1.「だ、だって、そう言うしかないじゃないぃ……!」
ほかサイトさまからかなり遅れましたが、第2部始めます。
一応30話ほどストックがありますので、私が予約をサボらなければ毎日更新されます
「何がどうして一体こうなってしまったのか……」
何度考えても答えなど出てこない。そんな不毛な問いかけに頭を悩ませること約一ヶ月。
侯爵令嬢ドロシー・ハートフィールドは寝台にある枕に顔をうずめつつ、一人うなっていた。
ロゼア大陸にある大国ネイピア王国。そんな大国の名門侯爵家ハートフィールド家。それが、ドロシーの生まれた家である。
普通ならば社交に精を出すのが令嬢と言うものだ。しかし、ドロシーはその屈指の美貌の所為で人を苦手とし(特に男性)、それゆえに引きこもり生活を送ってきた。……半年とほんの少し前までは。
十ヶ月ほど前。ドロシーは結婚した。相手は同じく引きこもりの男性であり、名前はルーシャン・ネイピア。この王国の第二王子で、別名ひねくれ王子。そんな彼とは十二歳の時に婚約し、以降一度も顔を合わせることなく結婚した。
とはいっても、結婚して三ヶ月は彼に会うことが出来ず、毎日毎日王城に通う羽目に陥った。それがいわば脱・引きこもりだったのだろうが、ドロシーからすれば面倒なことこの上なかった。通い詰める理由も「薄情な妻だと思われないため」という何とも現実的な理由だったのも関係している。
そして、ドロシーは結婚して三ヶ月。ようやく夫となるルーシャンと対面することが出来た。
ようやく対面することが出来た彼は大層容姿が整っており、それこそドロシーの隣に並んでも見劣りしないほど。そんな彼に「離縁前提の結婚生活」を突きつけて、約七ヶ月。
ドロシーは史上最悪と言っても過言ではないピンチに陥っていた。
「お嬢様。もうあきらめましょうよ。今後は普通の夫婦らしい生活をしてくださるとおっしゃっているのですから……」
専属侍女のリリーにそう言われ、ドロシーは「あり得ないわよ!」と言いながら寝台から起き上がる。
その際にドロシーの長い金色の髪が揺れ、彼女のその紫色の目には苦悩の色が宿っていた。
「私はそれが嫌なのよ! あんな……あんなっ!」
――俺は、ドロシー嬢のことが好きだよ。だから――離縁したくない。
まっすぐに真摯にそう言われ、ドロシーも柄にもなく戸惑ってしまった。その記憶はいまだに鮮明に残っているし、ドロシーとて絶世の美貌の王子様に熱烈に愛を告げられ、胸キュンしないわけがない。
……だが、今まで拗らせ続けた男性嫌いというなの苦手意識。それが邪魔をしてドロシーはルーシャンの言葉に戸惑ってしまったのだ。
「……お嬢様もお嬢様ですよね。だったら私のことを惚れさせてみせなさい、なんておっしゃるなんて」
「だ、だって、そう言うしかないじゃないぃ……!」
リリーの言葉にドロシーはしどろもどろになりながらもそう答える。
ルーシャンに「好きだ」と言われたドロシーの回答は「だったら私のことを惚れさせてみせなさい」という可愛らしくないものだった。
けれど、ドロシーにとってそれが精いっぱいの言葉だったのだ。あの場で跳ね飛ばさないだけ、成長したと思ってほしい。ドロシーは自身に下心や恋心を持つ男性が特に苦手なのだ。
「ところで、本日はルーシャン殿下とお会いされたのですよね?」
「……えぇ、まぁ」
「何をお話されたのでしょうか?」
何でもない風にそう問いかけられ、ドロシーの顔がぶわっと赤く染まる。それを見たリリーが怪訝そうな表情を浮かべることも気にせず、ドロシーは「べ、別に何だっていいじゃない!」と言いながら寝台で毛布にくるまった。
「私は男性が嫌いよ! 特に、下心や恋心を持つ男性なんて絶対にぜーったいに受け入れないわ!」
「……はぁ」
「だから、ルーシャン殿下のことも受け入れないの!」
ぶんぶんと首を横に振りながらそう言うドロシーに対し、リリーは何処となく可哀想なものでも見るような目で見つめてくる。
「私はお嬢様が大層拗らせた方だということを、理解しました」
そっとそう告げ、リリーはランプを消す。最後に「お嬢様、おやすみなさいませ」とだけ告げると彼女はドロシーの私室を出て行く。
「おやすみ~」
覇気のない言葉でそう返事をし、ドロシーは寝台に横になる。
豪奢な天蓋を見つめながら、ドロシーは「……はぁ」と本日幾度目になるかわからないため息をついた。
「あり得ないわ。……本当に、ありえないんだからっ!」
ひねくれ王子とは名ばかりなのではないだろうか。少なくとも、ドロシーに愛(?)を告げてくるルーシャンの言葉はまっすぐなものばかりだ。その所為で……ドロシーは成す術もなく真っ赤になってしまう。
(けれど、私をからかって遊ばれているところは、ひねくれ王子っていう感じなのかもね……)
ルーシャンは真っ赤になったドロシーをからかうような言動もする。そう言うところは、そういうところは……まぁ、ひねくれ王子の名に相応しい……の、かも、と思わないこともない。
「あぁ、もうっ! 本当に嫌だわ……。私が男性のことでこんなにも悩むなんて……」
そう思いながらがーっと髪の毛を掻きむしりつつも、ドロシーは気持ちを切り替えた。とりあえず、眠ろう。寝不足は年頃の乙女にとっては大敵なのだ。……多分。




