない。あの子は怖い時にあんな風にしないでしょ?だって……』
金切り声と悲鳴が、聞こえた。
響いてきたのは特徴的な朱塗りの門、鳥居の先の家。物怪達が入れない家から聞こえた。
毎日毎日、あの子は酒を何処かで買わされて、叫び声が聞こえて、そして家の外に追い出される。
それが毎日毎日。毎日続いている。
「こっちの方が絶対に楽しい。」
「家も食べ物も沢山用意してある。こちらの方がずっと良い。」
「なんでなんでなんでなんでなんで来ないの?」
物怪達は待ち侘びている。
鳥居のせいで家に入れない。だからせめて手を伸ばす。だが、何時になっても彼はこちらに来てくれない。
次の日は子どもが二人。何時もの子どもとその子を揶揄う子ども。
揶揄っている子どもはこの子どもが見えているのを嘘だと執拗に糾弾していた。
今度は三人がかりで襲い掛かり、何時もの子どもは逃げ出し、もう一人は寒気を感じて逃げ出してしまった。
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