ぬいぐるみに転生とかありえねーだろ!
「さあ、一緒に遊ぼうね♪」
すごくかわいい女の子が俺を抱っこしながら言ってくる。俺はもう無心になるしかなかった。なぜって?今の俺の姿がモフモフのクマのぬいぐるみだからだよ!!
なんでこんなことになった?約束が違うじゃないか!俺はここにはいない女神に向かって叫ぶ。
本当になんでこんなことになったんだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
話は一週間前にさかのぼる
【一週間前】
俺は普通の高校生だった。口が少〜しだけ悪い。クラスではあまり目立つ方ではなかったが、ラノベが大好きだ。特に異世界系がお気に入りだ!!!
この時も俺はお気に入りのラノベの最新刊を買いに本屋に行き、読むのを楽しみにしながら帰っていた。(俺の物語はここから始まった!)ちょうどその時居眠り運転をしている車が信号が変わるのを待っている女子高生たちのところに向かっていった。「危ない!」
俺は彼女たちを押しのけ身代わりとなって事故に遭ってしまった。
「う~ん、ここはどこだ?」
気が付くと俺は暗い部屋の中で立っていた。ここは病室なのか?死んだんじゃなかったのか?
「残念ながらあなたは彼女たちの身代わりに死んでしまいました」
声がした方を見るとそこには光り輝く綺麗な女性がいた。
「初めまして、私の名前はアリス。女神です。」
お~!この人が女神様かすごく優しそうな人だな
「あなたは不幸にも、亡くなってしまいました。私の力であなたを異世界に転生させましょう」
「異世界って本当にあるのか!?」
「ええ、魔法などがあり、地球とは違う発展をしています」
突然言われ、動揺したがワクワクしている。なぜかって?念願の異世界転生ができるからだ!やはり異世界転生は本当にあるんだ。これで俺も異世界無双ができる。
「あなた方の世界で言われるチートというものにもできますよ?」
「じゃあ、それでお願いします。できれば魔法メインでお願いします」
「わかりました。では魔法適正は全属性にしますね。転生先はこちらで決めさせてもらいますが、不自由しないところにしましょう」
「何から何までありがとうございます!」
「少しでも異世界を謳歌してほしいのでサービスですよ?」
いたずらっぽい笑みを浮かべながら言ってくる。なんてかわいいんだろう
見惚れていると
「それでは準備ができたので異世界に送ります。あなたのこれからの人生に幸があらんことを」
そう言い終えると同時に俺は光に包まれた
ああ、ついに俺は異世界に転生するのか・・・・・
どんな両親なんだろうか・・・・
できればかわいい幼馴染がいたらいいな
「ほ・・・・リア・・・・おた・・・おめでとう」
とぎれとぎれだが声が聞こえてくる
ついに転生したのか。目を開けるとそこには透き通るような青い瞳のお人形のようにかわいい女の子がこちらを覗いていた。このカワイイ子が俺のお姉ちゃんで俺を抱いているのが父親なんだろうか?そう思っていると、突然父親?が俺をお姉ちゃん?に渡そうとした。え、赤ちゃんでも結構重いし小さい子が持ったら危ないだろう!?大切に扱ってくれよ!そう思っていたらいつのまにかお姉ちゃんらしき女の子が俺を抱っこしていた。
「うわー!カワイイ!お父様ありがとう」
そう言いながら父親に抱き着く
あれ?そんなに俺って軽いのかな?
「喜んでもらえてよかったよ、大切に使うんだよ?では私は仕事に戻る」
そう言い放ち父親は部屋から出て行った。俺は置いていくのか?それよりも使うってどういうことなんだ?疑問に思っていたらお姉ちゃんらしき子は俺を抱いたまま鏡の前へ行く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そこには女の子が一人とその腕の中には一匹がいる。二人ではなく一人と一匹だ。なんと女の子の腕の中にはすっぽりとおさまっているモフモフそうなクマさんのぬいぐるみがある・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
え?どういうこと?これが俺?あんなにかっこよかった(自称)俺の面影が一切ない、それどころか人ですらなくなっているだと!?
一人疑問に思っていると、
『ごめんなさ~い。間違ってくまさんに転生させえしまいました』
突然頭の中に声が聞こえてくる
『一体どういうことですか!?』
俺も念じてみると通じたのか返事が来る
『人に転生させるつもりがぬいぐるみに転生させてしまったみたいです。メンゴ♪』
あれ?
