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16.「父上や母上は、お前の幸せを願っているよ」

 俯いて唇をかむ。そんなルーシャンを見たためか、パーシヴァルは脚を組みなおす。ちらりと見て、思う。我が兄ながら、憎たらしいほどに脚が長いな、と。


「……反論は」


 パーシヴァルがそう問いかけてくる。……なにも言えなかった。


 本当は反論してやりたい気持ちしか、ルーシャンの中にはない。けれど、パーシヴァルの言っている可能性になるほうが高いのかもしれない。頭の中で天秤がグラグラと揺れる。


(ドロシーを惚れさせる自信は、俺なりにはあるつもりだ。……かといって)


 その通りになるとは、限らない。


 万が一という可能性だってあるし、パーシヴァルがこう言った以上、ドロシーがその言葉を呑む可能性だってある。彼女は芯の強い人だけれど、王太子に逆らう気力まであるかと問われれば、答えはまた違う。


「……まぁ、ゆっくりと考えておけ」

「……えぇ」


 兄の言葉に、それしか返せなかった。ぎゅっと手のひらを握れば、パーシヴァルは立ち上がる。そのまま、窓のほうへと足を向けた。


「別に、俺はお前を虐めたいわけじゃない」


 なにも返せなかった。いや、違う。口を閉じていないと、兄に「勝手にことを決めるな」と罵倒してしまいそうだった。


 だから、わざとなにも返さない。パーシヴァルも、それは薄々感じ取っているのだろう。ふっと口元を緩めていた。


「もちろんだが、お前にもチャンスをやる」

「……チャンス?」

「離縁を避けるための、ラストチャンスだ」


 パーシヴァルがこちらを見て、そう告げてくる。……一体、彼はルーシャンになにを望んでいるのか。それが全く、わからない。


 ごくりと息を呑めば、パーシヴァルは憎たらしいほどにきれいな笑みを浮かべていた。


「離縁を避けたければ、今から半年以内に妻を連れて俺に抗議に来い。……双方の中で結婚生活を続ける意思があるとみなし、この命令を取り下げる」

「……そう、ですか」

「ただし、来なかった場合離縁は確定。それから半年以内に離縁させる」


 ともなれば、結婚生活は最短であと一年といったところだろうか。……なんだか、不思議な気分だ。


(初めは離縁したかったのにな)


 あんな憎たらしくて、口が減らなくて。健気の言葉の一文字もなくて。でも、なんだか彼女には魅力があった。


 薬学が大好きで、好きなことを語るときは饒舌になる。悪態をつきつつも、ルーシャンの看病だってしてくれた。自分が後悔しないためだと言っていたような気もするが、それはまぁ別にいいだろう。


「……お話は、これだけでございましょうか?」


 震える声を抑えて、パーシヴァルに声をかける。彼は、こくんと首を縦に振っていた。


「父上や母上は、お前の幸せを願っているよ」


 扉のほうに振り返ったとき、パーシヴァルがそう呟いた。……振り返らずに、ただ足を止めて彼の言葉を待つ。


「だから、無理に離縁させたりはしないだろう。……けど、俺はそうはいかない。国益とか、いろいろなことを考えるとこのまま放っておくのは得策じゃない」


 それは、きっと。王家の血を残すとか、そういうことなのだろう。


(現在この国で濃い王家の血を引くのは、俺たち兄弟だけ。……そうも、なってしまうな)


 父であるスペンサーも三兄弟だが、末の弟は他国の王族に婿入りしている。もう一人の弟は自国の有力貴族と結婚しつつも、子供がいない。なんでも、出来にくい体質らしい。それでも、彼は離縁しない。……きっと、心の底から妻を愛しているのだろう。度々見る叔父は、いつだって幸せそうだった。


「……承知、しておりますよ」


 小さな声でそう返す。……むしろ、それしか返せなかった。


 だから、すたすたと歩いて部屋を出ていく。扉を閉めて、「ふぅ」と息を吐いた。


(大体、兄上は横暴なんだ)


 王家の益を求めるがあまり、周囲が見えなくなる人だとは思っていた。国の発展を求めるがあまり、自分の感情なんて押し殺してしまおうとする人だとは理解していた。


 けれど、まさか。……自分が悪者になろうとも、国の益を求めようとするなんて。


(想像以上に、兄上は王に向いているのかもしれない)


 自分が王太子だったとして、兄と同じように振る舞える自信なんてない。あの兄の肩には、次期王という重荷がのしかかっている。なのに、あの人は平気なふりをする。弱みなんて絶対に人には見せない。


 ……それが、たとえ誰かを傷つけていたとしても。


(まぁ、それはどうでもいい。……そこは、兄上とその婚約者の問題だ)


 とりあえず、今は人のことよりも。……自分のことを、考えよう。そう思って、ハートフィールド侯爵家に帰ったのだが。


「ルーシャン様、私、弟子を取ることにしました」


 開口一番、見知らぬ人間を見つめてそう言うドロシーに、若干どころかかなり腹が立った。

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