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17.「……けどまぁ、気に入ったわ」

 ☆★☆


「……で、あなたは私に弟子入り希望と」


 時は少しは遡り、屋敷の応接間にて。ドロシーはいきなり訪ねてきた青年と向き合っていた。


 彼はさらりとした緑色の髪の毛をしていた。おっとりとして見える目の色も、髪と同じ緑色。何処となく幼く見える顔立ちだが、体格などからして年齢は十八歳前後だろうか。


「はい」


 青年がドロシーの言葉に力強く頷く。


 正直、こういう話が来ること自体は初めてじゃない。けれど、屋敷に押しかけてくる人物は初めてだった。


 大体の人物はまず手紙でアポを取ろうとするのだ。……まぁ、ドロシーは弟子入り志願を蹴り飛ばしてきたので、話をしたことはないが。


「いきなり来て、無礼だということは重々承知の上です。申し訳ございませんでした」


 青年がソファーに座ったまま、深々と頭を下げる。……こう言われたら、今すぐに追い出すことも出来そうにない。


 それに、そもそも。彼の話を聞くと決めたのは、ドロシーなのだから。


「……とりあえず、お名前と年齢。志望動機を、教えて頂戴」


 仏頂面のまま、ドロシーはそう言う。


 志望動機を聞いておけば、断る際にやりやすいだろう。そう考えた。


「……僕は、クルト・エーメリーと言います。年齢は十七歳」

「……ふぅん」


 思った通り、十八歳前後だったようだ。


 そんなことを考えつつ、ドロシーは紅茶の入ったカップを手に取る。そのまま口に運んで、彼――クルトの言葉を待つ。


「志望動機なんですけれど……」

「……えぇ」

「僕、ドロシー様の薬師としての腕に、惚れこんだんです」


 まっすぐにドロシーの目を見て、クルトはそう言い切った。


 その言葉に、ドロシーは目を見開く。


「あなたさまは魔物退治の際にいろいろなことをされていたと聞いております。……あなたさまの側でならば、僕はやりたいことが出来る。……そう、思うのです」


 真剣な訴えだ。……それに、薬師としての腕に惚れこんだという言葉は、嫌じゃない。


(容姿を褒められるよりも、ずっといいわ。……耳に馴染む)


 今まで散々褒め言葉は並べられてきたが、こういう薬師としての腕を褒められることは滅多になかった。最近では魔物退治の功績から口にされることも出てきたが、それでもやはりおべっかはわかってしまうのだ。


(私のことを利用しようとしている真意は丸見えだったものね。……けど)


 でも、どうしてだろうか。クルトには、そういう考えが見えない。


 ただ純粋に、彼はドロシーの弟子になりたいと。そう、言っているようだった。


「……やりたいことって?」


 あと、気になったことを問いかけた。


 彼はドロシーのその問いかけを聞いて、息を呑む。もしかしたら、答えにくいことなのかもしれない。


「……病で亡くなる人を、一人でも減らしたいから、です」


 しばらくして、今にも消え入りそうなほどに小さな声で彼はそう言った。


 なんと言えばいいのだろうか。当たり障りのない言葉だと思う。けれど、どちらかと言えばそれは志望動機なのではないだろうか。


(なんていうか、訳ありっぽい)


 自身の唇を指でなぞって、ドロシーはクルトのことを観察する。


 身なりは別に悪くない。生活に困窮している様子もない。ただあえて言うのならば、少しやせているくらいだろうか。


(やせ方として、あまりいいやせ方じゃない)


 目を閉じて、少し思考回路を動かす。


(……もしも、私が弟子を取ると言ったら、ルーシャン様はどういう反応をされるかしら?)


 そして、ふとそう思ってしまった。


 彼はドロシーが弟子を取ることに反対はしない……と、思う。だって、彼はドロシーのやりたいことを尊重してくれる人だからだ。ひねくれては、いるけれど。


「お願いします。薬師としての修行は、どんなに厳しくてもやり遂げます。それ以外でも、あなたさまの役に立ちます」


 それ以外でも役に立つなんて、どういうつもりなのだろうか。


 まさか、使用人のように働くとでも言いたいのだろうか。……生憎、ハートフィールド侯爵家には一流の使用人がたくさんいるのだ。彼のような新人の出る幕はない。


「……それ以外で役に立つって、どういうつもり?」


 意地の悪い質問だとわかっていた。だけど、口からそんな言葉が出る。


 クルトは視線を彷徨わせつつも、「……ほら、えぇっと」となにか言葉を紡ごうともごもごと口を動かしていた。


 ……あぁ、なんだかおかしい。


「ハートフィールド侯爵家は困窮していない。別に、あなたの力なんて必要ないわ」

「そう、ですよね……」


 自身の発言が軽率だとわかったのだろう。クルトが視線を下げる。素直な青年だと思った。


 ドロシーやルーシャンとは、全然違うタイプだ。


「……けどまぁ、気に入ったわ」


 その心意気も、後先考えずに発言する軽率さも。……なによりも、必死なのが伝わってくる。


「私の知識を、あなたに与える。だけど、覚悟しておいて。……私、調合に関しては妥協もしないし手加減もしない。逃げ出すならば、今のうちよ?」

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