21.「これくらいで恥ずかしがるなんてこと、ないですからっ……!」
今後は少し更新遅くなります。
週に1度は更新したいなぁ……。
そっと視線を逸らす。これ以上、ルーシャンの顔を見つめていられなかった。
「……その男に、嫉妬している。それは、間違いない」
続けられた言葉に対する正解の反応は、なんなのだろうか。
調合ならば簡単に答えが出る。もしくは、繰り返していけば正解はおのずと出てくる。
だが、人との会話はそうはいかない。一度失敗すればそこで終わり。もう一度同じ場面を……ということには、出来ない。
(こ、こういうときにする、正解の反応って……?)
頭の中がぐるぐると回るような感覚だった。俯いて唇を震わせていれば、ルーシャンの手がドロシーの頬に触れた。
何処となく冷たい指先だと思った。自然と、顔を上げる。
「……どうして、恋ってままならないんだろうな」
彼が小さくそう呟いたのが、聞こえてきた。
『恋』
その単語に、ドロシーはいたたまれなくなる。視線を逸らそうとするのに、ルーシャンから視線が逸らせない。
じっと彼と見つめ合う形になって、なんとも言えない時間が過ぎていく。
「一つだけ聞く。……ドロシーは、俺のことが嫌いか?」
いきなりの問いかけに、上手く反応できなかった。
(ルーシャン様のことが嫌いかどうか、なんて……)
確かに初めの頃は。嫌いだって思っていた。自分勝手な王子だと、思ったものだ。
けれど、今はどうなのだろうか? 一緒にいる時間も、少しずつ長くなって。心地いいと思い始めて。
(嫌いって、言い切れない……)
これが絆されているということなのか。
それだけを思いつつ、ドロシーはルーシャンの目を見つめる。吸い込まれそうなほどに美しい目が、自分だけを映している。……案外、悪くないのかもしれない。胸の中に、そんなことが思い浮かんだ。
「……嫌い、か、どうか、なんて」
「……あぁ」
小さく口を開く。声は震えていた。
「そ、そもそも、嫌い、だったら……」
頭の中がパンクして、上手く言葉が紡げない。
このままだと、下手なことを口走ってしまいそうだ。頭の中で警告が鳴って、シンプルな言葉に置き換えようとする。
「嫌いだったら、さっさと追い出していますっ!」
結果、完全に墓穴を掘ったような形になってしまった。
嫌いだったらさっさと追い出している。それすなわち、ドロシーはルーシャンを嫌ってはいないということを伝えている。
(い、いいえ、好きだって言っていないだけ、まだマシだわ……!)
そもそも、ドロシーはルーシャンのことが好きか嫌いかで問われても、上手く答えに出来ないような感情を抱いている。
嫌いとは言い切れないけれど、好きじゃない。もどかしく、微妙な感情だ。
「……そうか」
ルーシャンがそう言葉を呟く。その言葉には、からかいの意味なんてちっともない。喜んでいる様子も、悲しんでいる様子もない。ただ、ほっとしているような声音だった。
心臓が、締め付けられるような感覚に陥る。
「嫌いと言われないだけ、まだマシだろうな」
「……き、嫌いと言い切れないだけで、好きとは言っていません……!」
はっきりとそう告げる。が、顔が熱い。もしかしたら、自分の顔は真っ赤になっているかもしれない。
……こんな状態でそう言っても、説得力など皆無だろう。それは、ドロシーにも分かる。
「知っている。……けど、今はそれでいい」
ルーシャンがはっきりとそう言って、ドロシーの頬に触れる指を移動させ、肩に触れる。
かと思えば、そのまま自身のほうに引き寄せた。
(……は?)
気が付けば、ドロシーはルーシャンに抱きしめられる体勢になっていた。それに気が付いて、目をぱちぱちと瞬かせる。
(え、ちょ、これ、どういう状況……?)
意味が分からなくて、きょとんとしてしまう。さらに顔に熱が溜まるような感覚だった。
「なんだ、ドロシー。……恥ずかしいのか?」
ルーシャンにそう問いかけられて、かちんと来てしまった。その所為で「全然!」と言葉を返してしまう。
「これくらいで恥ずかしがるなんてこと、ないですからっ……!」
嘘だった。実際は恥ずかしいし、いたたまれない。でも、この男に隙なんて見せたら最後、一生ネタにされる。
(……一生ネタに、って)
なんだか、それだと自分がルーシャンと一生を添い遂げるみたいじゃないか。
自分の気持ちの変化に気が付きつつ、ドロシーは狼狽える。どうすればいいか、わからなくなる。
「……あ、あの、ちょ、えぇっと」
それに気が付いて、意味が分からなくなって。頭の中がぐちゃぐちゃになって、ドロシーの口から意味のない声が零れる。
目の前がぐるぐるとするような感覚だ。身体も何処となく熱くて、自分が自分じゃないみたいで――。
(こ、ここここ、これは一体どういう気持ちなの――!?)
自分の気持ちがちっともわからなくて、頭から湯気が出てしまいそうだった。
自分は賢い部類だと思っていた。なのに、恋愛感情がちっともわからない。そりゃそうだ。ドロシーの恋愛経験値はゼロ……むしろ、マイナスなのだから。
(男性が嫌いすぎて遠ざけていたのが、完全に裏目に出てる……!)
だから、きっと。この状況に、頭がついていかないのだ。ドロシーは、そう思うことで冷静さを取り戻そうとした。




