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45.「あんた、本当に最低ね」

 その仕草を見つめ、ドロシーは確証を持った。彼女は何かに関わっている。そう思い、ドロシーは不敵に笑う。


「貴女のしたことは、大罪よ。……このネイピア王国を危険に晒しているのだもの」


 ゆっくりとそう告げれば、エイリーンの青色の目が揺れた。その目を見つめ、ドロシーは「ふぅ」と息を吐く。その仕草を見たためか、エイリーンの肩がびくんと大きく跳ねた。……やはり、結界を壊したのは彼女なのか。


「どうして、そんなことをしたのかしら」


 表情を緩めることはせずにドロシーがそう問えば、彼女は「……だ、だって」と震える声で言葉を絞り出す。その青色の目はうるんでおり、今にも泣きだしそうだ。


 もしかしたら、こういう庇護欲をそそる女性が好きな男性ならば、この仕草に胸を打たれるのだろうか。まぁ、生憎ドロシーは女性であり、エイリーンの仕草に同情どころか殺意が芽生えているのだが。


「あ、貴女よりもわたくしの方が優れていると証明すれば……ルーシャン殿下も、わたくしを見てくれると思ったのよ……!」


 胸の前で手をぎゅっと握りしめ、エイリーンはそう言葉を紡ぐ。……つまり、恋に溺れた結果の哀れな犯行だということか。


 そう思い、ドロシーはゆっくりと立ち上がりエイリーンに近づいていく。


(身勝手にもほどがあるわね)


 内心でそう思い、ソファーに腰掛けるエイリーンのことを見下ろした。その紫色の目には、何の感情も宿っていない。ただ、あえて言うのならば……そうだ。怒りにも似たような表情が宿っている。


「……貴女、結界を壊してどういう風に私よりも優れていると証明するつもりだったのよ?」


 凛とした声でそう問えば、エイリーンは「わ、わたくしが魔物を退治する、もしくはもう一度結界を張りなおせば……」と震える声で告げる。


 ふざけるな。


 エイリーンの言葉に、ドロシーは内心でそう思いながら――その手を振りかぶりエイリーンの頬を思いきりぶった。


「――っ!」


 エイリーンの身体がソファーに倒れこむ。彼女は何が起きたのかわからず目をぱちぱちと瞬かせたかと思えば、次の瞬間にはドロシーを強くにらみつけていた。


「な、なにを――っ!」


 そう言おうとしたものの、エイリーンはすぐにハッとして息を呑む。……それほどまでに、ドロシーの表情は怒りに満ちていた。


「あんた、本当に最低ね」


 相手が公爵令嬢であり、自分よりも一応身分が高いことなどお構いなかった。静かな声でそう告げ、ドロシーはその場で踵を返す。


「自分の力を示すため? バカじゃないの? 自分の力を過信することが、破滅への一歩になるとどうして気が付かないの?」


 エイリーンに背を向けたままドロシーがそう続ける。エイリーンはただ俯きながら、ドロシーの言葉に耳を傾けていた。


「本当に考えなしの人間って大っ嫌いだわ。……そういうの、最大の身勝手ね」

「……そ、そんなの!」

「何? それとも、貴女は自分のことを相手にしないルーシャン殿下が悪いと、おっしゃるの?」


 エイリーンに視線を向けてそう問えば、エイリーンが息を呑むのがわかった。そのため、ドロシーは容赦なく続ける。


「そんな身勝手な理由で兵士や騎士、王子殿下方は魔物退治に駆り出されているのよ? ……少しは、罪悪感を抱かないの?」

「……」

「見事な責任転嫁ね。……そういうの、本当に最低だわ」


 そんな言葉をぶつけ終えると、ドロシーは部屋の扉を開けダニエルを呼ぶ。すると、彼はすぐにドロシーの元に駆けつけてくれた。


「エイリーン様が結界の破壊を認めたわ。兵士の元に連れて行って頂戴」

「……かしこまりました」


 ドロシーの言葉にダニエルは一瞬だけ驚いたように目を見開くものの、すぐにエイリーンの元に寄る。そして、「行きましょうか」と彼女に声をかけていた。


 エイリーンはドロシーの言葉が胸に突き刺さってしまったのか、ぼんやりとしながらダニエルに連れていかれる。


(犯人は確保したけれど……まだまだ、状態が安定しているとは言えないわね)


 やはり、結界を張り終えるまでは油断なんてできない。そう判断し、ドロシーは部隊の指揮を執るために元の部屋へと戻ろうと足を動かす。


「……ルーシャン殿下」


 そっと天井を見上げながら、ドロシーは彼の名前を呼ぶ。


(あんな風に身勝手な行動をされたら、そりゃあ女性嫌いにもなるってか)


 エイリーンはルーシャンに恋い焦がれるあまり暴走した。きっと、彼は幼少期からそういう女性を数多く見てきたのだろう。自分の容姿に狂わされる人間の姿を。


 そんなものを見続けていれば、自然と女性のことを嫌悪し引きこもりになる。……なんとなく、納得が出来たような気がした。


(私とはまた違った意味で、あのお方も大変だったのよね)


 ドロシーは幼少期から男性の欲望をまとったような視線を浴びせられてきた。だからこそ、男性のことが苦手になった。いつしか他者とのかかわりを捨て、引きこもるようになっていた。


(まぁ、帰ってきたら労いの言葉の一つくらいはかけてあげましょうか)


 内心でそう零し、ドロシーは部屋に戻るために歩く。


 優雅に、焦らずに。あくまでも――淑女らしく。

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