14.「はぁ、まぁ、いいです。……めちゃくちゃ今更なんですけれどね」
日曜日の夜から体調崩してまして、予約間に合ってませんでした。すみません汗
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時を少し遡って、ネイピア王国の王城。
豪華絢爛という言葉が似合いそうな廊下を、ルーシャンは我が物顔で歩いていた。その後ろには、いつものようにひっそりとダニエルが控えている。
ちらりと見つめる内装は、ルーシャンがここに住んでいた頃と全く変わっていない。
そりゃそうだ。引っ越してから、そこまで日付は経っていないのだから。
(……それにしても、兄上は一体)
兄である王太子パーシヴァルが突拍子もない行動を取るのは、割といつものことだ。その奔放さはきっと父スペンサー譲りのもの。もちろんというべきか、その突拍子もない行動はスペンサーに比べればなんてことない。
いつだっただろうか。祖父母がそう言っていた。
(まぁ、それは息子と孫で、違う視点から見ていたからだろうけれど。……自分の子供よりも孫に甘くなるのは、よくあることのようだし)
そう思いつつ、廊下を歩く。
途中王城の使用人たちとすれ違い、軽く挨拶を交わす。もちろん、男性の使用人にだけだ。
メイドや侍女に挨拶をすると、こじれる。今までの経験から、それは容易に想像がつく。
「ところで、ルーシャン様」
ふと、後ろからダニエルが声をかけてくる。そちらに視線を向ければ、彼は少し気まずそうに頬を掻いていた。
……一体、なんだというのだろうか。
「どうした」
「いえ、差し出がましいことを言うようなのですが」
「差し出がましいのならば言うな」
ダニエルの言葉を蹴り飛ばせば、ダニエルが露骨にため息をついたのがわかった。
いつも思うがこの従者は主に対する敬意が足りないような気がする。……まぁ、今更敬意たっぷりで接されれば、不気味だと言って蹴り飛ばすのだろうが。
「……本当に、ルーシャン様はひねくれておりますね」
「そうだな。そして、お前は主に対する敬意が足りない」
歩きながらそんな言葉を交わす。ダニエルは表情を歪めるものの、本気で嫌がってはいない。大方、主との戯れを楽しんでいるのだろう。
「そもそも、俺が敬意たっぷりに接したら、怖いでしょう」
「あぁ、そうだな。……明日の天気は槍が降るのかと思う」
「だったら、勘弁してください」
そこまで言うと、ダニエルは額を押さえた。頭が痛いのだろうか。
「なんだ、頭痛でもするのか? だったら、ドロシーに薬でも調合してもらうか?」
「……ルーシャン様がもう少し素直になられたら、俺の頭痛はなくなります」
「そうか。それは死ぬまで無理な相談だ」
ルーシャンは自分の性質をよくわかっている。そして、このひねくれた性格が生粋のものであり、今更治せるものではないことも。
多分、遺伝子に刻み込まれているのだろう。それは、自分でもよくわかる。
(ということは、あのドロシーのツンツンもそうなのか。……なんだ、可愛いじゃないか)
自分の言動一つで顔を赤くしたり、蒼くしたり。かと思えば、いきなり怒りだしたり。情緒不安定とも取れるが、ドロシーは異性に免疫があまりない。だから、あぁなるのもある意味納得できる。
それに、そもそもだ。
(ドロシーの表情が俺の所為で忙しなく動き回るのは、悪くない)
ルーシャン自身のことで表情が動き回るのは、案外悪くない。だって、そのときはドロシーの頭の中をルーシャンが支配しているということになるから。……まったく、本当にひねくれている。自分でも、驚くほどだ。
「で、その差し出がましい言葉を聞いてやろうじゃないか」
「……俺は今、ルーシャン様を猛烈に殴りたくなりました」
「なにを今更」
度々ダニエルはルーシャンにこういう言葉をぶつけてくるが、本気だったことは一度もない。そのため、多少なりとも無礼な言動は許している。というか、ダニエル以上の腹心などこの世に存在しないと思っているのも、ある。
「はぁ、まぁ、いいです。……めちゃくちゃ今更なんですけれどね」
「……あぁ」
「ルーシャン様の肩に、薬草のくずがついております」
……一秒、二秒、三秒。
「ダニエル。そんなこと一々言わなくていい。はたけ」
「いや、面白かったので」
「……こいつ」
真顔で淡々とそんな言葉を口にするダニエルに、一種の殺意が湧いた。
「だって、今までのルーシャン様ならばあり得ないことじゃないですか。……いやぁ、変わられたなぁって」
「これはただの偶然だ」
「……そんなに、ドロシー様と一緒に居たいですか?」
……なにも言えなかった。無言でダニエルを睨みつければ、ダニエルは口元を緩めて笑う。まるで、手のかかる弟を見る兄のようにも見える目だ。
「最近、ルーシャン様は度々薬草のくずやら粉やらをつけております。薬学の本だって、とても真剣に読まれて……」
「黙れ」
「……ドロシー様と、会話が合うといいですね」
「本当にお前はお節介だ」
視線を逸らして、そう呟く。
正直なところ、薬学に興味があるわけじゃない。ただ、ドロシーと同じ話題を共有したい。その一心で、薬学をかじっている。
「お前は俺のなんなんだ」
照れ隠しとばかりにダニエルにそう吐き捨てれば、ダニエルは笑った。
「俺は、ルーシャン様の従者です。あなたさまの幸せを誰よりも願っている使用人だと、自負しておりますよ」
あのとき、ダニエルを拾ったのは本当に気まぐれだった。自分の世話役にしようと思ったのは、思い付き。
「……勝手にしろ」
そうとしか、言えなかった。プイっと顔を背けて、歩を進める。ルーシャンの耳は、微かに赤くなっていた。




