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8.「……矛盾していますよね、そのお言葉」

 ☆★☆


 ドロシーがルーシャンと初対面した日の翌週。ドロシーはルーシャンに会いに王城を訪れる準備をしていた。いつものようにリリーにドレスを着せてもらい、髪の毛もセットしてもらう。


 本日のドロシーの装いは、薄い紫色のシンプルなドレス。金色の髪は緩くウェーブをかけており、いつもよりもふわふわとしている。髪の毛にはドレスと同じ紫色の髪飾りを付けており、今のドロシーは「女神」とも称えられそうなほど輝いていた。


「さて、行こうかしら」


 そんな自分の姿を姿見で見つめ、数回頷いたドロシーはそうリリーに声をかける。これから、ルーシャンと会う日は決まってリリーを連れていくことにした。別に、特別な理由などない。ただ単に、一人で会うのが嫌だったというだけである。我ながら自分勝手かとも思うが、ドロシーは生粋の侯爵令嬢、つまりは高位貴族。これぐらいのわがままは許される……だろう。


「はい、お嬢様」


 それに、リリーはドロシーの言葉を拒否したりしない。リリー自身も、なんだかんだ言ってもルーシャンの容姿や性格が気になっているのだ。だからこそ、拒否する気もないのだろう。……もちろん、それ以外にも彼女には理由があるのだが。


「それにしても、こんなにも着飾る必要はあるのかしら? もうちょっと地味でも……」

「いえ、お嬢様。せっかくルーシャン殿下にお会いするのですから、お嬢様のお美しさを思い知らせてやらなければ、私の気が済みません!」

「……そう」


 リリーの熱弁に、ドロシーは適当に返事をする。ドロシーの容姿は絶世の美貌だが、本人はいまいち自らの容姿に興味がない。ドロシーのおしゃれのモットー。それは、「無理のない程度に」である。つまり、髪の毛をゴテゴテに巻いたり、コルセットをぎゅうぎゅうに締め付けたりするのはそのモットーに反する。そもそも、元よりドロシーはそのままでも素晴らしい体型なのだ。


「さて、リリー。婚姻から三か月経っているけれど、結婚生活一日目に挑みましょうか!」

「……矛盾していますよね、そのお言葉」


 婚姻から三か月経っているのに、結婚生活一日目とはなんと矛盾した言葉だろうか。そう思いながら、リリーは自室を出て「行くわよ」ともう一度声をかけてくるドロシーに続いた。ドロシーの歩き方はとても美しく、いつも見慣れている使用人でさえ感嘆のため息を零すくらいだ。


 幼少期は「ハートフィールド侯爵家の天使」とたたえられ、成長すれば「ハートフィールド侯爵家の女神」と称されるその容姿と仕草は、数多くの人間を、特に男性を魅了してきた。まぁ、その所為でドロシー自身はすっかり男性が苦手になってしまったのだが。


「さて、何を話せばいいのかしらねぇ。話題を探すのに、疲れちゃいそう」

「さようでございますね」


 馬車に乗り込み、ドロシーは「はぁ」とため息をついてそんなことをぼやく。初対面に近い男性と、どう会話をすればいいかがドロシーには分からなかった。今まで、男性を遠ざけてきた。そのつけが、今更になって回ってきたのだろうか。そんなことを思いながら、ドロシーはリリーに「どうすればいいと思う?」なんて問いかけた。リリーに答えを求めても、意味などあまりないということくらいドロシーだって知っている。しかし、リリーの方がまだ男性との会話に慣れているはずだ。そう、ドロシーは判断した。


「……どうせならば、お嬢様のお話をすればいいと思いますよ。例えば……ポーションのお話とか」

「それ、楽しいかしら?」


 ドロシーは知っている。興味ないことを延々と聞かされることの辛さを。一時期、ドロシーに言い寄ってきていた高位貴族の男性は、いかに自身が優れているかを語ってきた。だが、ドロシーは男性のスペックなど興味がなかった。高位貴族だろうが下位貴族だろうが、自らの趣味と特徴を認めてくれる人が良かったのだ。……あと、深くかかわってこない人。


「まぁ、そうですね。ですが、一度お話をしてみるのもいいかと思います」

「……そう言うもの?」

「えぇ、興味があれば乗ってくださると思いますよ」


 リリーのその言葉を真面目に聞きながら、ドロシーは「じゃあ、一度お話してみるわ」とだけ返した。どうせ、数時間の辛抱だ。数時間を過ぎれば……いつもの日常に戻ることが出来る。


「あと、帰ったら依頼されているポーションも作成しなくちゃいけないわね。材料の在庫も、チェックしておかなくちゃ」


 そして、ドロシーはそうつぶやいて「ふわぁ」と大きくあくびをした。昨日も依頼されたポーションを作っていたのだ。徹夜は肌に悪いと母や侍女たちが嘆くが、ドロシーは構わない。何故ならば……ドロシーは、自らの容姿よりも調合が、趣味の方が大切だから。


 こうして、ドロシーとリリーは馬車に揺られながらルーシャンの待つ王城に向かっていた。

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