48.「ドロシー様。……行きましょうか」
結局先に折れたのはダニエルの方だった。
そのため、ドロシーはダニエルの乗ってきた馬車に同乗させてもらい、王城へと向かう。
「皆様の傷の具合はどんな感じ?」
「大体の者が軽傷でございます。ルーシャン殿下が最も傷が深いということで……」
馬車の中でドロシーとダニエルが会話を交わす。内容は主に兵士や騎士、王子たちの怪我の具合の話だ。
「一応ポーションはたくさん作ってあるから、自由に使って頂戴。王妃様にもそこはお伝えしているけれど」
「かしこまりました」
ドロシーの言葉にダニエルが深々と頭を下げてそう言う。
そんな風にしていれば、馬車はあっという間に王城にたどり着いた。今日はいつもとは違い王城の裏手から入るということになっており、裏口の近くに馬車を止める。その近くにはたくさんの馬車や馬が止まっており、どうやら魔物退治の部隊が帰還しているようだ。
ダニエルが一足先に馬車を降り、ドロシーが降りるのを手助けしてくれる。そうしていれば、不意に近くにいた騎士の一人が「ダニエル」と声をかけてきた。
「……どうした、アベル」
「いや、殿下の方だけれど……傷がかなり深そうだ」
ゆるゆると首を横に振りながらアベルと呼ばれた騎士が悲痛な面持ちでダニエルに声をかけている。そのため、ドロシーは裏口から王城に入ろうとする。早く、一刻も早く。彼を治療しなければ。その意思で動いたのだが、後ろから「ドロシー様!」とダニエルに呼び止められてしまう。
「……なに?」
「少々お待ちください。アベル、殿下はどちらに?」
そういえば、ルーシャンが何処に運ばれたのか聞いていなかった。そう思いドロシーは自分が予想以上に焦っていることに気が付いた。思わず下唇をかみしめていれば、ダニエルは騎士からルーシャンの居場所を聞いたらしく、「行きましょうか」と言って王城に入るように促す。
「……ダニエル。ルーシャン殿下は、ご無事なの?」
不安を打ち消すようにダニエルにそう問えば、ダニエルは「……俺にも、詳しいことは」としか答えてくれない。
「ただ、アベルの口調からすればかなり危ない状態であることには間違いなさそうですね。今、医者が見てくれているようですが……」
何処となく重々しい口調でダニエルがそう言う。だからこそ、ドロシーは「……そう」と言うことしか出来ない。
薬師は治癒のスペシャリストである。が、相当傷が深い場合は医者の力も必要になる。傷口を縫合しなければ、根本的な解決にはならないためだ。
「……ルーシャン殿下」
ふと、ドロシーの口からはその名前が零れた。とても美しい美貌を持っている。性格はひねくれており、素直な部類ではない。結婚して三ヶ月ドロシーと会おうともしなかった。思い出せば出すほど――憎たらしい男。
(だから、私に一言謝罪くらいしてもらわなくちゃ、気が済まないのよ)
こんなに心配をかけて、今までの態度を謝ってもらわなくちゃドロシーの気が済まない。そう思い、ドロシーはダニエルに案内されルーシャンが運ばれたという彼の私室を目指す。
ルーシャンの私室の外はやたらと騒がしかった。王家お抱えの医者や侍従たちがせわしなく動き回り、ルーシャンの治癒に当たっているようだ。それをドロシーが一瞥していれば、ダニエルは「少々、よろしいでしょうか?」と医者に声をかける。
「あぁ、貴方は確か殿下の……」
「えぇ、専属従者のダニエルです。殿下の容体はどうなっておりますか?」
ダニエルが医者と会話をしている。その間、ドロシーは何もできなかった。ドロシーは薬師ではあるものの、医者ではない。医者の用語を聞いたところで何もできないのだから。
「ドロシー様。……行きましょうか」
それからしばらくして、ダニエルがドロシーに視線を向けてそう言ってくれる。なので、ドロシーは頷いた。しかし、医者が「待ってください」とそれを止める。
「そのお方は、どちら様でしょうか? 関係者以外は……」
医者がゆるゆると首を横に振りながら止めてくるためだろうか。ダニエルは「ルーシャン殿下の、奥様です」と凛とした声で告げる。
「それに合わせ、彼女は優秀な薬師です。なので、縫合が終わっているのならば彼女にも出来ることがあるかと」
医者の目をまっすぐに見つめ、ダニエルはそう言う。だからだろうか。医者は「……貴方が、そこまでおっしゃるのならば」と言ってくれる。
「ドロシー様。行きましょうか」
そう声をかけられ、ドロシーはこくんと首を縦に振る。そして、ダニエルに続いてルーシャンが休んでいるという私室に入っていく。
(……どうか、ご無事で)
そう思うのは、どうしてなのだろうか? やはり、未亡人になりたくないからなのだろうか? いや、それ以上にやはり――。
(謝罪、してもらわなくちゃ)
こんなにも心配をかけたこと。今までの態度。すべてについてを謝罪してもらわなくちゃ。ドロシーの気が済まないのだ。