『キャラ変わってません!?』
『これが素の私ですよ。先ほどは猫をかぶってただけに決まってるじゃないですか~。それよりも魔法適正は全属性にしておいたんでその姿でも問題はないはずです。異世界生活楽しんでくださいね~。それでは!』
そう言い終わると同時に通信が途絶えた
マジか・・・・・
俺は放心状態になりながらこの女の子に抱きかかえられるのだった
【現在】
ぬいぐるみとして過ごして一週間が経ち、ある程度自分の環境についてわかってきた。ここはグランブルク家という領主様の家で俺は父親からの誕生日プレゼントとして今も俺を抱きかかえている女の子、エリアリーゼ・グランブルクにあげられたようだった。悲しい・・・
ぬいぐるみ生活をして分かったことがあるが、この女の子はいつも一人でメイドもいるが会話もせず、寂しそうに過ごしている。父親も忙しそうにしており全然かまってもらえていない。本当にかわいそうだ。しかも本当の誕生日は今日で、仕事で忙しいためプレゼント(俺)を早渡ししたようだった。誕生日である今日だがもう夜になるが誰もお祝いをしていない。彼女自身もそれが当たり前かの様子だ。
【一時間後】
誰もいなくなり、俺と彼女の二人?の状況になった。彼女は唯一の父親からの誕生日プレゼントのためかずっと俺を抱いている。すると・・・・・
「どうして私はずっと一人なのかな?寂しいよ。なんで誰も私を見てくれないの?」
そう言いながら彼女は瞳に大きな涙を浮かべていた
初めて見せた彼女の本音だった。それを聞いた瞬間俺は、いつの間にか体を動かし
「大丈夫だ。今は俺がいるだろ?俺がお前を見ている」そう言い頭を撫でていた
「えっ、クマちゃんがしゃべった!どうして?」
「あ~、魔法だよ魔法。こういう魔法があるんだ。それとクマちゃんはやめてくれ」
「じゃあ、何て呼んだらいいの?」
「そうだな、・・・・・・クロだ。俺のことはクロって呼んでくれ」
「わかった、クロちゃんね」
「ちゃん付けはやめてくれよ・・・はあ、もう呼び方は何でもいい。それよりもお誕生日おめでとう。6歳になったな」
「!?」
彼女は目を開いて驚き、急に泣き始めた
「おい、どうした?どこか痛いのか?」
「違うの。初めてパパ以外に祝われてうれしかったの」
そう言いながらも泣き続けた。そんなにも、うれしかったのか…
「一週間見てきたけどお前はよく頑張ってるよ。勉強もして魔法も頑張ってるしな。それとそろそろ泣き止め。メイド達が戻ってくるだろ」
「うえ~ん。ほめてもらえたよ~」
どうやら余計に泣かせてしまったな。褒められることもされてこなかったのか・・・・・
結局その日は夜の間ずっと話していた。この世界はどこなのか。どんな生き物がいるのかなど。どんなに細かいことでも何も知らない俺にとってはありがたかった。
【翌日】
「おはよう。クロちゃん!」
「ああ、おはよう。リーゼ」
昨夜のうちにおれらは取り決めをしていた。誰もいない時なら俺に話しかけてもいいこと、俺のことは誰にも話してはいけないこと、の二つだ。俺のことがバレると面倒だからな。あとはまあ、呼び方がリーゼと呼べと言われたぐらいだ。
「さて、俺はこれからこの世界について本を読んでるから。リーゼも頑張れよ」
「うん!がんばる!」
彼女はそう言って部屋から出て行った。あの様子ならもう大丈夫だろう。
部屋には俺1人だけである。俺は目の前にある本棚から本を取る。ポフッ。まるでおままごとをしているようだがな!クソ!絶対に人間になってやる!そのためにもこの世界について知っていかないと・・・
それから月日はあっという間に過ぎ、俺が転生してから半年が経った。あの猫かぶり女神が言った通り魔法適正は全属性あったため、魔法を毎日練習した。そのおかげで今では無詠唱で発動することができるようになった。これなら、人間になるための手がかりを探しに行っていまいいかもしれない。そう思い、俺はリーゼの元から帰ることにした。
【夜】
「あのね、今日は光魔法のライトが使えるようになったんよ!ダンスも大変だけど先生が初めて上手くなってるって言ってくれたの!」
いつもと同じようにリーゼはその日にあったことを言ってくる
「そうか、それは良かったな」
「うん!」
それから1時間くらい話し、彼女はもう眠くなったようで寝た。
「じゃあな、リーゼ。半年しか一緒にいなかったが、まあまあ楽しめたぜ。俺は人間になんとしてもなりたい。こんな可愛い姿じゃ、彼女もできないし、飯も食えない。だから俺は少しでも手掛かりを手に入れるために出ていく。リーゼも頑張れよ」
もう寝ているリーゼに俺はそう言い、窓から出て行った。
【一週間後】
「何にも手掛かりがねー!」
俺は見た目がクマのぬいぐるみのため、なかなか人が多いところは歩けず、行動するのは常に夜だった。
「はーーー、最悪だ。だが、絶対に諦めないぞ!!」
「おーい、大変だ!」
そう意気込んでいるとある男が、街の中央に向かって走りながら叫んでいる
「領主様の御子様が盗賊に捕まったらしい!」
「なんだって!」
慌てて口を抑えるが余りにも衝撃な為に声に出てしまった。リーゼが捕まった?なぜだ?
