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3.「いや、ドロシー嬢とハートフィールド侯爵に少し話があってね」

「おほほほ、誰がそんなことをいうものですか」


 ルーシャンの姿を見つめ、ドロシーは背筋を正して笑いながらそう言う。その笑みも言葉もとてもわざとらしく、ドロシーを引きずっていたリリーが「ぷっ」と噴き出すほどだった。


「そうだね。ましてや妻が夫を悪く言うなんて……ありえないよね」

「そうでございますわ」


 これまたわざとらしいお嬢様口調に、リリーが肩を震わせている。そんな彼女を恨めしく思いつつも、ドロシーは「それで、何の用事ですか?」と芝居のような口調を止め直球に問いかける。


「いや、ドロシー嬢とハートフィールド侯爵に少し話があってね」

「……はぁ」


 ドロシーはともかく、父に用とは何なのだろうか。そう思い頭上に疑問符を浮かべていれば、ルーシャンは「行こうか。侯爵はすでに待ってくれている」という。……どうやら、ドロシーを迎えに来たらしい。


「……ったく、面倒だわ」


 ボソッとそう呟いた言葉はルーシャンにしっかりと聞こえていたのだろう。彼は「ドロシー嬢、何かを言ったかな?」とこれまたきれいな笑みを浮かべて問いかけてくる。全く、これまた性質の悪い王子殿下だ。そう思い舌打ちしてしまいそうな気持ちを押しとどめ、ドロシーはルーシャンに連れられ父が待つという応接間に向かう。


「ところで、どうしてルーシャン殿下は私のことを迎えに来たのですか?」


 引きつる頬を隠すことなくドロシーはルーシャンにそう問いかける。すると、彼は「俺の手を煩わせて、悪いとは思わないのかな」とそのきれいな顔に笑みを浮かべながら逆に問いかけてくる。だからこそ、ドロシーは「ぜーんぜん!」と言っておいた。


「そもそも、アポなしで突撃してくる方が常識知らずですからね!」

「……まぁ、そりゃそうだけれどさ」


 そんな軽口をたたき合っていると、不意にルーシャンの視線がドロシー自身にやたらと注がれていることに気が付く。それを疑問に思いつつも、ドロシーが「私の顔に、何かついていますか?」と尋ねてみる。すると、ルーシャンの指がドロシーの顔に伸びてきて――その目元の隈をなぞる。


「また徹夜か何かしたんだ」


 彼は何でもない風にそう言う。


「無理は禁物だ。……そんなになるまで仕事を詰め込むな」


 彼としては珍しい厳しめの口調だった。


 しかし、ルーシャンは商売の大切さをまるでわかっていない。そう思いむっとしてしまったドロシーは、気丈に言い返す。


「商売は時期が大切なのでございます。いい流れの時にたくさん仕事を取っておくことが、大切なのです!」

「……そう」

「ルーシャン殿下は商売をされたことがないからそう思われるのです」

「……普通の貴族令嬢は商売なんてしないけれどね?」


 そう言われてしまえば、もう言い返せない。


 全く、ルーシャンはやっぱりひねくれている。ドロシーに抗議が出来ないようにしてしまうのだから。……完全に言い負かされているということは、認めたくなかった。


「ったく、そんなんだからそのきれいな美貌が台無しなんだよ」

「あら、ルーシャン殿下もそのひねくれた性格で美貌が台無しですわよ?」

「本当に減らず口だ」

「そちらこそ」


 そんな言葉を投げつけ合いながら、ドロシーとルーシャンは応接間へと向かって歩く。後ろではダニエルとリリーが苦笑を浮かべながら二人を見守っていた。それに二人が気がつくことは、ない。


「なんて言いますか、うちの主がすみません……」

「いえ、殿下も大概なので。殿下はドロシー様をからかって遊ばれていますので」


 後ろでそんな会話がされているとも知らないドロシーとルーシャンは、顔に笑みをたたえて言葉の殴り合いを続ける。


 大層な美貌を持つ二人の笑みは周囲の人間をくらくらとさせてしまう。その証拠に、近くを通ったハートフィールド侯爵家のメイドの一人がくらりとしてしまった。


 ……彼女の意識が容姿に行って、会話の内容が聞こえていなかったのは不幸中の幸いとしか言いようがない。


「本当に減らず口。俺は王子なんだけれど?」

「あらあら、ルーシャン殿下とて侯爵令嬢を蔑ろにすることは許されませんわよ?」

「わざとらしく身分を出してくるね」

「結婚して三ヶ月会おうとしなかったのはどちら様でしょうねぇ」


 ころころと笑いながらドロシーがそのことを出せば、ルーシャンは少し気まずそうに頬を掻いていた。やはり、彼としてもそのことを出されるといろいろと思ってしまうことがあるらしい。


 そんなことを話していれば、ハートフィールド侯爵家の応接間へとたどり着く。ドロシーが扉をノックし声をかければ、中から「いいよ」という声が聞こえてきた。


「お父様……って、あら、お母様もご一緒なのね」

「えぇ、ルーシャン殿下にぜひと言われたら、断る意味もないわ」


 父の隣にいる母に驚きつつも、ドロシーはソファーに腰を下ろす。その後、ルーシャンがソファーに腰を下ろした。


「さて、今日はちょっと重要なお話がありまして……わざわざ時間を作っていただきました」


 よそ行きの笑みを顔に浮かべ、わざとらしくルーシャンがそう言う。その所為で、ドロシーは「ぷっ」と噴き出してしまった。……ちなみに、その所為で思いきりルーシャンに足を踏みつけられた。

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