考えても何も答えが出ない。
それよりも今は助けに行くことが最優先だ。すぐにサーチの魔法を使う。サーチというのは探しものがどこにあるか分かるというすごく便利な魔法だ。
「よし、どこにいるかは分かった。待ってろよ、リーゼ!」
俺は急いでリーゼがいるはずの場所に向かった。
「ここにいるはずだ」
そこは古びた家だった
俺は勢いよくドアを開け、叫ぶ。
「さあ、かわいいクマさんのお通りだ!」
盗賊は三人いたが、突然のことで油断しているうちに一人は眠らせた。
「一体どういうことだ!?」
状況が掴めていない様子で盗賊Aは叫ぶ
「なんでぬいぐるみが喋ってんだ?」
盗賊Bも疑問を投げつけてくる
やれやれ、答えてやるとするか
「みて分からないのか?モフモフのクマさんが仲間を助けに来ただけだよ!」盗賊どもの質問に答えると同時に俺は盗賊どもに突っ込む。相手がぬいぐるみが動いてることに動揺したおかげで簡単に制圧できた。
盗賊は後にこの時の出来事をモフモフの悪魔の顕在というのであった
そしてリーゼを見つけるために呼びかける
「おーい、リーゼ。どこだー。聞こえてたら返事してくれ」
返事がないようなので手当たり次第に部屋を探すと1番奥の部屋で寝ているようだ。全く、心配させやがって
「リーゼ、起きろ。さっさと家に送ってやるから」
「う、う〜ん?」
まだ寝ぼけているようだ
「あっクロちゃん‼︎どうしていなくなったの?いなくなって寂しかったんだから。グスン」
そう言って泣き始めてしまった。
「悪い悪い。俺もずっといられる訳じゃないからな。そんなことよりもどうしてこいつらに捕まってたんだ?」
「グスン、クロちゃんがいなくなったから探しに街に出たの。そしたらいつの間にか怖い人たちに袋に入れられてここに連れてこられたの」
そうか。俺を探しに行ったせいでこんなことに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「怖かったな。だが安心しろ。もう少ししたら兵士が来るからな。リーゼはここにいろ」
「またクロちゃんどこか行っちゃうの?どこにも行かないで!ずっと一緒がいい!」
それはリーゼの心からの願いだった
はあ、俺は人間になりたいが、もうリーゼを危ない目にあわせたくないしな・・・・・・
「分かったよ。リーゼが立派になるまでは一緒にいてやる。その代わり俺のことは丁重に扱えよ?」
「うん!分かった!」
本当に俺が言ったことが理解できたのかは分からないがリーゼは泣いていたのが嘘のようにうれしそうに笑うのだった。しょうがない、しばらくは一緒にいるか
「じゃあ家に帰るか」
「うん!」
リーゼは俺を抱きしめ、帰路に着くのだった。まだまだ、ぬいぐるみ生活は続きそうである
案外、ぬいぐるみに転生も悪くないのかもな
(こころの中でほんとうにほんの少しだけそう思う俺であった)
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はじめまして。青甘です。
この作品は「カクヨム」でも掲載されています。読み切りの作品ですが、「なろう」または「カクヨム」にて、応援していただければ、連載版も書こうと思っています。